6-15「西の国の暴れん坊」

 目が覚めると、そこは闘技場だった。魔法使いに促されて檻から出る。すると魔法使いは檻を閉めて帰って行ってしまった。それと同時に俺の逃げ場を塞ぐように鉄格子がガラガラと下りる。どうやら相手はまだ到着していないようで残り3つの出口の側には何もいなかった。


 見上げると8メートルほどの壁の上に観客の姿があった。顔までは判別できないがどういうわけか街で見かけた層でも裕福そうな者しかいなかった。また、紫色の装束に身を包んだ者が何人か見受けられた。恐らく彼らが魔法管理官というもので自分が賭けたモンスターが勝つように魔法をかけるのを禁じるために存在しているのだろう。


「『エコーズ』! あーあー……さあ、お待たせしました。第6試合、まずはゴブリンの入場でございます! 」


 わああああああああああああああああああああああああああああああああああ!


 司会の大きな声とともに歓声が響き渡る。


 ひょっとして、この歓声からして俺は期待されているのか? 配当はよくないけれど他はスライムとかそういった拮抗するモンスター同士の試合なのだろうか?


 期待に胸を膨らませて目の前の階段を上っていく、階段は1メートル程でここから落ちたら場外負けというようだ。


 階段を上った土の闘技場に1本の棍棒が置かれていた。俺はそれを拾うと前を向き直る。


 あれ? 信じられないものが視界に入り思わず目を疑う。何度か腕で目を擦って再び見てもどうやら幻覚ではないようだ。3つの出口のうち2つには俺の上ってきた階段に置かれていた棍棒よりも遥かに太くて長い棍棒が置かれていたのだ。


 まさか……


 嫌な予感で額に汗が滲んだ時、再び視界の声が響き渡る。


「お次は2体同時入場です! 西の国から来た荒くれもの、リザードマンA&B! 」


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


 俺が入場するときよりも何倍も大きな歓声とともに階段を上らずとも分かる大きな体をしたリザードマン2体が闘技場に現れる。


 わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!


 鳴りやまない歓声の中、階段を1段1段上ってくる彼らを見て先ほどは遠近法により正確には把握できなかった彼の巨体が段々と迫ってくる。やがて、現れた大きな2体のリザードマンはどちら縦横共に俺の3倍ほどの大きさだった。


「ががががが! 」


「がが、ががががが! 」


 リザードマン2人は俺を指さして何かを言うとお互い笑い出す。同種のモンスターでは会話ができる。オパールさんのメモ通りこの2人は今会話をしているのだろう。


「ががが、ががががががががが! 」


「がが! 」


 2体が棍棒を拾いながら何かを話し合っている。リザードマンの言葉は分からないけれど何を話しているかは推測できる。大方まずは先にこのゴブリンを倒そう、と話しているのだろう。


 俺はリザードマンの会話の内容を推測すると同時に何故この場にコロシアムで見たコロシアムに生活を賭けている見た目をした彼らはこの場におらず、金に余裕のある層しかいないのかも検討が付いた。


 相手は同種のリザードマン2体というこの状態でゴブリンが勝てるはずがないのだ! そうなるとリザードマンに賭けることになるけれど2分の1に加えてこの分かり切った試合に配当もな大したことはないだろうから生活がかかっている者にはこの戦いに賭けるメリットがないのだ! 恐らくこの試合は恐らく金持ちに向けられたもので、目的はリザードマン2体によるゴブリンの蹂躙だろう。彼らはゴブリンが一方的にやられるのを楽しみにしているのだ!

 そうであれば、金の回収という面でもコロシアム側からしてもこの試合を組むメリットは十分にある。


 ふと、スペードとダイヤはこの試合に賭けてくれただろうかと不安になった。幾ら彼女達でもこれほどのアウェイな状況は想像していなかったはずだ。


 しかし、頭を振りその疑念を振り払う。彼女達ならば俺のことを信じてくれているはずだ、と同時に俺はこの負けを望まれている陰湿な試合で絶対に負けるわけはいかないと決意をし棍棒を強く握りしめた。

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