10‐8「氷の城と女王」
馬車に乗ること数日、俺達はスーノの首都イナンに到着した。
「いやー快適な旅だったな」
スペードが防寒着も着ずに馬車から外に出る。彼女の言うように馬車の旅は快適で広いばかりか座席は柔らかく魔法の世界ということで魔法を生かした発達をしているのだろう中に灯がともっているストーブみたいなものがあり暖かかった。
「ちゃんと防寒着を着たほうが良い」
しかし快適故に防寒着を身に着けた俺達がここ数分何度もそう忠告したにも関わらず飛び出してしまったのだ。まあ、荒療治になるけど仕方ないか。そう考えて彼女が降りて数秒後、荷物を探したふりをしていると寒さに震えた彼女が馬車の中へと入ってきたので防寒着を着用するまで待っていた。
「よし、それじゃあ改めて行こう」
彼女のが防寒着を着用したのを見届けるとともに俺達はイナンの街へと足を踏み入れた。すると俺達の視界には氷で作られた鮮やかな城が視界に飛び込んだ。
「これは……」
「綺麗ですね」
「……うん、何度みても綺麗」
「火で燃やしたらどうなるんだろうな」
「スペードさん! ? 」
「……それは元も子もない」
あまりにも夢のない感想を口にして
「こちらへどうぞ、お姫様がお待ちです」
別の馬車に乗っていたこれまで俺達を馬車で迎えてくれた正装に身を包んだ男性が言うと先陣を切って歩き出した。
「ありがとうございます」
俺達は彼の後を追って城の中へと向かった。
「わあ」
「すっげーな」
「……お城の中は初めて、綺麗」
城の床は氷ということはなく大理石と中身まで氷ではないものの多くの窓から映し出される外面のアイスブルーの様子が輝きがとても幻想的だ。
「こちらでございます」
彼はそう言うと淡々と正面の階段を上っていく。話によるとこの城は3階建てで2階はパーティー会場と主としたもので3階が女王の玉座の間のようだ。一人木製の杖をついた男性が待ち構えていた。
「お待ちしておりました、冒険者の方々。どうぞこちらへ」
老人は玉座の間であろう扉に手をかける。
「あの、持ち物検査とかはなされないのでしょうか」
検査で鎧を脱げと言われたら全身包帯を見せ身体を負傷していることを理由にここで待たせてもらおうかと考えたのだがそれどころか検査自体がないといわれてたまらずに尋ねると老人は微笑んだ。
「普段は行っておりますがグリフォンを倒した貴方方に行う必要はありますまい。とはいえ、失礼ながらも警備はいつも通りですが」
そう言いながら男性が押した扉がゆっくりと開かれる。途端に日の光が照らす広い広間が出現する。日の光が氷に反射されているからか明るくとても神々しい印象を受ける。
「お待ちしておりました」
玉座の間の内装に驚く俺達に女性の声が響き渡る。それは淡々としていてどことなく冷たさを感じる声であった。何故かしきりで仕切られていてすらっとしたシルエットしか見えない。氷の城と寒いところだからオーロラをイメージしているとかそういうことなのだろうか。
「今回の功績、見事です。わが軍が全滅の危機にあったグリフォンを一撃で倒すとは……うちの軍はまだまだ未熟と言うことでしょう」
「いえ、我々は貴方の軍が残してくれた情報がなければ壊滅していたかもしれません」
正直に告白する。いつの間にか俺達を玄関で迎えた男性は彼女の側に近寄っていた、何やらヒソヒソと囁いている。
「そうでしたか、とはいえ貴方方が倒したというのは事実。報酬を差し上げましょう」
そう言うと数人の兵士が俺達の元へと何かを持ってきた。それは数本の金塊だった。
「き、金塊! ? 」
密かに期待していたオーブではなかったとはいえ金塊! ? これお金に換えるといくらになるんだ? 有難いことに貧乏丸出しな俺の反応を華麗にスルーして彼女が言う。
「それでは、ご苦労様でした。急な招待に応じてくださり感謝します。本日はこちらでお休みになって明日馬車でお送りしますのでそちらで宜しいでしょうか」
そう女王が言うも俺達はそうはいかない、まだ聞きたいことがあるのだ。横目でダイヤを見てから口を開く。
「まだ、1つお伺いしたいことがあります。女王様はオーブの存在についてご存じでしょうか」
一瞬の沈黙ののちに彼女が答える。
「存じております。ここから北の村レヴィンの更に北の洞窟にあると」
有難い! 彼女はオーブを所持していなかったとはいえ場所は知っていたのだ! ついつい頬が緩む。
「ですが、同時にそこには魔王のモンスターフェンリルが潜んでいるということも耳に入っております」
釘をさすように彼女が言う。フェンリルか……確かに厄介そうだ。だけど今の俺には頼もしい仲間たちに加えグングニルの名を持つ紐がある。戦えるはずだ。
「ご忠告ありがとうございます」
「その反応……いえ、ご武運を。この度のグリフォン討伐見事でした」
「それではこれで」
話は終わったようなので踵を返して戻ろうとした時だった。
「きゃっ」
突如高い声が響く。どうしたのかと振り返るもダイヤ、スペード、クローバーは前方を見てきょとんとしていた。どうやら3人ではないみたいだ。となると今の高い声は一体……
そう考えるが否やズシリ、と背中に重さを感じ大理石に落ちる。鎧越しでも床はひんやりしていて冷たさを感じる胸とは裏腹に背中に存在する温もり。状況を把握しようと振り返ると衝撃的な光景を目にした。
何と、俺の上に倒れている女性は、ドレスを身にまとったゴブリンだったのだ!
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