14‐1「ルトゥエブ到着」
暗闇の中、ルトゥエブの村を目指して馬車は一心不乱に駆けていく。他の馬車をみかけたら引き留める必要があったため4人のうち誰か1人は起きているというローテーションを組んで見張りをすることになった。今は俺が見張りの番だ。
どこかに馬車がいないかと窓から血眼になって探しているとすると幸運なことに一台の馬車が通りかかるのが見えた。
「停めてください」
制止の合図をすると御者が手綱を引きヒヒーンという馬の鳴き声と共に馬車を止める。俺は馬車を下りると両手を振りこちらに向かってくる馬車に手を振る。程なくして馬車は停車した。
「すみません、今誰か乗っていますか」
御者に声をかけると首をよくに振る。
「いんや、誰も乗ってねえよ」
「よかった、それでしたらこちらをセイ女王までお願いします……とその前にこちらを持っていただいても構いませんか? 」
「……これでいいけ? 」
俺が手渡した宝物といわれている謎のアイテムを持ち上げてみせた。モンスターが持つと力を失うであろうこのアイテムを持ち上げて何も異変がないとなると吸血鬼の変装とかではなさそうだ。
「ありがとうございます、それではこちらの手紙をセイ女王に大至急で」
俺は謎のアイテムを受け取る代わりに手紙を手渡す。すると御者は訝しげに俺を見る。
「別に構わんけど、料金は変わらんよ? 」
「構いません、いくらですか? 」
「1万ゴルドだ」
「かしこまりました……はいどうぞ」
俺は御者に金貨1枚を手渡す。
「まいどあり、それじゃあ確かに届けさせてもらうよ」
そう言うとともに御者は手綱を引くと馬車は弾丸のように夜道を駆け抜けていった。
「とりあえずこれで一安心だ」
ホッと胸を撫で下ろすと俺は馬車の中へと戻っていった。
♥♢♤♧
「トーハさん、トーハさん」
「んんん? 」
身体を揺すられ目を覚ますとダイヤが目の前にいた。
ハッと目を覚ます。俺はあの後目覚めたダイヤに馬車に手紙を渡した旨を伝えると不意に襲ってきた眠気により眠ってしまったのだ。
気がつくと窓から光が差し込んでいて馬車は停車していた。既に朝のようだ。
「ダイヤ? 」
「はい、ルトゥエブに到着しましたよ」
「ぐっすり眠れたようで何よりだ」
「……代金は払ってきた、行こう」
スペードとクローバーが車内にいないと思ったら支払いを済ませてくれたようだ。少しでも脳の覚醒を早めようと目をゴシゴシとこすりたいところだったけれど鎧を着ていたのを失念しており鎧を纏った腕は空しく甲冑を擦る。
「ありがとう」
皆にお礼を述べるとともに俺は立ち上がると歩を進めて馬車から降りた。
クローバーの故郷ルトゥエブ、いったいどんな町なんだろう。心躍らせて馬車を降り大地を踏みしめると同時に草木が生い茂る中所々に立つ家々のが織り成す豊かな村の様子が視界に飛び込む。
「綺麗な村ですね」
「……久し振りにきたけど変わってなくて良かった」
「クローバーの家はどれだ? 」
「……もう少し歩いたところ」
「じゃあ、どうしようか。俺達はどこかで時間潰した方がいいかな」
「……ついてきて、案内するから」
彼女はくるりと向きを変えると家があるであろう方向へと歩き出した。
クローバー案内されて村を歩き回る。木々の間に程よく立っている家々は自然と人間が共存しているようで感慨深くもあり見ていて楽しいものだった。
やがて大きな坂の前に立つとその坂を登り始める。
丁度真ん中くらいまで登った時のことであった。
突如若い白い衣服に身を包んだ目をぱっちりとさせた女性が刃物を片手にバンという激しい音とともに剣と盾があしらわれている外装の建物のドアから慌てて出てきた。
「あんた達そこの鎧の人から離れて! 」
女性が声を張り上げるとともに刃物を構える。
「トーハさんがどうしたのですか? 」
「騙されちゃダメ! そいつモンスターよ! 私『サーチ』で確認したんだから」
額に汗が浮かぶ。これまではセーフだったけれどここに来て今まで心配していた町中でモンスターがいないかを調べる人に出会ってしまった。誤解ならば兜を脱いで顔を見せればいいのだけれど今の俺はそうはいかない。
どうしたものかと考えあぐねているとスペードが俺の肩に手を置く。
「いやいやいや、オレ達の仲間だぜ」
「……セリカはおっちょこちょいの心配性」
「そうだったの、ごめんなさい。ってクローバー! ? 今まで何していたの? 良かった、なかなか帰ってこないから心配していたのよ。でもどうしてこの人たちと? 」
クローバーの手を握ってセリカと呼ばれた女性が彼女を質問攻めにするも内容が内容であったため沈黙が訪れる。それで彼女は察したらしく目を伏せる。
「そう、ごめんなさい、私ったら」
「……ううん、気にしなくていい。もう大丈夫だから。それよりセリカは何をしているの? 」
「今は魔法使いになるために魔法の勉強中。それで『サーチ』を試していたんだけど、クローバーのお仲間なら心配いらないわね」
「誤解が解けたようで何よりだよ」
俺が声をかけると彼女が目を丸くした。
そうか、こうやって堂々と話しかければよかったんだ。通常のモンスターは人の言葉を発することができないのだから。
「疑ってしまってごめんなさい。勉強のやり直しね。そうそう、何かあったら遠慮なく言ってねクローバー」
「……ありがとう」
彼女はそう言うとパタンと家の中へと入り扉を閉めた。
「彼女、良い魔法使いになりそうだね」
俺がそう呟くとクローバーが満更でもなさそうに笑うのが見えた、その隣で
「『サーチ』、私も勉強しないといけませんね」
とダイヤは意気込むのであった。
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