第15話「父さんのきもち(後編)」

 父さんはかぶりを振った。

 汗の飛沫が、私の顔にかかる。


「所長も言っていたけど、お前とのコンビで失敗したら、志賀さんはこの事務所から出て行ってもらうことになっている。あとがないってことはわかっていると思うんだけど」


 あっ、そうなんだ。

 志賀さん、もう後がないんだね。


「こういうのがあるから、事務所に入ってやるのが嫌だったんだよね。ヒーローであって、芸能人じゃあない。俺らの本質は人を助けることがお仕事なんだけど、こういった大きな事務所に入ったらタレント性を求められてしまう。哀しいことにさ。今はいないから言うけど、大嶽さんとかかなりの戦犯だからね」

「戦犯って?」

「女性ヒーローをアイドル化した人なんだよ、大嶽さん」


 どういうこと?


「細かいことは言わないけど、大嶽さんのことを調べてみ。純粋にヒーロー育てたいって言っているけれども、本当はお前たち二人をアイドルにしたいんじゃないかなぁと思うような過去を持っているから。必要なことではあるんだけど……お化粧やおしゃれもほどほどにな」


 詳しくは言ってくれないのね。

 まぁ、自分で調べることも大事だから、大嶽さんのことは自分で調べようか。

 あ~それはそうと、


「そういえば父さん、最近、帰ってきていないようだけど何をやっているの?」


 唇をかみしめ、目を細める父さん。


「デスフレアと闘いながら、尋哉のことを探している」


 ……ひろくん。

 突然いなくなってしまった。ひろくん。


「……そっか。探しているんだね」


 新人ヒーロー稼業で忙しいけど、手が空いた時に私も探している。

 自殺したとは思いたくないけど、どうして私たちのもとからいなくなっちゃったんだろう? お母さんのもとには帰っていないみたいだし。お母さんのもとで何かあったのかな? これなら一緒に連れてくればよかった。

 ひろくんが、理由もなく家出してしまうなんて考えられないんだけどな……。


「尋哉のこともあるけどよ。お前は、とにかく今を何とかやりぬけよ。2週間の辛抱だ」

「辛抱ってどういうこと?」

「2週間後に、白焔とかいう別の会社の新人A級ヒーローとの練習試合が組まれる可能性がある。その試合の結果次第でチーム解散になる可能性がある。お金持ちのわがまま娘とは、それまでだ。だから辛抱強く耐えろよ」


 A級ヒーローと闘ってチーム解散ってどういうこと?


「他社との交流試合はさ。結構パンチが重いんだよ。あ~パンチが重いっていうのは、査定だ。交流試合の結果で年棒とか、まぁ……いわゆる給料が決まるんだよ。あとさ、自社とは違って他社のヒーローとの戦いはさ、スーパーヴィランとの戦いによく似ているんだよ。だから、お前は勝たなくともいいから空気を感じろ。相手とどうやりあうか考えるのが大事だ」


 そんな催し物があるなんてね、知らなかった。

 それよりも、この話を聞いた時、志賀さんは本気を出すと思うけど……。

 私はどうすればいいんだろうか?

 このまま、時が過ぎ去りゆくのを待てばいいのだろうか? そうすれば、また父さんとサイドキックを組めるけど……。それでいいのかな?


「とにかく、質問コーナーは終わりだ。体を動かすとしよう」

「うん」


 それから一時間、父さんに訓練してもらった。

 ひろくんのこと、志賀さんや大嶽さんのことを考えないようにして。なるべく考えないように努めて。

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