第11話「訓練の時間(前編)」

 お昼が終わり、訓練の時間となった。

 事務所の地下3階にある格技場は、だいたいバスケットコート4枚分の面積を誇っている。結構広くって、壁や床が一面真っ白だ。

 事務所のビルはそんなに広くなかったはずだけど……建築の法律とかがあると思うけど、そのあたりは大丈夫なのかな? きっとこの地下室は絶対に事務所の敷地からはみ出ていると思うんだけど。

 父さんは大丈夫って言っていたけど……。

 敷地云々の話はどうでもいい。それよりも目の前のことだ。

 その真ん中で、ヒーロースーツを着た志賀さんと対面させられている。

 志賀さんとの距離は20メートル離れていて、ギリギリ射程距離範囲内だ。

 これなら、撃っても死なない距離にある。

 志賀さんのスーツは格好いいなぁ。薄型のプロテクターがスタイリッシュ。まさにヒーローって感じだからだ。

 対して私は……白いハイレグとニーソックスの変な女だ。

 胸元が大きく開いていて、かなり恥ずかしい。ガントレットは、まぁ、格好いいけど。なんか、デザイン性を重視していて機動性が全然ないというか。不安要素ばっかりだ。本当にこれで銃弾や刃物から守ってくれるのだろうかってさ。

 事務所の意向に逆らえないのが嫌なところだ。とても恥ずかしい。マスクがなかったら、単なる変態だと思っている。


「「聞こえるか二人とも?」」父さんの声だ。「「これからお互いの実力を知ってもらいたい。ということで、ひとつ君たちには試合をしてもらおうと思っている。まぁ、いわゆる喧嘩というやつだ。見聞きするよりも、体感したほうがわかりやすいもんだからな」」


 戦い、お互いの能力の本質を知ること。

 これから訪れるであろうスーパーヴィランたちとの戦いで非常にネックとなるものだ。相手の能力の体感することで適切な戦術を練ることができる。とはいえ、お互いに相手の能力は知っているんだけどね。


「「カウントをとるぞ。とにかく、2人とも俺がはじめと言ったら戦え」」


 軽くジャンプをして体をほぐす。

 軽~くこぶしを握って、シャドウボクシング。軽くワンツーをやってみる。

 シュッシュとワン・ツー。

 食事の後だけど、まぁ、こんなものかな? ちょっと体が重たいなぁ。

 逆に志賀さんは腕を組んで動かない。不動。

 何かを練っている。そんな印象だ。カウントが0になった瞬間が怖いかもしれないなぁ。ここは結構乾燥しているけど、どうするんだろうね? どうやって水を出すんだろうか? どこから戦うための武器である水を収集するのかな? 空気中の水分と、壁や床から水分を吸い上げるのだろうか?

 今の間に注意深く目で探る。隠されている志賀さんの武器を探す――けど、どこにも見当たらない。


「いくぞー……5、4、3……」


 カウントが始まる。

 そろそろ探すのをやめよう。

 ここは――うん、そうだね。

 志賀さんに私の全力を受け止めてもらうべく、こぶしに力をこめる。

 何か策がありそうな顔をしているし、ここは思いっきりがいいのを試しに撃ち込んでみるとしようか。


「2、1――はじめ!」


 ゴングが鳴った!

 カーンと小気味いい音。


「い・く・よ~!」


 かけ声一つ、思い切りこぶしを振りぬく。


「どぉりゃああああああああああ!」


 どーんと志賀さんに最大出力の衝撃波を見舞う。

 同じ異能者ならば、私の単調な攻撃を簡単によけるだろう。もしくは、なにかしら壁を作ってその衝撃をゼロにするはずだ。

 気合を入れ、思いっきり一発ぶちかます。

 右の拳を打ち出すと轟音とともに凄まじいエネルギーが爆進し、志賀さんのもとへ。

 衝撃波が当たる刹那で、私の攻撃は殺された。

 水のしぶきが上がり、鈍い音がして、志賀さんの姿は見えなくなった。


「……やっぱり、撃ち出してきたわね」


 志賀さんはこう言うと、大きな水の壁を作り出した。それで自分の身を守ったらしい。

 だったら隠れているはず、どこへ?

 志賀海こと――ワダツミというヒーローは水を操る異能者。

 この蒸気の中で、不意打ちをしようとしているかもしれない。背後の警戒を怠ってはだめだ。ひょっとしたら、地面から水を突き上げてくるかもしれない。はたまた、遠距離から私を水で撃ってくるかもしれない。

 しかし、待っても志賀さんからの攻撃はない。

 いったいどこにいるのだろうか?

 ひょっとしたら、志賀さんは体を水化できるかもしれない。プロフィールには水を操る能力とだけ。仔細は書いてはいないけど、できるかもしれない。

 あれこれ考え――攻撃に備える。


「そこ!」


 大きな声だった。

 振り向いた瞬間、顔に水をかぶる。それも大量に。

 最悪なことに、水が顔にこびりついて離れない。もがいて顔にへばりついている水の塊を取ろうとしているんだけど、全然取れない。

 だめ……、息が苦しい。

 これは非常にまずい。窒息するかもしれない。

 水で視界がはっきりしない。音も変だ。聞こえない。水の中。顔に水が貼りついていて、取れない。

 このままだと陸の上でおぼれ死んでしまう。

 もがけばもがくほど、だめ……。

 意識が遠のいていく……。




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