7-16「ワームとの戦い」
ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!
目の前でワームのようなモンスターの捕食行為が続く。
しかし、ボーっとしている場合じゃない!
「スペード、剣を借りるぞ! 」
ふと我に返った俺はスペードにそう声をかけると砂を蹴り一気にワームとの距離を詰めると剣を思い切り振りかぶった。
ズバッ!
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
俺が剣を振ると確かな手ごたえの後にけたたましい叫びとともにワームが頭を激しく上下させる。たまらず耳を塞ぐ。暴れたおかげで気がついたのだがどうやらこのモンスターは顔はなく全てが口の様だった。
激しい声とともにワームは再び砂の中へと潜っていった。
「しまった! 」
思わず悪態をつく。というのも先ほどの手ごたえからか食事中に攻撃を加えるのは容易そうなのだけれど問題はその食事の時間が終わってしまったということだ! こうなると砂の中にいる敵に攻撃を加える手段はなく先ほどのゴブリンのようにいつ下にくるか分からない恐怖に襲われることになる。
先ほどの攻撃で俺の位置は把握しているはずだ、今にも地面が盛り上がってあの恐ろしいワームが姿を現す気がする。すぐにでもここを離れるべきだろうか? いや、もしかすると……
俺は即座に上半身だけをダイヤとスペードの方へ向け手で2人に動かないように合図をすると人差し指を口の前に当て喋らないように合図をする。それをみた2人は首を縦に振った。
それから待つこと数分、俺の足元の砂が盛り上がり先ほどのようにワームが現れることはなかった。
──やっぱりそういうことか。
俺は頬を緩める。
恐らくあのワームは以前戦ったゴーレムのように音もしくは砂の動きで俺達の位置を探り当てているのだ! それ故に動かなければ襲われることはない! しかし、だからといってこのまま動かないわけにはいかなかった。こうなるとゴーレムの時とは異なり動きを感知しているのか音を感知しているのか分からないというのは厄介だった。動きが封じられているのならば動けない代わりに彼女達と相談して作戦を練ることができる。逆に音ならばこっそりと歩いてこの場を離れて距離を取ることができ更には2人と相談ができる。
けれどもどちらともいえない現状では動くことも声も出すこともできない。今は日が収まっているからいいけれど明日になれば再び熱い日差しに襲われることだろう。そうなると動かないままということはできない、いやそれより早く空腹になり俺の腹がなってそれが感知されるかもしれない。とにかくこうして動かないでいる状態は長く続かなそうだった。
──落ち着いて考えろ。この状況を打破するにしたらどうすれば良い?
目を閉じて自分に問いかける。しかし元から頭の回転がそれほど速いとも言えない俺はそう良い考えは浮かばない。だから俺はこう行き詰った時は敵の情報とこちらの戦力を落ち着いて整理することにしている。
敵の特性は砂の中を自由に行き来ができるモンスターで音もしくは砂の動きを感知して位置を特定し獲物を真下から襲う。それに対してこちらの戦力は力には取り柄のあるゴブリンである俺と剣技のスペードに魔法のダイヤだ。いや、スペードはある程度攻撃魔法も使えると言っていた。そしてダイヤが使える魔法は盾に透明化に縮小に強化…………
ふと、『強化の魔法』の存在を頭に浮かべた時、同時にあの恐ろしい激痛が甦り胸が苦しくなる。
落ち着け、『強化の魔法』はデメリットもあるけどそれだけじゃないはずだ!
自分にそう言い聞かせあの超人的な忍との屋根での打ち合いを思い出す────そして、俺の作戦は決まった。
俺は再び彼女たちに向き合うとまずは伝わるように祈りながらスペードに右手を向ける。スペードが了解したように頷いたのをみると次に俺から数メートル離れた砂丘を指さす。そこからが難しいところだが俺はとりあえず掌を翳すといった様々な思い浮かんだジェスチャーをしてとにかくスペードがあそこの砂丘を魔法で狙ってくれることを祈った。
すると、スペードは了解したというようにニッと笑うと唇を動かしたかと思われた数秒後に、突然小さな野球のボールほどの火の玉が現れ砂丘に直撃した。
グルオオオオオオオオオオオオオオ!
それから数秒してその砂丘からあのワームが首を出す。これで位置を誤認させる作戦は成功した。そして地上に出ているうちは声を出しても動いても構わない! すかさず俺はダイヤに声をかける。
「ダイヤ、『強化の魔法』を! 」
「分かりました」
彼女はそう言いながらも苦し気な表情をする。隣でスペードも似たような顔をしていた。もしかすると彼女達もこのモンスターを倒すには『強化の魔法』が必要だと考えていたのかもしれない。
「『エンハンス』! 」
そんなことを考えているうちにダイヤが呪文を唱え俺の身体が赤いオーラに包まれる。それを確認すると俺はワーム目掛けて剣を構え走り出す。
ズバッ!
俺は先ほどよりも速く、そして力強く剣を振るとワームの胴体を右から切り裂く。
「まだだぁっ! 」
俺は素早く右足に力を込めると振り切った剣を素早く動かして今度は左からワームに斬撃を喰らわせる。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
悲痛な叫びをあげて滅茶苦茶に胴体を揺らしながら地中に戻ろうとワームはもがく。
「遅い! 」
俺はそう言うとワームの胴体を躱しては切りつけ最後はジャンプをしてワームの口に近づくと口の奥に思い切り剣を突き刺す。
グシャ!
と胴体から剣が出たのを確認すると俺はそこからワームの身体を足場にして剣の柄を離しジャンプをして身体を一回転させると柄を掴み体重も込めて勢いよく剣を引き抜いた。
ウガアアアアアアアアアアアアアア
ワームは地中に戻ろうとするのを止め勢いよく胴体を砂に滅茶苦茶に幾度か打ち付けるとそのまま動かなくなった。
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