4-13「伯爵の力」♢
クローゼットにいるトーハさんに気付かず船員さんが小麦粉を振りかけるのを何もできずに見つめてから数時間私たちは小麦粉まみれの部屋に留まることもできず食堂にいた。
「おやおや皆さまお集まりでどういたしました? ククッ」
欠伸をしながらダーン伯爵が入ってきた。それをみた船員が小麦粉を片手に駆け寄る。
「これはこれは伯爵様! 誠に失礼ですが貴方の部屋に透明人間が潜んでいるのかもしれません、ですのでこの小麦粉を撒く許可を頂きたいのですが」
それを聞いて伯爵は眉をひそめるも事態を把握できたようで不屈に笑う。
「小麦粉? せっかくですがそのようなお気遣いは必要ありませんよククッ」
「ですがそれでは透明人間が潜んでいたらいつ襲われるとも」
船員が慌てて説得しようと前のめりになり熱弁する。それでも伯爵は落ち着いた様子だ。
「ですから、その必要は無いというのです。何故なら……」
一呼吸おいてから伯爵は信じられないことを口にした。
「……何故なら私は元魔法鑑定士なのですからクククッ」
全員がそれを聞いて言葉を失う。その様子を見てダーン伯爵は私とウィザーさんを交互に見た。そしてウィザーさんを見つめたまま言う。
「まずそこの魔法使いさん貴方の……そうですね得意魔法は視力強化、それも通常とは異なり何倍も強力なものですね? それこそ砂漠の中から金貨1枚を楽々とみつけられる程の。当たっていますか? ククッ」
それを聞いて「おお~」っとウィザーさんの周りで歓声が上がる。どうやら本当に的中しているみたいだ。そうしているうちに今度は私を見つめた。
「貴方は……これはまた珍しい得意魔法は盾の魔法ですか! ククッ」
ゾクリ、と強烈な寒気に襲われる。どうしよう、この人はウィザーさんだけではなくて私の魔法も見抜いている。透明人間がいるのかいないのかは明らかになるだろうけどこれじゃあトーハさんが見つかっちゃう!
スペードさんをチラッと見ると彼女も同じ気持ちのようで額に汗を浮かべていた。
「おやおや、怖がらせてしまいましたかね? しかしその反応は肯定していると取れます。ククッ! 」
私たちの気持ちなんてお構いなしに伯爵は軽快に笑う。ここで怪しまれないように私たちは最後の力を振り絞るように首を縦に振った。
「そして……」
最後にベアドさんを見る。
「貴方は熟練の魔法使いのようですが……得意魔法は……火の魔法で宜しいですね? クッ」
一瞬の沈黙の後ベアドさんは苦々しい表情で頷いた。しかしすぐに得意気に言う。
「まああっしからすれば火の魔法ばかりか強化でそこの格闘家さんみたいに肉弾戦も可能、剣を持てば剣士にもなれると1人でそこの3人組程の力は……いや盾の魔法も使えるんで5人分の力は出せますぜ! 大体得意魔法が視力強化と盾って何のために魔法使いに……」
プツッと何かが切れたような音が聞こえた気がする。急いで横を確認するとスペードさんが怒りを宿した瞳でベアドさんを見つめていた。
「スペードさん、落ち着いてください! 」
慌てて彼女を宥める。3人組のパーティでも同じことが起きていた。
「でもよ、あいつダイヤのことバカにしたぞ! 」
「私は大丈夫です、こういうのは慣れていますから……それに今の私にはトーハさんとスペードさんがいますから」
冒険者になる前からこういった反応をされるのは覚悟の上だった。だから、攻撃の魔法が使えなくても私を必要としてくれたトーハさんとスペードさんには感謝している。
「ならいいけどさ、今度何か言ってきたらガツンと一発食らわせてやれ! 」
スペードさんはそう言って引き下がってくれた。
「それでいかがいたしましょうか。私が皆さまの部屋に透明人間がいるのかどうか見て回るというのは? ククッ」
伯爵が切り出すとともに再び私たちの顔が強張る。しかし、この流れを止めるとかえって怪しまれてしまうかもしれないから止めることはできない。私は動揺していないのを悟られないようにいつもの状態を装うのが精一杯だった。
「大変だったね」
1グループずつ見て回るということでベアドさんとダーン伯爵が部屋に向った時にウィザーさんが声をかけてくれた。
「はい、でも仲間に恵まれましたので大丈夫です、ウィザーさんの仲間も皆さん頼りになりそうな素敵な人たちですね」
「まあね、私はダンジョン専門だから全て彼ら任せになってしまうけれど、本当に頼りになるんだ」
それを聞いてスペードさんと今までベアドさんをどう痛い目に合わせるかという話で盛り上がっていたソアドさんが得意気に言う。
「ウィザーこそ本当、ダンジョンの隠し扉を切れ目がおかしいとかですぐ見破るから頼りになるぞ! 」
「ダイヤの盾の魔法だって…………頼りになるよな! 」
負けじとスペードさんがフォローしてくれるけれど途中歯切れが悪かったのは透明の魔法のことを話そうか悩んだからかな?
話をしているうちに伯爵たちが帰ってきた。
「お互い頑張ろうね、あ、そうだ! これ、お近づきの印に」
そう言って彼女は硬貨のような円形の物を取り出して2つ手渡してくれた。
「これはね、私が作ったのだけどこうやって引っ張ると伸びるんだ。それで切るとね、こっちの面何かにくっつくようになっているから何かを付けておくのに便利なんだよ! 名付けてプーテちゃん! 」
そう言ってピーっと円の一部を引っ張ると細長い線が飛び出した。言われるがまま下の部分を触ると粘着力があり何かをくっつけるのに便利そうだ。
「す、すごいです! 良いのですかこんな素晴らしいものを貰ってしまって! 」
私も代わりに……と何かを渡そうとしたけれどトーハさんから受け取った木の棒しかなかったので彼に教えてもらった通りヒドケイ? というのを説明するととても喜んでくれた。
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