6-17「勝利の余韻」

「いや~大勝! 大勝! 」


 馬車に揺られながら金貨の詰まった木箱を見ながらスペードが嬉しそうに言う。あの後、再び牢屋に戻った俺は首尾よくダイヤの持っていたパンルの鍵で開けてもらいそこから小さくなりプーテちゃんに固定されながら誰にも見つからずにコロシアムを脱出。スペードが用意した馬車に乗って街を後にしたのだった。


「しかし、何か悪いことをしたかのような逃げ方ですね」


 逃亡劇を思い出したダイヤが苦笑する。


「まあ、金を持ってるとな」


 スペードが得意げにウインクをする。


「それにしても馬車の手はずといい見事な逃走劇だった」


 御者との間に敷居が存在し会話を聞かれる恐れがないので声を出す。


「というかこれも、誰かさんのお陰だけどな! ありがとうなトオハ、トオハが勝たなきゃオレ達はしけた面してここにいることになっていたよ」


 スペードが俺の顔を覗き込む。


「そうですよ、リザードマン2体と知ったときは心臓が飛び出てしまうかと心配しました」


 それは文字通り俺がその通りにやられるということなのか彼女のことなのか、なんて冗談で聞こうとしたけれど自重する。それよりも俺には2人に伝えることがあったのだ。


「スペード、ダイヤ」


「はい? 」


「なんだよ改まって」


 切り出そうと名前を呼ぶと注目を集めてしまい恥ずかしくなる。これが彼女が経験したものなのだろうか?


「リザードマンが相手なのにありがとう、信じてくれて」


 そう、今の俺はあの状況で他の人みたいにリザードマンの勝利ではなくゴブリンである俺の勝利を信じてくれた2人への感謝の気持ちでいっぱいだったのだ。


「他のゴブリンではなく、トーハさんだってわかっていましたから」


 ダイヤが微笑む。


「へへっ、まあ……トオハなら何か悪知恵が働くって信じてたからな」


 スペードが人差し指を横にして鼻下を擦りながら言う。


「悪知恵ってなんだよ……」


 ため息をつく俺をみてスペードは続ける。


「まあ、まさか力でねじ伏せるとは思わなかったけどな」


「本当ですよ、リザードマンに棍棒でダメージを与えたのはびっくりしました」


「確かに、あれはいったい何だったんだろう」


 あの力に関しては俺すらも予想外のことだったのだ。何故あのような力が出たのか、身体の急成長と関係があるのか。それは分からない。


「まあ、とりあえず悪い方向に働いてないんじゃよかったじゃねえか、このままの勢いで次の王様がいる首都まで突っ走るぜ! 」


 スペードが力強くそう言った。


 確かに、彼女の言うように今は考えるよりも喜ぶべき時なのかもしれない。俺は流れゆく景色を見ながら大金を稼いだという事実を改めて思い出して頬を緩ませた。


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