古部緋色は最っ高のヒーローになります!

吉田安慧

オリジン篇

第1話「わたしがヒーローになるまで」


 ぽつり、ぽつり……

 チャンバーに落ちて、たまってく。


 つるされてる点滴をじっと見て、私は数えていた。

 自分に残された時間を。


 体は、もう動かせない。

 いつだったんだろうか? こんなになっちゃったのは。

 父さんと同じ力が芽生えた時かな?


 ずっと、私はベッドの上で寝かされている。

 まるでファラオのミイラになった気分。きっと、ベッドの下には、私の内臓とかが入ったツボなんかが置いてありそう。


 私は4年前に、病気を患った。

 体が、体の筋肉が次第に動かなくなっていく病気だ。

 病気の進行は速く、誰かの介護なしでは生きてはいけない体になってしまった。さらに、上部気道の筋肉が動かなくなりつつある。気道を切開して呼吸器を挿入しないといけないと先生に言われた。

 自分で呼吸すらできなくなりつつある。息が苦しくってしかたない。

 かなしくって、くるしくって……言葉にならない。未来はもう、閉ざされてしまっている。一寸先は闇だ。なんにも見えない。未来も何も……。


 ――私はもう、父さんのようなヒーローになれない。


 日夜、悪の組織と戦う父さんはすごいヒーローだ。

 父さんはブレイブ・フィストっていうS級のヒーロー。知らない人はいない、最高のヒーロー。だから、私は父さんが大好きだ。自慢の父親だって思ってる。

 そんな自慢の父親の”力”を私は持っていた。

 だから、私もヒーローになって、父さんと一緒に悪いやつらと戦っていくんだと思っていた。がんばろうって、がんばってヒーローになろうって思っていたのに……病気のせいで、なれなかった。


 私は少しずつ、暗黒に飲まれていっている。

 目をつぶっても、目を開けても……。真っ暗なまんまだ。なんにも見えない。

 何もできない自分が悔しい。悲しくて、やりきれない。身じろぐこともままならず、このまま朽ち果てるのだろうか? 

 ずっと、ネガティブだ。きっと、私の目は死んでいるのだろう。

 そんなだからかな?

 弟が、お見舞いに来なくなってしまった。あの子のことだから、つらくって耐えられないのだろう。代わりに母がやって来るようになった。作り笑いをして、私を看護する。母が泣きたいのを我慢していることが、手に取るようにわかった。

 あと、ずっと無報酬でヒーローをやって来た父さんが、ヒーロー事務所に所属をするようになった。

 私の治療のためだ。お金が必要だから、嫌いだと言っていたヒーロー事務所に所属することにしたみたい。そのおかげだろう、今いるところよりもいい病院に移らないかという話が出ている。

 私としては、父さんにはずっと無報酬でヒーローをやって欲しかったのにな。

 

 私のせいで、私が病気になってしまったばかりに、すべてが変わっていく。

 人間は変化せずにはいられない生き物ではあるけれども、私には堪えた。


 このまま何もできなくなっていくのか?

 体が動かなくなり……このまま、なにもできずに死んでいくのか?

 何のために私は生まれたのだろうか?


 私は生きたい。


 いやだ。

 生きて、私は自分が生まれた意味を見つけたい。

 このまま、死ぬなんて私は嫌だよ。

 生きたい。

 生きて、ヒーローになりたい。

 父さんのようなヒーローになりたい。ヒーローになって、みんなの役に立ちたいって、そう思っている。

 でも……。

 涙があふれてくる。胸がとっても苦しい。

 叫びたくても口が動かない。それがとっても、もどかしかった。


 そんな私の叫びが通じたのだろうか?

 生きたいという強い願いが、星に届いたのだろうか? 


 先生が新しい薬を持って現れたのだ。治るかもしれない薬を持ってきた。

 先生は言った。

 この薬は劇薬で何が起こるかわからない。病気が治るかわりに体組織――細胞が変化して、体が化け物のようになってしまう恐れがあるって。死んでしまうかもって。

 現に、この薬を投与した人たちがヴィランになっているらしい。大暴れして、みんなにたっくさん迷惑をかけたとか。

 だから、父さんも母さんもこの薬を私の体に投与することに難色を示した。


 でも、私としては本望だった。

 病気が治れば――この状況を打破できる。このまま気道に呼吸器を差し込まれ、動けなくなって死ぬよりはマシだった。

『父のようなヒーローになりたい!』

 だから、私は投薬を決意した。

 母さんは最後まで反対していたけれども、父さんは深く頷いて承諾してくれた。

 父さんの許しがあるなら、それでいい。


 私は劇薬を投与した――。

 投薬して間もなく、すさまじい倦怠感に襲われた。唯一動かせる瞼が鉛のように重たくなって目を開けていられなくなった。

 頭が回らなくなって、なにもかもがうやむやになった――。


 ……投薬後、48時間。

 目覚めた時、忘れていた感覚を思い出した。体を曲げて伸ばすという当たり前の感覚。

 ほんのちょっとだけだったけど、それは大きな一歩だった。

 少しだけ、体が動いたのだ。

 懐かしすぎて、涙してしまった。涙が頬を伝って落ちていった。ぬぐいたかったけれども、その時はできなかった。


 次第に体は元のように動くようになっていく。

 リハビリをがんばったおかげか、1カ月でなんとか普通に動けるようになった。理学療法士さんがとっても驚いていた。

 普通に動けるようになったけど、それだけではなかった。

 あろうことか、父からもらった能力が以前よりも威力を増していた。

 何気なく窓に手のひらを向け、軽く念じ――力を発揮してみたら、窓ガラスが粉々に砕けてしまった。

 前は窓ガラスにヒビを入れるだけで、100メートルを全力疾走した時のような疲労感に襲われたんだけど、不思議なことにまったくそういう感覚におそわれなかった。

 これにはとっても驚いた。

 そして、そのあと――看護婦さんにとっても怒られてしまった。


 薬のおかげで、私は体の自由を取り戻した。

 この挑戦が私をさらに強くした。


 父さんは喜んでくれた。

 あろうことか、所属している事務所に掛け合って、私をヒーローにしてくれた。それから、私にぴったりのコードネームを授けてくれた。


『ショックウェーブ』


 これから、私は父親譲りの最強の能力を駆使して、街にはびこる犯罪者やヴィランたちを打ち倒す。

 そのための訓練を全力で頑張っている。

 今まで、迷惑をかけた分を取り戻したい。親孝行をしたいのだ。娘としても、いちヒーローとしても。

 そして、いつか――。


 私は父さんのようなすごいヒーローになってやるんだ!

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