7-17「初めての鎧」

「ゴブリンさん、大丈夫っすか? 」


「砂漠の怪物を倒したばかりかバラダを担いできたなんてもんは眉唾もんだがそれで数時間動けないですんでるのも信じられねえなあ」


「ちょっと店長そんなこと言ってる場合じゃないっすよ」


「ははは、大丈夫だよ。本当に俺ですら信じられないんだから」


 二人に笑顔で答える。ワームとの戦いから数日、ダイヤから船であったダーン伯爵が敵ということを聞いて『強化の魔法』のフィードバックで俺が戦えない状態なのと街自体が向こうのテリトリーらしいことからその場では戦わず俺達は幻想の街からすぐに離れた。


 道中、食料が心配なのもあって一度だけ強化の魔法でダイヤ達に加えバラダ2体も担いで走ったりもした。その結果3人とも無事にクシスの街に辿り着いたにもかかわらず俺はこうやって再びディールたちの馬車の中で厄介になっているというわけだ。彼女たちは鎧を注文したのもあって俺達のことを数日ここで待ってくれていたらしい。


 ちなみに、ダイヤ達は今ワームを倒したことを王様たちに報告しに向かっている。巨大なワームなんて説明に困り普通では信じてもらえるかも分からないけれど、頼もしいことにスペードが戦利品としてワームの一部を持って行ったので信じてもらえることだろう。


「まあ、その様子じゃこいつをつけるのはもう少し先になりそうだな」


 ふと店長が子供へのプレゼントをおあずけにするとでもいうように言う。


「プレゼントって? 」


「あ! やっぱりゴブリンさん達が来る直前までどこかに出かけていたのはそういうことっすか! 」


「まあな! 」


 そう言うと店長はにっかりと笑って馬車の扉から外へ出て何か重そうな箱を持って再び入ってきた。


「ま、まさかそれは……」


 中身の見当がついた俺は期待に胸を膨らませながら尋ねる。すると店長が笑って答える。


「おう、そのまさかよ。ご注文の品、到着しましたぜ」


 そう言って店長は箱のふたを開けると俺に見えるように少し傾ける。中には俺の予想通り兜を含む青銅の鎧一式が入っていた。


「おおおおおおおおお! こ、これが! 」


 俺は思わず立ち上がり兜を手に取った。この少しヒンヤリとした感触が心地いい。


「ゴゴゴゴブリンさん大丈夫なんすか? 」


「何が? 」


「身体っすよ、さっきまで本当に辛そうだったのに立ち上がって痛くないんすか? 」


「ああ……」


 言われてふと自分が立っていて痛みも治まっていることに気が付く。バラダを担いだのが昨日のことで丸一日横になっていた訳だがそれでも今まで通りならまだ安静にしていないといけない時間だ。それだというのに既に痛みは引いている。


 もしかして、俺の身体が『強化の魔法』で強くなっているのか?


「まあなんにせよ、治ったならよかったじゃねえか」


 店長にそう声をかけられる。


「そうですね」


 理由は定かではないけれどインターバルが短くなるというのは戦略的にも有難い話だ。となると早速……


「店長、こちらはお幾らですか? 」


「3万ゴルドだ」


「え」


 驚いて思わず聞き返すが店長は顔色一つ変えずに答える。


「まあ最低限身を隠せる安いのってのに重点を置いて探したからな、そんなもんよ。勿論良いのを使いたいとなればそれなりのものを仕入れさせてもらうぜ」


「是非お願いしたいと思います」


 店長が値段もそれなりになるけれど良い品を仕入れることができるということは良く知っていた。そんな店長に1万ゴルド金貨を3枚渡すと鎧を身に着ける。ディールの寸法と予測は完璧でほとんどピッタリだ。これまでの成長速度を考えると成長が続くとしても北の国にたどり着くまでは着ることができるだろう。そして何より────


「おおおおおおお」


 何より──格好いいのだ。このボディ、心なしか歩くたびにカシャカシャとなるこの鎧! 昔本物の鎧を展示でみたことがあるけれどまさか自分が着ることになるなんて! 思わずガッツポーズをする


「どうっすか、って聞くまでもないっすね」


「初めて鎧を身に着けるとああやって男の冒険者は喜ぶもんよ」


 そんな会話をしている2人を他所にひとしきり動きを確かめ終えた俺は


「じゃあ、ちょっと2人を迎えに行ってきます! 」


 と声をかけると軽やかな足取りでクシスの街まで歩いて行った。






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