15-10「侍打倒へ向けて」
「おかえり」
ふと手の感触がしたのでダイヤが帰ってきたと感じた俺は洞窟内で囁く。
「あのトーハさんどうしてあの様なお手紙を」
「どうしてって俺は堂々と食事できているからさ、何かダイヤにも食べてもらいたくて」
気恥ずかしくなって顔を背ける。封筒に入れたところで見るのはダイヤなのでこうなることは覚悟していたもののつい顔が赤くなってしまう。
「でもトーハさん私にもこっそり下さったではありませんか」
彼女は引き下がらずに言う。
「ダイヤの魔法にはこれからも世話になるから。それにこれからの戦いじゃ姿が見えないダイヤには苦労させるかもしれないけど昨日みたいに褒められるのは俺だけだからさ。あれくらいのことはさせてほしい」
そう言うと彼女は納得したのかそれ以上は何も言わなかった。
「それじゃあ行こう、大変な1日になりそうだ」
合図をかけるとともに玉座の間へと急いだ。
玉座の間では既に王様もヤギリさんはその隣にいた。
「お目覚めのようですね」
「おはようございます。それで私の単独出撃の方は」
「認めよう」
玉座にどっしりと構えた王様は大きく首を縦に降る。
「大勢よりも1人の実力者の方が身を隠しやすく相手を撹乱できると王様はお考えのようです」
ヤギリさんがスラスラと述べる。
「そういうことだ。それではキングよあの憎き侍の首を持って参れ! 期待しているぞ」
玉座から立ち上がると高らかに王様が宣言した。
「ありがとうございます。行ってまいります」
と答えると踵を返してその場を後にした。
それから俺達は岩肌に沿って入口へと向かって歩いていく。出口が間も無くとなったその時だった。
「お前がキングか」
ふと一体のゴブリンに呼び止められる。
「はい、そうですがどうかしましたか」
立ち止まる。まさかダイヤが気付かれたのかと不安が頭をよぎり次の言葉を固唾を飲んで待つ。
「お前、何人殺した? 」
「え? 」
「人間を何人殺したかって聞いているんだ」
意外な質問だが回答はすぐに浮かぶ。
「0人です」
ゴブリンが俺の回答を聞いて目を細めた。確かに凄腕のゴブリンを名乗る割には妙な返答だったかもしれない。まさか「なら1人目だ」とダイヤを指摘したりしないか、と再び不安に襲われ手が剣の方向へと僅かに動いた。
ところが警戒する俺とは裏腹にゴブリンは腰につけた剣を抜く素振りすら見せず肩に手を置いた。
「そっか、じゃあ侍はともかく他の奴らは出来るだけ殺さないでくれ」
そう言うと振り返りもせずスタスタと洞窟の奥へと消えて行く。
「了解です」
まさかゴブリンが人間の身を案じるなんて、と奇妙な感覚に包まれながらも俺は小さくなっていく彼の背中を見つめていた。
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