9-8「富豪の屋敷」

 再びキーホルダーの状態でエトイの街を抜け2キロほどの場所にある雑木林を進むと広い庭に今では水は出ていないが噴水、そして大層な豪邸が目の前に現れる。


「でっけーななあ」


 スペードが感嘆の声を上げる。


「でもこれだけ大きいとモンスター達の目について襲われてしまうのではないでしょうか」


 ダイヤが傷一つない屋敷を見て不思議がって尋ねる。確かに彼女の疑問は最もで俺達は運よくモンスターと遭遇しなかったけれども町の近くだからといってモンスターが存在しないというわけではないだろう。それにも関わらず屋敷は無事どころか傷一つないというのは有難いことだけれども奇妙にも思える。


「その心配はない、この屋敷は門以外は結界が張られていて入れないみたい」


 クローバーがさらりと答える。なるほど、結界か。それならばこの状況も頷ける。


「結界を張れるなんて凄い魔法使いがいるんだね」


「でもダイヤも凄い盾はれるじゃんか」


「いえいえ」


 スペードの一言に対してダイヤは勢いよく首を振る。


「このように離れていてそれなりの強度を何年も維持するなんて出来ません、きっとすごいお方なのでしょう」


「ダイヤの言う通り、この家の魔法は凄い、だから誰も屋敷の財宝を手に入れていないんだと思う」


「なるほど、それだけ手の込んだ仕掛けがあるということか」


「うん、でも、タアハ達となら大丈夫、そんな気がする」


 クローバーの一言に思わず頬を緩めると号令代わりに声を出す。


「よし、皆この豪邸の宝を必ず手に入れよう! 」


「ふふっ、はい! 」


「おっと、珍しく乗り気だなトオハ」


「うん」


 改めて気合を入れた俺達は門を開け屋敷の中へと踏み出した。


 ♥♢♤♧♥♢♤♧♥♢♤♧♥♢♤♧♥♢♤♧


「って、ええ! ? これ全部? 」


 意気込んで屋敷に入り込んだものの視界に飛び込んだ幾つもの扉を目にして間の抜けた声を出す。2階建てのようだけれども視界に入る扉を見るだけでも部屋は10は存在した。どの部屋に仕掛けがあるのかも分からない以上、これを全てくまなく探すというのは骨が折れそうだ。いや、部屋だけではない。ここに来るまでに通った噴水に庭のどこかにあるかもしれない、ディール達には夜には戻るといったけれどこれは見通しが甘かっただろうか?


「大丈夫、ボクも何度かここにきて事前に検討はついている」


 そういうとクローバーは階段を上って一番左の部屋へと歩き出す。


「頼もしいな」


「そうですね」


「これ全部って目に合わなくて良かったぜ」


 クローバーの頼もしさを再認識した俺達は彼女に離されないように小走りで彼女を追いかけた。誇りにより輝きを失った階段を上り左の扉を開け部屋へと入るとそこは応接間のようで4つの椅子と一つの机がありその上に一枚の板のようなものといくつかの駒が置かれていた。


「これは? 」


「あ、スチェですね、懐かしい」


「スチェか苦手なんだよなあ。いっつもオヤジに負けててさ」


「多分、これが鍵だと思う」


 クローバーが左側の椅子の側に置かれている紙を指差す。文字が書かれていてすっかり日に焼けてしまっているけれど意味は読み取れた。


『私は大の負けず嫌い、ここから私を勝たせてみよ』


 見た感じチェスのような駒と文章を見比べて頭を抱える。どうやら今からこの手紙が置いてあるプレイヤー視点で勝利に導けば仕掛けが動くということらしい。だが一つ困ったことがある、見た目がこちらが勇者のような剣士と人、向かい側がフードを被った男とモンスター達と駒の形は違うもののチェスのような駒が使用されていることからもしかしたらルールは同じかもと淡い希望を抱いたのだけれど、俺はスチェどころかチェスのルールも知らないのだ!


「ダイヤ、悪いんだけど俺にルールを……」


「そんな、これは! 」


「……だよな」


「……うん」


 3人が何かに気が付いたらしく顔を見合わせる。美人3人が顔を見合わせるのは絵にはなるけれど話についていけない俺からするとちょっと悲しい。


「すみません、トーハさんルールは後で説明させていただきますが、その前に結論を話しますとこの盤面、絶対に勝てないのです」


「え」


 俺はその後、彼女にルールの説明を受け俺達の世界の将棋と同じルールと言うことが判明し改めて盤面を確かめたのだけど、彼女の言う通りこれは「詰み」の状態であった。

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