2-22 「嬉しい誤算」
彼女は違う、どういうことだろう?俺は男の霊体化魔法は常時でこちらは攻撃を当てることはできないけど向こうも触れることは出きないと仮説を立て炎の壁を俺自身が燃えることなく越えた。俺の仮説は正しいと証明されたはずだ!
「往生際が悪いぞ、俺が通ったことにより貴方は俺に攻撃を与えられないことは証明された!」
「フフフフフ、なるほど…確かに貴方はここを通った。ですが!貴方はゴブリンです!私の炎は明確な敵のみを確実に仕留める!そして私にとっての敵は、冒険者の資格とやらのために私の宝を狙っている彼女1人!始めからゴブリンの貴方など眼中にはありません!!!」
「うっ………。」
………やられた。今考えたにしては確かに筋は通っている。これまでの流れから嘘だったという可能性は高いが0ではない。もし事実だとしてら大変なことだ。ダイヤが燃えてしまう!!!
俺としても彼女に「奴の言うことは嘘だ!」というのは簡単だが、万が一のことを考えるということができない。
みると彼女も俯き震えていた。
「これで観念したでしょう。さあ、鍵は燃えることはありません。早く彼女に投げて渡して鍵を棺に戻すのです。そうすればこの壁を解除してそこの階段を渡って帰るのを許可しましょう。」
男は告げる。この男は嘘は言わないだろう、目当ては鍵だけなのだから素直に帰れるはずだ。もしそこで男が炎の壁を消さないのならまた鍵を取り堂々めぐりとなるのだから。
例えここで冒険者と認められなくても彼女は構わない、危険を冒してでも旅を続けると彼女は言ってくれた。だが、それでいいのだろうか…?彼女は確かに冒険者になりたいと言っていた。鍵を手に入れたとき、彼女はとても嬉しそうだった。
なら俺のやることは1つだ!!!俺は覚悟を決めて彼女に鍵を投げた。そして………炎の壁に手を突っ込んだ。
「ダイヤ!俺を信じてくれ!!大丈夫だ君も助かる。燃えることはない!もしそんなことがあったら俺もその火を浴びて死ぬ!!もしダイヤだけを燃やして俺が死ななかったらどこかで俺も死ぬ!!!だからこの手を掴んでくれ!!!!」
「トーハ……さん。」
彼女は炎の壁から差し出された手を見るために顔を上げた。
「この期に及んで何を馬鹿なことを!私がウソをついているとおっしゃるのですか!!」
「ああ!俺はそう思う!ダイヤは燃えない!!でも、もしダイヤが怖いのなら無理強いはしない、その鍵を棺に戻してくれ!!!」
俺は続けた、俺と男とは裏腹に彼女は静かだった。伝えるべきことは伝えた………あとは彼女次第だ。男も同じ考えだったようで何も言わない。
この部屋に来て初めての静寂が訪れた、ここってこんなに静かな場所だったのかと感心する。
やがて彼女は決意を決めたように顔をあげて言った。
「私は………トーハさんを信じます。」
彼女は俺の手を掴んだ。俺は彼女を引っ張る彼女の腕…脚…と次々と炎の壁に入っていく…しかし、彼女が燃えることはなかった。
「ふえ?き、きゃああ!」
彼女が壁を通過し終えたとき、疲れたのだろうフッと気が抜けたように崩れる。それを間一髪のところで支えた。
「大丈夫?」
「はい、トーハさんを信じてよかったです。」
彼女は笑顔で答えた。
「じゃあ、悪いけどこの鍵は頂いていくよ。」
彼女が無事立ち上がるのを支えながら見届けた後に男のほうを向いて言った。
男は信じられないことに彼女が壁を渡るのも黙って見ていたというより心ここにあらずといった状態だったが俺の声で我に返ったのか笑い出す。
「フッハッハッハッハッ!!!ゴブリンと少女の命懸けの壁渡り、随分と面白い見世物でしたよ!!楽しませてくれたお礼です、その鍵は差し上げます。何十年と待っても息子は現れないのですから私の鍵に興味がないほどまじめな奴に成長したということだろうからでしょうからね!!ハッハッハッハッハ!!!」
男の言葉に怒りはみえず、心の底から笑っているように思えた。
一応俺は手を振り、彼女はお辞儀をして階段を上って行った。
階段を上り切ると何度見たかもわからない岩に模した扉があった。扉を開けると眩しい陽の光が差し込んだ、眩しすぎて思わず目を閉じる。
驚いたことにニンビギが正面に見える。見渡すと俺たちが昨日集合場所にしたところより100メートルほど離れた場所だった。こんなところに大岩があるだなんて気にも留めなかった!
「予想外の大冒険だったけど、何とか手に入ってよかったね。」
俺は彼女に声をかけた。彼女も同じように眩しそう目を閉じて手で陽の光を遮るかのように覆っていた。
「はい!これで私も冒険者として旅に出ることができます、ありがとうございます!」
彼女が丁寧にお辞儀をした。
「どういたしまして、でも君がいなかったら突破できなかったよ。だから俺こそありがとう。」
「どういたしました。その言葉、ありがたく受け取ります。ついでに1つ私からのお願いを聞いて頂いてもいいですか?」
改まった様子で彼女が尋ねる。お願い?何だろう?
「まあ、金銭的なものじゃない限りで聞ける範囲なら。」
これは俺が生きていた時(というと奇妙だから向こうの世界というべきか)は頼みがあるというらしい友人にはこう返していた。
「はい、これからは私のことを君ではなくダイヤ、と名前で呼んでくれませんか?」
「え゛?」
「やっぱり、冒険者の仲間同士名前で呼ぶべきだと思うのですよ。君って何か遠い気がしますし………ですからこれからは私のことは名前で呼んでいただけませんか?」
「いやでも知らない人に、ゴブリンに名前で呼ばれるって嫌じゃない?」
前から気にしていたことを口にする。年頃の女の子となれば余計にその傾向があると思ったのだが違うのだろうか?
「別に嫌ではありませんよ?それどころか、私の名前を呼んでくれた時は嬉しかったです。」
どうやら俺が心配しすぎていたようだ…嫌がるどころか、嬉しかったなんて嬉しい誤算だが女の子は分からない。
「わかったよ、それじゃあいきなり大冒険になっちゃったけど冒険者登録のためにニンビギに向かおうか………ダイヤ!」
「はい!」と彼女は力強く答え、手に入れた鍵を手に2人でニンビギへの道を歩いて行った。
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