第16話「大嶽さんのきもち」

 あの話は大嶽さんの口から伝えられた。

 志賀さんはクールな女性だから、テンションが急に上がることはなかった。興味ないけどと言わんばかりの反応。

 けど、はりきっていた。

 訓練の動きが違うのだ。

 いつも以上に積極的に動いて、私に檄を飛ばす。

 でも、あのことは知っているのだろうか? 白焔さんとの戦いで、いい成績を残せなければこの事務所を辞めさせられてしまうことを。

 やっぱり、知らないんだろうね。

 ゴリゴリの接近戦タイプの私を差し置いて、志賀さんは前に立って戦おうとするのだから。攻撃の初速が遅いのにさ、わずか3パターンの奇襲攻撃でうまいこと戦おうとする。そして、やられて先生である父さんに怒られる毎日を過ごしている。

 言われても、志賀さんは全く聞かない。

 最近、父さんはあまり怒らなくなりつつある。言っても聞かない人に注意なんかはしたくないようで、無視をするようになってしまった。

 正直に言って、私としてはつらい。

 なんだかんだ言いながらも、私たちはパートナーだからね。

 志賀さんは最初のパートナー。

 喧嘩別れはしたくないんだけど、志賀さんはわからずやだ。哀しいことに全く私の話を聞いてくれない。

 このまま、仲が悪いまま……私たちは終わっちゃうんだろうか?


「最近、ひーちゃん元気なくない?」

「そ、そうですか?」

「うん。そう見えるんだけど……話せることなら話してみなさい」


 ……言うべきか。

 それとも、言わずに黙っておくべきか。

 メイクルームにて大嶽さんと二人っきり、志賀さんはモデルのお仕事だ。タイミング的に今が最高な気がする。

 ていうか、あの人、モデルのお仕事ばっかりやっている。

 ヒーロー稼業はあんまりやっていない。

 面倒くさいことは全部私に任せている感じだ。小学校とかで行われているチャリティイベントの裏方の手伝いに行くことはないし、デスフレアの下級戦闘員と戦うことはない。

 あの人はわかっていない。

 ヒーロー稼業で下級戦闘員たちの相手をするのは大事なことだ。

 私や父さんのように人を殺しかねない異能を使って戦う場合、人にやさしい戦い方を習熟しなければならない。ヒーローは敵を殺しちゃだめだ。甘いといわれても、悪人が更生するチャンスを奪ってはいけない。

 技は多彩であればあるほどいい。敵を捕縛するコンビネーションやコンボは多ければ多いほどいい。

 敵は常に私たちヒーローよりも2枚も3枚も上手だし、倫理観や道徳観が壊れている場合がある。そういった時に、手数がないと相手の虚をつけない。だからこそ、特訓をしなければいけないのだと先輩たちは言っている。

 先輩たちの話はものすごくためになる。

 でも、志賀さんはあんまり人とは話をしていないみたいだ。

 ……これだけは言っておいてもいいかな?


「あの~あんまり志賀さんは人とお話をしていないみたいですけど、大丈夫かなぁって思っていまして。先輩方からあんまりよく思われていないみたいで」

「あ~あの子のことね。私もちょっと手を焼いていてね。あなたのように素直でないから困っているのよ」


 大嶽さんの言うことは聞いているように見えるんだけど……。


「人間、素直が一番よ。なのに、ねぇ……S級ヒーローであるシルバーサンとゴールドルナの息子さんであるA級ヒーロー白焔さんとの交流試合、正直に言って、うまくいかないような気がしてる」


 大嶽さんは唇をかみしめた。

 あ~やっぱり困っているんだなぁ、この人も。


「でも、私的にはうまくいかないほうがいいと思っているの。あの子にとってはいい薬になると思ってる」


 えっ、でも、うまくいかなかったら――志賀さんは事務所を退所させられてしまう。


「でも、そうしたら志賀さんが退所してしまうことになるんじゃ……」

「退所してもいいんじゃない? ああいうタイプの子はね、一回挫折をしないとわからないものよ。昔の私と似ているのよね。頑固で融通が利かないところとかね。それに事務所を退所させられても人生が終わるわけじゃあないし、あの子だったら結構たくましいと思うわ。ほかの事務所に自分を売り込んで何とかモデルやりながらヒーローをやりそうよ。私的にはあんまり心配はしていないわ」


 にっこり笑って、そんなことを言う大嶽さん。

 これは……なんて言ったらいいのだろうか? 別に志賀さんがいなくなってもいいみたいな感じだよねぇ。私としては、私としては――志賀さんにどうなってほしいんだろう? このままいなくなってもらいたいって思っているのだろうか?

 そうしたら、きっと父さんのサイドキックに復帰しそうだよね。

 それはそれでいいかもしれないけど、きっと尾を引くと思う。

 う~ん、私は一体どうすればいいのだろうか? 志賀さんのことがものすごく気がかりだ。なんでだろう、本当に……。


「大嶽さん、あの……」


 聞きづらいけど、本心を聞かなくっちゃ。


「志賀さんがいなくなってもいいってことですか?」

「そういう訳じゃないわ。正直に言って嫌よ。私がプロデュースする子だもん、やっぱり最後まで面倒見たいわよ。でも、仕方ないことじゃない。周りがこれだけ言って聞かないんじゃ、こっちはどうすることもできないわ。だから、なるようにしかならない」


 なるように――つまり、志賀さんがいなくなってしまうということだよね。

 なるほどね。

 もう、大嶽さんも父さんも志賀さんがいなくなってもいいように準備しているということだよね。想像がついているということはだ。


「志賀さんのことだから、なるようにしかならないですよね……」

「そうね、本当にもうあの子次第よ。……思うところがあるなら、行動しなさいな。いなくなった後で、ああしとけばよかったって悩まないようにね」


 そう、か。

 そうだよね。

 後悔しないように、か。

 なら、一度――志賀さんと腹を割って話そうと思う。私が思っていることを、あの人に伝えようと思う。そのために、ちょっと日程を合わせないといけないよね。誘ってきてくれるかはわからないけど、やれることはやっておこう。

 ひろくんがいなくなった時に感じた後悔。もうそれだけで十分だ。

 ぶつかって、思いっきり砕けてみよう。






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