12-13「守るための力」♢
あの日の出来事は今でも夢で見る。魔法の授業中、私が繰り出した『炎の魔法』が校舎に向かって進む姿、それを防ごうとする先生たち、生徒たちの悲鳴。あの時、もし先生たちがいなかったら学校は壊れていたかもしれない。もしかしたら、首都ニンビギの中にあった学校だったから街の人までも巻き込んだ事件になっていたかもしれない。そう考えると胸が苦しくなって攻撃の魔法を打とうとすると呪文を唱えるための声が出なくなってしまう。
だから、私はサポートできるように攻撃以外の魔法を勉強した。その甲斐あって『盾の魔法』は先生たちに褒められるようになった。でも、それだけでは魔王を倒すことができなくて、別の世界のトーハさんを巻き込んだばかりか同期のルイーダを死なせてしまった。
私は、どうすればよかったんだろう……
何度も考える。それでも答えは出なかった。
「ダイヤ……ダイヤ? 」
「は、はい」
ふと声をかけられる。見ると3人が不安気に私の顔を覗き込んでいた。
「……大丈夫? 」
「心ここにあらずって感じだったけど、まあこんなことが起きればびっくりするよね」
「はい、大丈夫です」
頷いて大丈夫であることを告げる。そうだ、私達は今ドラゴンと戦っていたんだ。私たちはドラゴンと戦って倒したと思ったら身体が再生して……私は一体、こんなときに何をしていたのだろう。でも、トーハさんは責めるわけでもなくにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、もう一度説明する」
彼の説明を聞く。するとどうやらドラゴンの再生はドラゴンの存在を維持するべき弱点というものが下半身にあるだろうからそれを突くというものだった。
「……分かった。ボクが何とかその弱点をみつけて打つ」
「いや、クローバーはまた目を打ち抜いて視界を奪ってくれ」
「でも、タアハもスペードも疲れている。今攻撃できるのはボクしかいない」
「それは違う……」
そう言って彼は私を見た。彼の言い出すことが読めて息が詰まる。
どうか外れて……
私は心の中で祈った。けれど、その祈りも空しく彼は言葉を紡ぐ。
「もう一度俺が『強化の魔法』を付与してもらって戦う」
「駄目です、私がドラゴンを倒します」ドラゴンと戦うと知った時から私はそう言おうと昨夜も何度も何度も攻撃魔法の理論の復習をした。それなのに、今はその言葉すらも口から出ない。前から私は、こんな自分が嫌で嫌で仕方がなかった。
「……それ、短期間に何回もやって大丈夫なの? 」
クローバーさんが尋ねる。大丈夫なわけがない。以前、それでトーハさんがどうなったのかが脳裏に蘇る。あの時の彼を見ると心が張り裂けそうだ。だからこそ、今それを止めなければいけないのに……
私が悩んでいるとスペードさんがトーハさんの肩にポンと手を置く。
「しゃーねえ、オレも付き合うぜ。大丈夫だってクローバー、オレ達を信じてくれ」
「……わかった」
「ダイヤ、お願い」
彼が私の眼をみつめて頼み込む。彼の眼は覚悟の炎が燃えている。彼はドラゴンを倒すまで何度も『強化の魔法』を身体にかける気かもしれないと最悪の予感が頭を過る。そんなことをしたら、ドラゴンを倒せても彼の身体はタダでは済まないだろう。それどころか命があるだけ良いのかもしれない。
どうしてトーハさんはそこまで……
いつもそうだった。トーハさんはこれまでも強力なモンスターを前に戦ってきたけれど、一度も私に攻撃の魔法を打ってくれとは言わなかった。彼はずっと私に攻撃の魔法は使わせないという約束を守ってくれていた。どうして彼は優しくて強いのだろう?
そう考えた時、ふと昔先生が見せてくれた最大攻撃魔法『イクスプロージョン』の授業風景が蘇る。野原の中空に放たれた魔法、それは他の先生たちが何重にも張った『盾の魔法』を割るほどの強力な威力だった。それほど強力な魔法を放った後に先生が恥ずかしそうに言う。
「『イクスプロージョン』のコツはね、意外かもしれないけれど放つときに大切な人を思い浮かべることだよ。守りたいって思いは力になるから」
そこで記憶は途切れる。それでも十分だった。トーハさんが、皆がこれほどまでに強い理由は約束を、私たちを守ろうとしてくれていたからだったんだ。
それなら、私も約束を……トーハさん達を守ろう。
そう決意した途端に、フッと身体が軽くなる。
「私がドラゴンを倒します」
今度はちゃんと口にすることができた。
「……倒すって、ダイヤは攻撃の魔法が」
「まさか……」
「ダイヤ? 」
驚いた様子の3人にニッコリと笑う。
「大丈夫です、今度は私が皆さんをお守りしますから」
私がそう言うとともに、首を振っていたドラゴンが獲物を見つけたとばかりに雄たけびをあげる。私は負けじとそのドラゴンの眼を見つめる。
「『シルド』! 」
ドラゴンの攻撃から身を守るためだけじゃない、次の私の攻撃に繋げるためにいつもより頑丈にできるように意識して呪文を唱える。
ドラゴンの炎がさっきのように一面に広がるもシルドがわれることはなかった。それを見届けた私はバッグからトーハさんから受け取っていた赤いオーブを取り出すと黄色のオーブの代わりに杖に着ける。心なしかオーブはいつもよりもスムーズに取り外しができた。
こちらの放つ魔法は決まっていた。『イクスプロージョン』……最強の攻撃魔法である爆発魔法だ。これは爆発させる対象を意識して発動する私がトーハさんにかける『強化の魔法』みたいなものなのでシルドを解除することなく発動することができる。
弱点は2つ、私は理論しか知らず実戦で試したことはないことともしかしたら私達も巻き込まれてしまうかもしれないということだ。
でも、それは問題には感じなかった。だって、私の側には守りたい人がいるのだから。
「行きます! 」
ドラゴンを見据えて杖を構えると同時に皆の顔を思い浮かべる。
「『イクスプロージョン』! 」
呪文を唱えた次の瞬間、ドラゴンを中心に巨大な爆発が起こった。
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