6-5「プラチナバンドの二人組」

 ダイヤとスペードと別れた後、俺は木に登り枝を転々としながら森の中深くへと進んでいく。目的は2人に話した通りゴブリンからこの地方の情報を仕入れることなのだが懸念材料が1つあった。

 それはずばり冒険者ギルドがあり冒険者が集まるこの村でゴブリンが生存しているかどうかだ! ゴブリンが目立つ場合はギルドでゴブリン討伐の依頼で壊滅してしまっている恐れがある。もしかしたらもうゴブリンはいないのかもしれない。


 とりあえず、待ち合わせの夕暮れまでは探そう。


 そう決めて枝を強く蹴る。その時だった。数人の冒険者グループが歩いてくるのが見えた。このままでは見つかってしまうので葉の中に身を隠して冒険者たちが徐々に近づいてくるのを固唾を飲んで見つめる。


 あと少しだ……余計な争いは避けたいから見つからないでくれ!


 あと2、3歩で真下を通ったあたりで祈ったその時だった。冒険者たちの足が止まる。


「待って、何かいる。『サーチ』! 」


 何やら杖を構えトンガリ帽子を被った女性が呪文を唱える。ものすごく嫌な予感がした。俺の予感は見事的中、数秒後に女性が声を張り上げ叫ぶ。


「ゴブリンよ! あの木の上にゴブリンがいるわ! 」


「ギギギィ! 」


 俺は叫び飛び上がると枝を蹴り逃走を図る。それを見た剣士らしき冒険者は剣の柄に手をかけるもすぐに放した。


「まあいいか、襲ってこないなら金になるわけでもないから」


 それを聞いた魔法使いも頷きすぐに何事もなかったかのように歩き出した。俺は安どのため息を吐く。


「平和主義というか現金というか……とにかく助かった。しかし、皆が彼らみたいなタイプだとしたらゴブリンはいるかもしれないぞ! 」


 希望を胸に再び俺は枝を蹴り森の中を進んだ。




 森を探索すること1時間、遂に全身緑色の身体が視界に入る。


「見つけた! 」


 俺はゴブリン目掛けて勢いよく枝を蹴り木から飛び降り即座にゴブリン語で話しかける。


【こんにちは、ここにもゴブリンがいたのですね】


【おお、珍しい。旅の者か。しかし、そんな小さな身体でよく生きていられたなあ】


 そう言ってゴブリンは俺の身体をじろじろ見る。遠近法で木の上からは気が付かなかったが、このゴブリンは成人男性ほどの身長があってかなりの身長差があった。どうやら口ぶりからしてここにいるゴブリンは皆彼くらいのようだ。


【まあ、悪運故に何とかやっていけてるよ】


 俺が答えるとゴブリンは腹を抱えて笑い出す。


【ガハハ、面白い奴だ。ついてこい、洞窟まで案内してやる】


 ついてこい、というように人差し指をクイッと動かすと前を向いて歩いて行った。


 願ってもない展開だ。俺はゴブリンの後を追う。ゴブリンのあとを追うこと数十分、俺達は森の中にある洞窟に辿り着いた。


【どうだ、ここがゴブリンの洞窟だ。こう見えて中は広いのに加え他のモンスターと違って冒険者にも見つからないと来た。我々の素晴らしさを象徴するような洞窟だろう】


 ゴブリンが勝ち誇ったように言う。


【凄いですね】


 答えながらも冒険者達がギルドから歩いて1時間ちょっとの所にある洞窟を見逃すとは考えにくい。きっと見つかっているんだろうな。と考えていた。それと同時に無事ということはゴブリンが人間に悪さをしていない証明だ。悪いことではないので余計なことを言わないように気を付けようと気を引き締める。


【おう、帰ったか】


 気配を感じたのかしわがれた声が響き渡るのと同時に何者かが現れる。ゴブリンでは珍しい杖に髭、ゴブリンシャーマンだった。


 ギルドの近くにも拘わらずゴブリンが生存しているということはいる、とは思っていたけれど実際に会えると心強い。情報を聞き出す点においてこれほど会えて嬉しいゴブリンはないのだ。


【最近調子はいかがですか? 】


【まあ、人間に目をつけられないように人には極力手を出さないようにしているからな。森の果物なんかを食べて何とかやっているよ】


 やはりそうだった、このシャーマンは人に目をつけられないように作戦を練っていたのだ。


【そうでしたか、ところで魔王が召喚したペットというのは大丈夫でしたか】


 さり気なく核心を尋ねる。世間話の範疇なので大丈夫だろう。こういったモンスターの情報は壁に囲まれている街に住んでいる人間よりもゴブリンたちの方が詳しいというのは以前の体験で痛感していた。質問にゴブリンも世間話のようにつまらなそうに答える。


【魔王様のペット? ああ、ベヒーモスなら人間が倒したよ】


 なんだって! ?


 思わず後ろに後ずさると石ころに足が当たった。


【ま、まさか人間が? 】


 あくまでゴブリンとして世間話に驚いている体で話す。


【ああ、そのまさかだ。まさか人間があんなでかい化け物を倒すなんて驚いたよ】


 ゴブリンはどうやらその時のことを見ていたようで思い出すと恐ろしくなったのか身震いしながら続ける。


【人間があそこまで強いとはな、まあ何はともあれせっかくの客人だが、そんなわけで人間には手を出さないでくれ。それ以外なら寛いでくれて構わない】


 ゴブリンがそう言って洞窟内を案内するように踵を返した時だった。


「本当にここにいるのかねえ……」


「確証はねえけど、こういうのはゴブリンのがいるところを当たっていくのが確実だろう? 」


 男女の会話が耳に入った。急いで壁に張り付き外の様子を伺うと鎧を着込み槍を担いだ男性と杖を持ち頭巾を被った女性の姿があり、どちらの腕にもプラチナバンドが巻かれていた。


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