3-6「シャーマンとホブ」

 結局3人は森から出た岩の村から見たら死角になるところに置いてきた。御者の人か馬車に乗って景色をみていた乗客が見つけてくれるだろう。


「それにしても、まさか別の冒険者と遭遇するのは予想外だったな」


 ゴブリンの姿で人を助ければ感謝ではなく悲鳴が帰ってくるのは覚悟していた。しかしそこで別の冒険者が来るのは想定外だった。

 人助けも命懸けだと痛感する。


 とはいえ、これで彼らもモンスターにやられることもないだろうし予想外のことで時間を取られたけど探索を再開することにしよう。

 そう覚悟した時だった。


【おい! 】


 何者かに呼び止められた。声のする方向をみるとそこには俺と同じ緑色の身体をした背丈も同じくらいのゴブリンがいた。

 ゴブリンが何故ここにいるのかは分からないがこちらとしても都合がいい。


【何の用です? 】


【みてたぜ、冒険者をやるなんてあんた強いな~】


 ゴブリンが胡麻をする用に手を揉む、なるほど。先ほどの冒険者との戦いが偶然目に入ってそれ以降ついてきたらしい。ゴブリンは続ける。


【それでモノは相談だけどよ、用心棒として俺たちの村に来てくれないか? 】


【わかった! 】


【そうか! 話が早くて助かるぜ! 】


 ゴブリンが俺の即答に思わず興奮したように声を荒げる。


 要件は予測出来ていた、ケルベロスのことだろう。このゴブリンについていけばケルベロスの情報を得られるどころかゴブリンの住処まで案内してもらえるだろう。こちらとしても願ってもない要請だった。


【ついてきな! 】


 ゴブリンが手をこちらに向け指を自分のほうに向けるジェスチャーをしながら歩いていく。


ゴブリンについて木々を通り過ぎながら歩いていくこと数十分、木々の間から塔のように高い岩が目に入った。

 まさかあれなのだろうか? こんな立派な建物の中にあるなんて秘密基地のようで心が躍る。


【ついたぞ! 】


 ゴブリンが到着を知らせる。本当にここがゴブリンの住処だったとは………………。驚いて声が出ないでいるとゴブリンが


【ボス! 助っ人を連れてきやしたぜ! 】


 と大声を上げた。


【助っ人!?】


【すげー、あいつ剣を持ってやがる! 格好いい! 】


【歴戦の勇者って面構えだ! 】


 大声を合図に次々と数ある穴からゴブリンたちが飛び出し視線が俺に集中する。こんなに羨望の眼差しを向けられて悪い気持ちはしない。

 やがて正面の大きな洞穴から一匹のゴブリンが出てきた。このゴブリンがボスだというのは一目で分かった、それはゴブリンだがこれまでのゴブリンとは違い長老のような見た目で一昔前のドラマに登場するような長い髪のようなもので顔が見えず杖を持っていた。


【おお! よくきてくれた。ワシはこの集落唯一のゴブリンシャーマンで皆からはボスと呼ばれている】


 この老人のようなゴブリンが村で騒がれていたゴブリンシャーマンか! 確かに見た目から色々と知ってそうな知性が溢れている。


【それで貴方は何処から? 】


【トータスです】


 思えば最初に襲撃したのはダイヤの村トータスだが最初に名前を知ったのはニンビギというのは何というか………………というかゴブリンはトータスで通じるのだろうか?


【あーあの村か、大変なところから来たな。あそこを見限って命からがらここまで逃げてきたのがいてな。聞いたよ、ただのゴブリンがボスなんだろ? 】


【ただのゴブリン? 】


 俺は聞き返した。ゴブリンにも様々な種類があるのだろうか?


【やはり知らなかったか……無理もない。なら見せてやろう、おいホブ! 】


 ゴブリンシャーマンはため息をこぼしながら洞穴の方を向き何者かに声をかけた。すると大きな地響きとともに2メートルほどで体格のがっしりしたゴブリンが出てきた。


【ボースー、お呼びですかい? 】


【このホブやワシのように我々ゴブリンは生き残ったら成長してワシのようなシャーマンやこのホブみたいになる。他にも種類があるようだがまあここにいるのはシャーマンとホブだけだ。シャーマンになると魔法が使えてホブになると見ての通りパワーが段違いになる。こうなれば冒険者なんて目じゃない! まあお前さんみたいな例外もいるだろうが……】


 そういいながらシャーマンは俺をまじまじと見つめる。


【さて、お前はどの種類に成長するか、楽しみじゃのう】


 意地悪くクックックと笑った。


 ゴブリンの進化か……それは知らなかった。パワーと魔法ならこれまでも魔法は使えなかったことから安定のためにはパワーを取りたいが魔法というのにも憧れる。更に他の種類ならどちらも使えるようになる! ………………なんてこともあるのだろうか?

 俺は未来の強くなった自分を想像して胸を高鳴らせる。


【それで、お前さんの力を借りたいのだが良いか? 】


 シャーマンがいよいよ本題………………といわんばかりに一呼吸おいてから口にした。こちらとしてもそれが本題なので気を引き締め直す。


【はい! ケルベロスを倒すのですよね? 】


 それを聞いてシャーマンは目を丸くした。


【ケルベロス? あんな化け物に勝てるわけがないだろう! ! 人間だ! この近くの人間の村を襲うのだ! ! ! 】


 シャーマンが声を荒げた、


 人間の村を………………襲う………………?


 今度は俺が目を丸くする番だった。

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