4-2「お店は大繁盛」

 

「さてと、これからどうしましょうか? 」


 係員の老人からチケットを受け取るも船が来るのは日没らしくまだ時間がかなり余っていた。


「どうって、町をブラブラ回るしかねーんじゃねえか? お、ありゃなんだ? 」


 退屈そうに答えたスペードが何かを見つけたようだ、ダイヤがそこに視線を向けると


「また、行列みたいですね」


 こっそり外を見てみるとまたもや冒険者らしき人物が多く並んでいる行列があった。


 何だ? また何かのアンケートか?


「行ってみるか! 」


 スペードがダイヤを引っ張って行列に近付いていく、先ほどは遠すぎて見えなかったがどうやら馬車に列ができているようだ。


 ん? あの馬車は…………


「あっ! あの馬車はもしかして! 」


 ダイヤも気付いたようだ。近付いていくと店員の懐かしい声が聞こえた。


「いらっしゃい! いらっしゃい! はい! 銅の剣っすね! お買い上げありがとうっす! ! 」


 そこにいたのはツインテールの商人ディールだった。隣にはガタイの良い店長の姿も見える。店長ではなくディールが接客をしているのは店の看板娘だからだろうか? 確かに、あの店長の笑顔はなかなか想像できない。

 どうやら、前回なかなか売れないと言っていたのが嘘のような人気っぷりだが一体何があったのだろうか?


「こんにちは、ディールさん」


 行列に並び自分の番が来た時にダイヤが声をかける。ディールに


「あっ、ダイヤさんお久しぶりっす! ゴブリンさんは………………あっ! 」


 ディールは俺をさがしていたのだろうか? キョロキョロとするもここが町中だと気付いて口をつぐんだ。

 その様子をみてダイヤが笑いながら自分のバッグを指差した。


「とにかく、2人とも元気そうで良かったっす! 」


「ディールさんも元気そうでお店の方も凄い行列ですね」


「ああ、ゴブリンさんのお陰っす! 店長はあれからこうやって馬車の営業を続けるために高級志向はなるべく捨てて完全に冒険者向けにシフトしたらこの通りっす! 」


 ダイヤが財布と相談とばかりにバッグを前に出してくれたのでこっそり顔を出して外を見るとディールと目が合った。すると彼女はニッコリ笑ったので笑い返す。その隣で店長が「コホン! 」と咳払いした。


「あれ、あんたもしかして」


 しばらく剣を黙ってみていたスペードが店長に向けて口を開いた。


「おお! ドンカセの鍛冶場の! ! 」


 どうやら知り合いだったようだ。そういえば鍛冶場に新しい仕入れ先がと話をしていたな………………あれは店長のことだったのか。


「親父の剣は………………おおっとこれか! へえ~なかなかいい値段ついてんじゃねえか」


 スペードが顔をほころばせて言う。


「なかなかいい剣だからな! 」


 と店長も満足そうに答えた。この2人はひょっとすると気が合うのかもしれない。


「おっとダイヤ、これ以上はマズそうだ。後ろをみてみろ! 」


 言われて彼女が振り向くと凄い列が続いていたようで「凄い列」と驚いたように声を上げた。


「悪い、じゃあオレは親父の剣あるとはいえあるにこしたことはないから銅の剣1本くれ! ダイヤはどうする? 」


 ダイヤは少し悩んだ様子でスペードのほうを向きながら答える。


「スペードさんに鎖帷子を1つください」


「トーハさんは………………」


 ダイヤがちらっとバッグを持ち上げ尋ねる。


 そう言われても俺にはオパールさんから貰った蒼速の剣に加えて棍棒があるからなあ……特に欲しいものは………………いや待てよ!


「木刀2本欲しいな」


「わかりました。木刀2本もお願いします! 」


 ダイヤがニコッと笑い囁いてからディールに向けて声を張り上げ注文する。


「分かったっす! ちょっと待っていて欲しいっす! ! 」


「いや、ダイヤ! オレはそういうのは良いんだ重くなるから! 」


 スペードがダイヤに2人に聞こえないように囁くとダイヤも囁き返す。


「いえいえ、私は既につけていますがディールさんお手製の鎖帷子は本当に軽くてオススメなんです。1度試してみてください! 」


「分かった、そこまで言うなら悪いからオレが払うよ! 」


 いやいや俺がと割り込めないのが辛い。


「お待たせっす! 鎖帷子が1000ゴルドで銅の剣が1500ゴルド、木刀500ゴルドが2本、合わせて3500ゴルドっす! ! 」


 スペードがディールに銅貨3枚と紙幣1枚を手渡した。


「まいどあり、3500ゴルド丁度のお預かりっす! それじゃあ、ダイヤさん、スペードさん、それからゴブリンさん。お元気で! 」


 ディールが俺にウインクをしたので言葉の代わりにサムズアップで答える。


「気ぃ付けてな! 」


 ディールと店長に見送られながら俺たちはディールの店を後にした。


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