第17話「わたしのきもち」

 ランチには簡単に誘えた。

 志賀さんが私のことをどう思っているのかはわからないけど、そこまで私に対して悪い印象は持っていないのだろう。まぁ、今まで志賀さんのわがままに応えてきた。その結果を評価されているからかな?


 パスタ屋にて、志賀さんと向き合って食事をしている。

 事務所の外だから、もちろん私も志賀さんも私服。

 私と違って志賀さんはモデルさんだから服装のセンスがいい。自分をどう見せるかを熟知している。

 けど、それは表面だけだ。

 会話は少なめだ。主に、志賀さんが食べているパスタの感想だけだ。心無いおいしいを連呼しているだけ。

 あとは私の食事の量について。

 今日はかなり少なめだねと言われている。それもそうだ。腹を割って話そうと決めた時から、あまり食べられていない。そのせいか2キロほど体重が落ちた。

 志賀さんはゆっくり食べる。

 小皿に乗っているパスタを40分もかけて食べる。

 よく噛んで食べ終えたあと、志賀さんはサプリメントを摂取する。パスタで補えなかった栄養を取るために。モデルのお仕事をしているから身体のことをものすごく気をつけている。その努力はすごいとは思う。

 けど……。

 相槌を打ちながら、そんなことを考えていた。



 志賀さんが小皿を食べ終えたあと、本題に入る。


「志賀さん、こんなことを聞くのも難だけど……白焔さんとの試合、うまくいくと思う?」


 志賀さんはさも当然とでも言いたげな笑顔だ。

 自信があるのだろう。


「うまくいくと思うよ。私は強い。それに私の異能は白焔さんと正反対の異能、水は火に弱いでしょ? あと、白焔さんの戦い方については、どうせ両親とおんなじように戦うはずだから、シルバーサンとゴールドルナのビデオを見れば対策できるよ。古部さん、あまり深く考える必要はないんじゃないかな?」


 やっぱり自信たっぷりに答えてくれた。

 これは、酷いね。

 完全に白焔さんの足元を見ている。このままではよろしくない。その考え方で戦ったら負けるということを伝えないと。


「戦いで慢心してはいけないよ、志賀さん。相手はヒーローになってすぐにA級だとカテゴライズされた実力を持っている。1対2だからといって、楽観視しちゃダメだよ」


 結構、溜まっていたんだろうね。

 言葉がせきを切ったように出てくる。なんか、ものすごく腹が立ってきた。


「志賀さん、ヒーローなめてない? モデルのお仕事が忙しいのはわかる。けど、あなたはヒーローの仕事をしなさすぎだよね? 下級戦闘員を倒すお仕事は地味でつまらないかもしれないけど、いきなりスーパーヴィランと勝てると思ったら大間違えだよ。ヒーローは異能がものを言う世界じゃない、努力と経験がものを言う世界。その場のひらめきだけじゃ、デスフレアに勝てない。小さい積み重ねが大事」


 言ったあと、やってしまったという感覚に包まれる。胃がギュッと絞られて、今食べたパスタが外に飛び出そうだ。かなりのストレスを感じている。

 おそるおそる志賀さんの顔を見ることにした。

 そしたら、キツネのような笑顔がそこに。ゴクリとつばを飲んだ。


「それは誰の受け売りなの?」


 志賀さんは言った。

 それは――。


「事務所の先輩たちと父さんの受け売り」


 志賀さんの言いたいことはわかる。

 自分の言葉で言えと。薄っぺらい新人ヒーローが私に説教をするんじゃないよと。


「受け売りだから言葉に重みがないって言いたいんだね?」


 何も言わない志賀さん。

 それでも言うべきことは言っておこう。腹を割って話すと決めたのだから。


「最初から新人が重たいことを言えるわけないよ。それなら、先輩に説教してもらったほうがいい? なんなら私の父さんに説教してもらう? でもさ、もうみんなあなたのことを見限っている。みんなに説教してくださいと頼んでもさ、断られるのがオチだと思うけど」


 この人はわかっているのだろうか?

 でも、言っちゃえ。

 言わなきゃ、私の気持ちは伝わらない。


「わかっているかな? 志賀さん。あなたって結構危ない立場にいるってこと。白焔さんとの試合で、結果を残さないと事務所を退所させられちゃうよ。今のままだと、白焔さんにコテンパンにやられちゃう。それでもいいなら私はもうあなたに何も言わない。私はやるべきことをやるだけに徹する」


 言い切った。

 志賀さんは相変わらず笑顔のまま。でも、フォークを持つ手が震えている。怒ってるね、志賀さん。


「古部さん、やってもいないのになんでそんなことが言えるの?」


 みんなそう言っている、ではこの人に伝わらないだろう。

 私の言葉で言わなきゃね。

 人の受け売りだと言われてもさ。


「だって、志賀さん。あなた、努力してないじゃん。訓練を卒なくこなしているだけ。攻撃パターンもほとんど一緒。動きもあんまり変わっていないし、出会ったときとほとんど一緒。体力もそんなにないでしょ? すぐに息が切れている。影で努力をしているようには思えな――」


 テーブルを思い切り叩く志賀さん。店内が静まり返る。

 みんなこっちを振り向いた。

 眉間に深い縦じわが走り、眉が寄っている。完全に怒り心頭の状態だ。こんなになるのを見たのは初めてだ。


「……文句が、文句があるなら……文句があるなら勝負しろや、この親の七光りがぁ」


 静まり返るおしゃれなパスタやに放たれた怒号。びっくりしたが……うろたえてはいけない。うろたえてはいけない。

 私の答えは言うまでもない。


「わかった。帰ったらすぐやろう」

「わからせてやるよ。あたしがあんたよりも上ってことを」


 鬼のような形相をしている志賀さんがこう言った。

 別に恐怖心とかはなかった。今まで先輩たちや父さんに助けられながら、私は努力をしてきた。ずっと自分を着せ替え人形にして遊んできただけの志賀さんには絶対に負けない自信があった。

 今こそ、日ごろの成果を見せる時だ。

 でもその前に、お店に騒いじゃったことを謝って、会計をして事務所の格技場に行くとしよう。

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