12-3「心ここにあらず」
セイからエルフの森とドラゴンのことを聞いた俺達は馬車に乗りエルフの森の入り口を目指していた。エルフとはこれまでは森の果物の売買などを行ったりと友好的な関係だったのだけれど数か月後突如として関係が悪くなり森の中に人間が足を踏み入れると迎撃されるようになったらしい。ドラゴンは俺の想像するドラゴンと同じようで巨大な身体に翼、鱗を持つ生き物で間違いないとのことだった。ただ問題が1つ。
「あの、ダイヤ? 」
「セイ女王様って可愛くてスタイルも良いですし素敵な女性ですよね」
「いや、セイのことじゃなくてエルフの森のことだけどさ」
「はい、セイ女王は気品もあって美しくて」
俺が雪景色を見ているダイヤに声をかけると彼女が上の空な様子で答える。問題とはこれのことでダイヤとの会話が成立しないのだ。これに関してはスペードも
「トオハさあ、そういうとこだぞ」
と言ったきり何もからかってこない。
やはり城に着くや否や勝手に突っ走るばかりか勘違いとはいえ女王様であるセイに抱きつくという行為をしたせいで引かれてしまったのだろうか? だとしたらどうすればいいのか。考えるも答えが出てこない。
最近人間嫌いになったらしいエルフの森を抜けるには彼女の力が必要不可欠なのだ。このままでは俺達は全滅してしまうかもしれない。それまでに何とかダイヤに説明しなければ。
「ダイヤ、先ほどのアレはそういうことじゃなくてセイが誰かに脅されてると思ったからやったことで」
「じゃあ、もし私が脅されていたらトーハさんは助けてくれますか? 」
「勿論だよ。ダイヤでもスペードでもクローバーでも皆助ける」
キッパリと答える。皆大事な仲間だからその言葉に嘘はない。そしてこの受け答えもしかしたらダイヤは元に戻ったのではないだろうか?
「でも守られているだけじゃダメですよねセイさんは心もお強い方ですし」
「え」
「セイさんはそれに可愛らしくてお綺麗で」
安心したのもつかの間、ダイヤは再びセイの話題に戻ってしまった。どうすればいいのか、こちらは完全に打つ手なしだ。
「タアハ」
俺が頭を抱えているといつのまにか隣に座っていたクローバーが俺に声をかける。
「クローバー、頼むダイヤを」
俺がそういうと彼女は肩をすくめ俺の耳元に近付いて囁く。
「ボクの家だとお父さんはお母さんの機嫌が悪い時いつも抱き締めてた」
なるほど、クローバーの家ではそんなことがあったのか。本当に仲が良い夫婦だったのだろう。しかし……
「俺が今ダイヤに抱きつくのは逆効果じゃないか? 」
恐らく俺がセイに抱きついたのにドン引きしているであろうダイヤに抱きつくのはより悪化させるだけではないのか。そう考えた故の発言に彼女は同意を示すかと思いきや顔を曇らせる。
「これは深刻」
そう呟くとクローバーはしばし沈黙した。
車内の音は無くなりカラカラとなる馬車の音だけが響く。エルフの森入り口まではそう遠くはないらしい。早く彼女に俺の身の潔白を証明しなくては! でもどうやって?
「やっぱりダイヤに抱きつくしかないと思う」
考えあぐねていた俺の耳元でクローバーが再び囁く。
「でもそれだとより嫌われるかもしれない」
「ボクの事、信じてくれないの? 」
少し高い声で上目遣いで切なげなクローバー。この彼女の言葉を無下にすることが俺にできるだろうか? いや、出来ない。
確かにこのままでは何も始まらないしここはクローバーを信じるしかない!
「ダイヤ」
彼女の名を呼び振り向いた瞬間、意を決した俺は思いっきり彼女に抱きついた。
「ふえ! ? トーハさん突然どうしたのですか! ? 」
体に柔らかい感触が広がるとともに彼女がドギマギしながら声を上げる。
「よかった、いつものダイヤだ」
「いつものってどういうことですかトーハさん? あれ? でもどうして私は馬車に? 確か王宮でトーハさんを追いかけてそのあとトーハさんがセイ女王様に……あれ? 」
戸惑う様子のダイヤどうやらこれが正解だったようだ。チラリと横目でクローバーに向けてサムズアップをすると彼女は笑みを浮かべる。
「おうおう大胆じゃないかトオハ」
スペードもいつもの様子で俺たちをからかう。良かった、全員いつも通りだ。これでエルフの森に突入することができそうだ。
俺は嬉しさのあまりダイヤを抱きしめる腕に少し力を込めた。
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