12-15「果実達が食べごろな季節に」
休息を取った俺達が更地となった地面を踏みしめて歩き出してから数時間、昨夜野宿をした黒い森を抜けて緑生い茂る森にたどり着く。
たった1日前の出来事なのにこの風が吹くたびにワサワサと揺れる葉が恋しく今ではそれが歓迎の唄のように聞こえる。
俺のその考えは強ち間違いではなかったらしく森の入り口とも言える場所に1人の老エルフが佇んでいる。
「帰ってきたようじゃな。そろそろだと思ったわい。それで戦果は? 」
「バッチリだぜ」
スペードはそういうとガッツポーズを作るも俺は今更ながらドラゴンを倒したという証拠がないことに冷や汗をかいた。
気がつけば戦闘中に浴びた血がべっとりと付いているのだがこれが証拠にならないだろうか?
と考えているとそれを見透かしたように老人が笑う。
「安心せい、見張り台からお主達の闘いは見学していた故な、ドラゴンを撃破したのは目撃しておる。ついて参れ、約束通り手当をしよう」
彼はそういうとクルリと向きを変えてついてこいと指でジェスチャーをした後に森の中に消えていった。
♥♢♤♧
俺達はドンドコドンドコと太鼓を叩く音がする中で集落の中心とも言える場所で手当というなの熱烈な歓迎を受けていた。
切り株椅子に座る俺たちの前方には採れたてであろうピンクや紫色の果実やら肉やらが広がっている。この果物は今が旬という話だ。
「凄かったなあ、ドラゴンの炎を防ぐばかりかあんな一瞬で蹴散らしちまうなんてよ」
「いえ、あれは皆様のおかげですから。それに周りを巻き込んでしまって申し訳ありません」
「気にすることはねえよドラゴンが暴れまわってめちゃくちゃだったからな」
ダイヤがエルフ達に囲まれて応対する。このように俺達はそれぞれが囲まれて賞賛の言葉を浴びていた。
「凄かったぜ、ドラゴンの翼を切り倒すなんてよ」
「あの崖をよくドラゴンが飛ぶより早く登ったな」
「いやー大したことねえって」
スペードが笑いながら食べ物を頬張る。
「ドラゴンの眼をあの一瞬でよく撃ち抜いたな、フィーネみたいだっ……フィーネ? 」
「じゃろう? 似ておるじゃのう? すまぬがちょっとフードを取ってみてくれんか」
「……こう? 」
クローバーが言われた通りにフードを取ると歓声が湧き上がる。
「フィーネだ! フィーネだ! 」
そう言うとともにクローバーの元に人が集まる。流れを見るにクローバーの顔がフィーネに似ているらしい。おかげで先ほどまで「ドラゴンを両断したのみてたぜ」や「あの巨大な剣振り回すなんて力持ちだな」と言っていたエルフ達もいなくなりガランとしてしまった。
あの群がりようをみるに彼女は相当人気だったようだ。あっという間にクローバーは食べ物がドンドン積まれ女王様のようになってしまった。
「……ボクは、フィーネじゃ……まあ、いいかな」
言いかけたクローバーが笑顔でエルフ達から果実を受け取る。彼女にも思うところがあったのだろう。
「ゴブリンさん」
声のした方向を向くと一人のエルフの少女がもじもじしながらポツンと立っていた。見覚えがある、森で出会った少女だ。
「どうしたの? 」
「傷はもう大丈夫なの? 」
「大丈夫だよ。君も元気そうで何よりだ」
「よかった。助けてくれてありがとう。これはそのお礼」
彼女はそう言うと一つの桃色の果実を差し出すと俺がお礼を言う前に走り出してしまった。それを見届けた俺は貰った果実に噛り付く。すると甘い果汁が口いっぱいに広がった。
♥♢♤♧
翌日、俺達はエルフの森の入り口で大勢のエルフ達と向かい合っていた。
「元気でな」
「また来いよ」
「ありがとうございます」
来た時とは真逆に温かい言葉を投げかけられ戸惑うも笑顔で答える。すると村長が一通の手紙を取り出した。
「女王のところに行くんじゃったな、ならこれを持っていってくれんか」
「これは」
渡された封筒をまじまじと見つめながら尋ねる。内容もさることながら紙の手触りからかなりの上質なものだろう。
「取引じゃからな」
「ということは……」
「ああ。ただし……」
そう言うと村長はクローバーをちらりと見る。
「また元気な姿をみせてくれんかの、丁度この果実たちが食べごろな頃に」
振り返ってクローバーを見る。すると彼女は首を縦に振った。
「はい。約束します」
「そうか、楽しみがまた増えたわい」
村長がしみじみと口にした。
「それでは、お元気で」
「本当にお世話になりました」
「また何かモンスターがいたら言ってくれよな」
「……また、ね」
俺達はエルフ達に別れを告げると御者が待っている近くの村を目指して歩き出した。
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