2-22.5「大怪盗パンル」
洞窟内、パンルは誰もいなくなったのを確認すると
「2人一緒に燃えて死ぬ………か、私もあのときそう言って彼女に手を伸ばせていれば…。」
男はそう呟いた後に涙を流した。
後に知ることだが、大怪盗パンルは35年前に全国をまたに活躍した大怪盗だった。事前に白いカードが配られそれに記された黒い文字より犯行を予告するのが常だったのでお金があるという人はいつ我の元に黒いカードが届くのかと気が気ではなかったらしい。
しかし決して人の命は奪わずに盗みを働いていた。自らはお金は十分に持っているのかいわゆる義賊というもので、金持ちの家や王宮の地下からお金を盗んでは貧しいものに配っていた。特に悪い噂がたっているものを標的としていたため市民を味方につけるのが上手かった。
彼の手口はざっくりと分けて前期と後期で2つある、霊体化の魔法を手に入れる前とその後だ。
前期は姿を消す魔法とどんなものでも開けることができる黄金の鍵を用いていた、最初期は姿を消す魔法と鍵という手口も分からずカードが来たからと見張りを置いて警戒していたら、ふと目を逸らした瞬間に鍵を開けお宝を盗むということが多発していたが、その手口が予想されてからは今度はその予想を逆手に取り堂々と見張りに変装して現れたり地下にトンネルを掘って地下から盗むなどという手段も取っていた。
しかしある日高等魔法である霊体化の魔法を盗み出してからは手口はシンプルなものになった、霊体化の魔法と姿を消せる魔法に何でも開けることができる金色の鍵。
この3種の神器というべきものを使用し姿を消した後に霊体化して堂々と扉をすり抜け鍵を使用し宝箱を開ける。シンプルだが防ぐことのできない方法でもはやこの大怪盗パンヌを捕らえるのは困難なことに思えた。
だが、パンヌは1つだけ致命的なミスを犯した。彼には恋人がいたのだが、ひょんなことからその恋人に正体がバレてしまったのだ!
その時は難を逃れたらしいが以後その恋人はその友人間の話になるとパンヌの話題になると挙動不審になったりと明らかに様子がおかしかったのでもしかして兵士に繋がりがあるのでは…と疑いを持たれたのだ!
そして、当時パンヌを恐れていた1人の金持ちの強引な手段によって彼女は捕らえられた。それからその金持ちは何とパンヌ宛に「今夜彼女を代わりに処罰する、嫌なら助に来い。」という旨の予告上を残した、彼が仕掛けを施すことのないように予告の日時はその日の夜だ。パンヌもそれに応えるかのように「恋人を取り戻す。」という旨の予告上を送り付けた。
市民もその戦いには興味津々で不謹慎ながら世間はその話題でもちきりになったらしい。パンヌなら取り返せるという安心もあったのだろう。実際彼はここまで予告上通りに全ての物を例外なく盗んできた。
でも、その市民の予想は大きく裏切られる形になる。元々金持ちはパンヌと盗むか防ぐかの勝負などをするつもりはなく、パンヌが彼女を取り戻したと知るや否や彼女を捕らえていた館とその周囲に火を放った。市民は考えた、パンヌには霊体化の魔法があるからそれで恋人共々逃げ出せるだろう、と。誰も考えなかった、霊体化の魔法は自分1人にしかかけられないのではないか………とは。
結論からいえば、パンヌは霊体化の魔法を恋人にかけることはできなかった。高等な魔法ほど他人にかけるのが困難になる…頭脳はあるも彼は魔法の天才というわけではない、このときの彼はさぞ自分の才能がないことを恨んだことだろう。仕掛けを施す時間もない、前後から迫る炎。彼は恋人をそこに残し逃走した。これが大怪盗パンヌが予告通りにいかなかった最初の事件で彼の最後の事件だった。
それ以来、様々なうわさが飛び交ったが誰も彼の消息は知らなかったらしい。
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