12-5「エルフの集落」

 俺が視線を戻すと目の前に剣を持ったエルフが現れる。


「余所見してんじゃねえ! 」


 そういうとともにエルフは剣を振り下ろした。俺はその軌道に剣を差し込みその一撃を防ぐ。


 キィン! と剣同士が金属音を奏で男は仰け反る。

 このまま蹴り上げて終わりだ。そう思った時だった。


「お兄さんたちをいじめるな! 」


 突如草むらから少女のようなエルフが飛び出してきた。咄嗟に俺は彼女から距離を取る。


「馬鹿、出てくるんじゃねえ下がってろ! 」


 エルフが怒号をあげて娘を戻そうとするも逆効果のようでさっき俺がいた辺りで腰を下ろして泣き始めてしまう。

 子供に手をあげる気は無いので別のエルフを探そうとした瞬間の出来事だった。


「タアハ! 後ろ! 」


 クローバーの声とともに背後からビシュッと矢が放たれる音が聞こえる。


「しまった! 」


 それと同時に標的の裏をかいた時にはあげるものとしてはあまりにも正反対な声。

 ゾクリ、と嫌な予感を感じた俺は少女目掛けて走り出す。


「間に合えええええ! 」


 勢いよく地面をから飛び上がる間一髪、俺はエルフの少女を救出することに成功した。しかし……


「ぐっ……」


 グサッと鎧越しに背中が貫かれ鋭い痛みと共にその時に噴出した生暖かいものが体に滴る。


「トオハしっかりしろ! クソ、子供を使うなんて卑怯だぞてめえら! 」


「トーハさん、しっかりしてください、トーハさん! 」


「嘘……タアハ! タアハ! 」


 彼女達の悲鳴とともに俺の意識はそこで途切れた。


 ♥♢♤♧

「何としても殺すな」


「はい、『ヒール』! 」


 辺りが騒がしい。俺は死んだのか? いや意識があるということは生きている? いや声色からして神様と天使の会話か? 半信半疑のまま目を開く。すると木の板がちりばめられた天井が姿を現す。


「気付かれたようですね、本当に良かった」


 俺が目を覚ましたの知ると女性たちの歓声が上がる。皆耳が長く端正な顔立ちでまるで天使のようだった。


「こちらをどうぞ、元気が出ますよ」


 見惚れていると女性が容器に入ったを液体を差し出す。何だろう?


「毒なんて入っておらん、ただのここで採れた果物のジュースじゃよ」


 俺が液体を眺めていると同じく耳の長く髭を生やした老人は差し出された液体を別の容器に少しだけ移して飲んで見せた。確かに毒ではなさそうだ。いや、この状況で毒を飲ますならそもそも大勢が集って回復してくれることもないのか。未だ回らない頭でそう考えながら俺はジュースと呼ばれた飲物を飲み干した。


「お、おいしい! ? 」


 素直な感想が口に出る。口に含んだ瞬間から甘味と僅かな酸味がうまく調和されていて凄く飲みやすく味もこれまで飲んだことがないくらい美味だ。


「そうじゃろう、それ故にここの果物を狙うものが多くてな」


 俺の感想を聞いた老人が満足そうに頷く。

 果物? その口ぶりからすると本当にこのジュースは果物のみで出される甘味なのだろう。それを知った今ならこの果物をエルフ達が守ろうとしていたのも頷ける。でも待てよ、どうしてその果物を狙いに来たと思われている俺がこうして天国と錯覚するような熱烈な歓迎を受けているんだ? おまけに見てみるとわき腹を貫かれたであろう俺は傷が塞がっているものの鎧は脱がされ包帯も取られて半裸状態な俺は緑色の身体に顔がむき出しになっておりゴブリンということも明らかだ。まさか同じ耳が長いからエルフと勘違いしている、なんてこともこの体の色をみるとないだろう。

 俺が疑問に感じているとその疑問に答えるかのように女性のエルフが俺の手を握る。


「娘を助けていただきありがとうございます。腕白な娘で眼を離したすきに大人の方についていってしまったみたいで」


 言われて一つの記憶が蘇る。そうだ、俺はエルフの少女を助けようとして身体を貫かれ立ったんだった。この口ぶりからして少女は無事だったのだろう。


「いえいえ、僕も皆さんのお陰で助かりましたし、あの子が無事なようで本当に良かったです」


 俺がそう答えると彼女が涙を流す。


「そんな、本当に感謝の言葉もございません、父親がドラゴンにやられた今大切なただ一人の家族であの子がいなくなったらと思うと私はもう……」


 女性が泣き崩れる。その様子を見た老人は他の女性たちにサッと目配せをすると女性たちは彼女に声をかけながら退出した。その様子を眺めながら大切な人に何かあったら気が気ではないだろう、本当に助けられてよかったと胸を撫で下ろしダイヤ達の顔を思い浮かべた時だった。突如脳内が覚醒したのだろう先ほどのエルフとの戦いの様子が鮮明によみがえる。


「さて、それで本題なのじゃが」


「ダイヤは、スペードは、クローバーは……あっ、すみません」


 偶然話すタイミングがかみ合ってしまったことに詫びを入れると老人が目を細める。


「安心せい、手荒な真似どころか監禁もしておらん。いや、そうじゃな。これは仲間全員で聞いてもらったほうが良い。歩けるな? よし、ならついてきてくれんか仲間のところに案内しよう」


 老人はそう言うと先ほど女性たちが出て行った木製の扉に手をかけた。

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