12-1.5「最凶のモンスター」●

「ぐっ……」


「どうかされました、魔王様」


 薄暗い城内で突如うめき声をあげる黒いオーラに包まれ姿が見えない主に吸血鬼は声をかける。しかし、彼には大方見当がついていたようでその声には心配のほかに僅かな期待も混じっていた。


「フェンリルがやられた」


「なんと」


「貴様も知っての通り我は愛するペットと若干の痛覚をそれぞれべつの場所でしているため死に至るダメージはすぐにわかる。そしてこの痛みはフェンリルだ。リヴァイアサン、グリフォン、フェンリルと来るともしかしたら貴様が話していたやつらの仕業かもしれんな」


 魔王はポツリと呟くと吸血鬼は口角を吊り上げる。魔王とは違い彼女達が幾つもの自らが仕向けた罠を越えるのをみてきた彼にはそれがダイヤ達の仕業だと考えていた。それ故に海の真ん中にいたリヴァイアサンでも目立つ塔でもなく洞窟内と人目の付かないところにいるフェンリルがやられ彼女達の居場所が確定するのを今か今かと心待ちにしていたのである。

 そして、その時は今訪れた。


「それでは、フェンリルの仇を討ちに行ってまいりますキキッ」


「待て」


 踵を返し去ろうとする吸血鬼を魔王が引き留める。彼にもこの制止は意外だったのか下唇を前に突き出す。


「どうしてとめるのですか魔王様? キキッ」


「貴様に無駄な手間を取らせないためだ。仮にフェンリルを倒したのが貴様が報告した我がペットを倒して回る連中だったとしよう」


「それは面白い仮定ですね」


 幾ら魔王といえど自らがダイヤを手にかけたいと考えている吸血鬼は敢えてここで白を切る。それを肯定し魔王が彼女達に興味を持ってしまったら自分の出る幕がないからだ。


「そうだ」


 そんな吸血鬼の思惑を気付いていないのかあるいは気付いているにもかかわらず気付かないふりをしているのか魔王は淡々と肯定し続ける。


「だとすると、グリフォンとフェンリルを倒したことから奴らは北の国にいることになる。そこで次なる奴らの目的は何か、考えるまでもないだろう」


「ドラゴン……」


「そうだ、我が最も愛するべきペットであり最も強いペットだ。幾らここまで順調に旅をしてきたとしてもドラゴンの前では歯が立つまい」


 それを聞いた吸血鬼は顔をしかめる。その顔は自らの娯楽が終わることの悔しさとドラゴンの恐ろしさを物語っていた。

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