15-26「最後のオーブ」
大勢でのサッカーの後の宴で皆と別れた後俺達はフミさんの家に一泊させてもらったその翌日、戦争も終結しサッカーも楽しかったので万々歳なはずが何かモヤモヤとした感じに襲われる。
「何か忘れてないだろうか」
ポツリと呟くしかし思い出そうとするとより思い出すのが遠くなってしまうもので何も浮かばない。
「おはようございます。トーハさん」
ダイヤがキッチンから姿を現わす。
「え? 」
意外な光景に目をパチクリさせるもダイヤは消えずにそこにいた。胸の鼓動が高鳴り慌てて横を見るとスペードとクローバーはまだスヤスヤと眠っている様子だ。ますます何が何だか分からない。
するとそれが通じたのかダイヤがはにかむ。
「すみません、早起きしたのでフミさんのお料理をお手伝いさせていただきました」
「そっかビックリしちゃったよ。そっかそっか」
俺はそういうと素早く毛布を被り二度寝の体制に入った。
「起きろ。起きろトオハ」
激しく体を揺さぶられた衝撃で目を覚ます、目を開けると目の前にはスペードがいた。
「なんだまた夢か」
「なに寝ぼけたこと言ってんだ。夢じゃねえよ、朝飯ダイヤとフミさんが作ってくれたから冷めないうちに食うぞ」
あれは夢だったのかそれとも現実なのか考えながらも「ああ」、と答えるとリビングへと向かった。
「おはようございます」
「……おはよう」
「おはよう」
3人に朝の挨拶を返す、タイミングを逃していたのでスペードにも。そして朝から魚料理と言った豪勢な食事を堪能する。
「ごちそうさまでした」
「いえいえ、このくらい。戦争を止めてくれたのだから足りないくらいよ」
フミさんがニッコリと笑う。
そうだ、俺達は戦争を止めるために戦った。しかしそれだけだっただろうか?
「もしかしてお口に会いませんでしたか? 」
ダイヤが不安気に尋ねる。俺は急いで両手を前に突き出し振ることで否定を示す。
「いやいやそうじゃなくて、何かを忘れている気がして」
「何か? 」
「ボンヤリとしすぎてて分かんねえよそれじゃあ」
「いや、確か戦争を止めるのとそのための戦っていた気がしたんだけど」
「……ああそれなら」
「なんでそれを忘れてんだよ」
「はい、それは勿論」
と3人何か心当たりがあるようで一斉に続きを述べようとした時だった。
「それってひょっとしてこちらでしょうか」
フミさんが何やらキッチンから何かを持ってきた。
「いえ、確かキッチンになるようなものでもなかったような……」
口にしながら彼女に視線を移すとそこで言葉を切る。彼女の掌には蒼く輝くオーブが乗せられていた。
瞬間、カチリと脳内で何かが当て嵌まる、そう、俺はずっと最後のオーブを探していたのだがボールが出てきた意外性に気を取られてすっかり忘れてしまっていたのだ。
「それです、しかしそれをどこで」
思わず大声を出すとフミさんはペロリと舌を出す。
「ごめんなさい、最初から大賢者様に言われて預かっていたのだけれど、王様に紹介されるほどの凄い人達ならあの2人の仲を何とかしてほしくて黙っていたの」
何ということか、オーブは俺達の目の前にあったのだ。
「全く気が付きませんでした」
「……うん」
ダイヤとクローバーが顔を見合わせる。2人でも気が付かなかったとはフミさんは何という女性なのだろう。
「でも、本当に助かりました。戦争まで止めてしまって、本当にありがとうございます」
「いえいえ、戦争は止めたいと思っていましたから、こうなってよかったと思います」
そう、これで良かったのだ。彼女からオーブを受け取って即退散ではこの国はずっとヤギリさんに良いままにされていただろう。それを止めることができて本当に良かった。これなら大賢者様と胸を張って再会することができる。
そこまで考えて引っかかることがあった。
「すみません、大賢者様からオーブを受け取ったということは」
「フォッフォッフォッ、こういうことじゃよ」
突如後ろから3人とも違う声がして振り返るとそこには変わらずに顎ひげを伸ばした大賢者様の姿があった。
「大賢者様」
「こいつが……」
「す、スペードさんこいつはまずいですよ。は、初めまして」
「……お久しぶり」
それぞれが突如現れた大賢者様に動揺しながらも挨拶の言葉を述べると彼は笑う。
「初めましての人もおるのう、皆本当によくやってくれた。まさか本当に戦争を止めてしまうとはのう」
と彼はそこで言葉を切ると神妙な面持ちで続きを述べる。
「じゃが、まだ魔王を倒すには万全とは言えぬ」
「それはまさか」
かつての約束を頭に思い浮かべながら尋ねる。
「ああ。といってもワシは魔法以外はからっきしじゃがな。じゃが、魔法なら任せておけ、そなた達に知る限りの魔法を教え込もう」
大賢者様はニコヤカに笑った。
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