12-2「女王様の隠し事」

 ダイヤ達に赤いオーブは使わないという説明を無事し終え氷の城が目前に迫った時、城の前に大勢の人々がいるのが目に入った。皆立派な鎧を着込んで武器を手にしている。


「なんだろう、訓練ってわけではなさそうだけど」


「確かに訓練ならこんな人前の付くところでやらねえよなあ」


「……となると、戦? 」


「やばいモンスターが現れたってことか? 」


「ありがとうございます、ここで下ろしてください。急ごう、セイなら何か知っているはずだ」


 俺達は御者にお礼を述べるとともに馬車から降りると足早に城の玉座の間を目指した。


「セイ……女王様ご無事ですか? 」


 ゴブリン騒動のお陰か顔が広まった俺達は難なく門番に中へ通され玉座の間の扉を開ける。彼女の身に何かあったら……心配した俺は力を籠めすぎてしまったようで扉がバンと勢いよく開く。

 すると奥の玉座にセイ女王の姿が確認できて胸を撫で下ろす。


「トオハ……心配なのは分かるけど……はええよ」


「良かった……はあ、はあ、ご無事だったのですね」


「……はあ、あれ? でも、女王様何か不安そうな顔をしている」


 後を追ってきてくれた3人が息を切らしながらセイを見る。クローバーは目が良いので数メートル離れているにもかかわらず顔までくっきりと見えたみたいだ。やはり何かあったのだろうか?


「もうフェンリルを倒したの? ちょっと早すぎな……み、皆さんご無事で何よりです」


 前半のが本音なのだろう。咳払いをして俺達に歓迎の言葉を投げかけるもその声は明らかに震えており動揺を隠せない様子だ。一体どうしたのだろう?


「どうかされましたか? 」


「い、いえどうもしませんわよオホホホホ」


 彼女に向かい足を進めながら俺が尋ねると彼女が笑う。嘘をつくのが下手なのかとても分かりやすい反応だ。これはもしかしたら……


「もしかするとあのモンスターの討伐ですか? 」


「どうしてそのことを! ? 」


「やっぱり」


「あっ……」


 俺がカマをかけたのだと気付いた彼女は咄嗟に口を覆う。軍隊を動かすとなったら戦争かモンスターのどちらかだろう。それで街の様子をみても人々が慌てた様子はないので離れた距離にいるモンスターの討伐だろうとあたりをつけたのだけどどうやら正解だったみたいだ。


「そういうことでしたら我々も」


「いけません」


 軍隊の後をついて行けば自ずとモンスターと戦える、少しでも彼女の力になろうとそう考えて俺はUターンしようとすると力強い大声が響き渡る。その声の主はセイだった。


「これは国の問題です、ですから我々だけで解決します」


「でも、僕達は仲間じゃないですか、モンスターとの戦いなら我々も微力ですが力になれるのですから協力させてください」


 訴えるように彼女の眼を見て言う。すると彼女は目を逸らした。


「それは……」


 どうして彼女は話してくれないんだ。何か理由があるのか? 俺が考えようとすると彼女が意を決したように口を開く。


「それは、この国の軍隊の力を示すためです。グリフォンに続きフェンリルを倒した貴方方の力なら勝てる可能性は大いにあるでしょう、ですがそれではグリフォンに敗北した我が軍の面目が立ちません。ですので皆様、これから私達が貴方方の勝利を祝うパーティーの準備をしますのでこのことは忘れてゆっくりとお寛ぎください」


 なるほど、確かにそれなら筋は通っているかもしれない。だけれどおかしいということは直ぐにわかった、彼女が笑っていないのだ。必死に唇を噛みしめている様子は何とか理屈を考えたというのを物語っていた。

 こういう時、どうすれば彼女から本音を聞き出せるのだろうか? もしかしたら何か脅されていて彼女は人前では本音を言えない状況なのかもしれない、だとすれば……

 俺は更に彼女に近づくと勢いよく彼女に抱きついた。


「えっ……」


 彼女が驚き気の抜けた声をあげる。正直なところ今鎧がなければなんて邪な考えがないとは言えないけれど今はそれよりも優先するべきことがある。


「セイが頑張っているのは知っている。もしセイがこの中の誰かに脅されて監視されているんだとしても今この状況なら俺達の会話は誰にも聞こえない。本当のことを話してほしい」


「…………」


 沈黙が訪れる。心なしかセイ体が徐々に熱を帯びていくように感じた。


「……そういうのじゃないわよ」


「え」


 予想外の返しに目を見開く。


「私は誰にも脅されていないし監視なんてされていないわ」


 ……気まずい沈黙が流れる。だがその前に彼女は笑い出した。


「もう、貴方がそんなだから馬鹿らしくなったじゃない。そうよ、私は少しでも貴方達の助けになればという理由で軍を動かした最悪の女王よ」


 突然の告白に戸惑う。セイは俺達のために軍を動かしてくれていたのか。


「でもセイはモンスターはどのみち倒さなければならないから最悪の女王と言うほどではないんじゃないかな」


「そう言ってもらえると気が楽になるわ。とまあこういうわけだから今回はここで休んで貰えるわよね」


「いやそれは出来ない」


 キッパリと言う。


「どうして? 言っておくけれど私の軍はグリフォンの時は痛ましい結果に終わったけれど強いわよ? みすみす死地に行かせるなんて真似はしないわ」


 彼女の言葉は力強かった。本当に軍の力は凄いのだろう。でも問題はそこじゃない。


「そんな強い軍の人が大勢去ってしまったらそこをついてここが狙われた時セイが危ない」


 それを聞いたセイが息を呑むのが聞こえる。

 グリフォンを超えるあれほどの軍が行進するのを見ると中にはそんな考えをするのがいるかもしれない。もしそうなったらセイが危険なのだ。変化の杖があるとしてもそのリスクは避けたかった。


「あら、それなら貴方が守ってくれればいいじゃない」


「あ、そうですね」


 目から鱗とはこのことか数に限りがあるとはいえ俺達でも4人がかりなら賊の何人かは撃退できるかもしれない。

 そう考えた俺が咄嗟に間の抜けた声を出すと彼女が息を漏らすのが聞こえる。


「ごめんなさい、意地悪なことを言ってしまったわね。それは今は我慢するわ。お仲間にも悪いし」


 セイが満足気に言う。確かにセイの言う通りで俺達は魔王及びモンスター討伐を目標に旅をしているのでこれは俺の一存で決められることではなかった。いや、待てよ。仲間? 彼女達は今どこにいてここはどこだっただろうか?


「っ……」


 体が熱くなる。すっかり忘れていたけどここは玉座の間でダイヤ達は俺達の少し後ろにいる。つまり俺は公衆の面前でセイと抱き合っているのだ!


「ごめん、セイ離すよ」


 俺がそう言うより早いかそう来るのは想定済みとでも言うようにセイが俺の腰に手を回し力を込める。


「じゃあ、ドラゴンの件は貴方達にお願いするわ。貴方達なら無事にエルフの森を抜けてドラゴンを倒して帰ってこれるでしょうし。それと……」


 何だってモンスターとはあのドラゴンのことだったのか? それにエルフの森? なんとか頭を動かして考えようとするもこうなるともうダメだ。それどころか先ほどよりもセイの吐息は鮮明になりセイの体温が鎧を通して伝わってくる気さえする。とにかく彼女を離さなくては!


 俺が懸命にどうするかを考えると彼女がからかうように耳元で囁く。


「もう少しこのままでね」


 逃がさないとばかりに彼女が俺の体に回した腕に力を込めたのを感じた俺は観念した。

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