2-21「炎の壁」
そう、理屈は分からないがこれしか考えられない。全ての状況はこの事実を物語っている。男は俺が剣を投げ万策尽きたときにこちらに手は残されていないと、勝ちを確信して鍵を拾おうとしていた。だが、拾えなかった。俺たちに本当に打つ手はなく見ているだけだったというのに!
「まあ、気付いたのは彼女のお陰なんだけど…。」
紹介するようにダイヤのほうをすると「そんな…」と彼女の顔が赤くなった。
「し、証拠はあるのか?」
「だったら、俺を攻撃してみるといい!」
反論する男に対し俺は両手を広げる。
「みての通り今の俺は剣も何もない。カウンター何か狙えない。さあ、攻撃してみろ!」
男は悔しそうな顔をし歯ぎしりをする。
「ならこっちから行かせてもらうよ。」
そう言って俺は男にパスをするように軽く鍵を投げた。鍵は放物線を描き綺麗にチャリーン!と地面に落ちた。
「と、いうわけ。」
俺は男と重なるのを構いもせず接近し透けている男の真下にある鍵を拾った。
「悪いけど、この鍵は貰っていく。」
そう言って彼女に声をかけ階段に向かって歩き出した時だった。
「ぐ、ぐぐぐぐぐぐぐ…うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!『フォイエア!』」
男が叫んだ後に呪文を唱え目の前に炎の壁が現れる。
「私の呪文が!効果ないと!ただのコケ脅しだと!そこまで言うのなら!この炎の壁を通り抜けてみろ!!!」
「そうさせてもらうよ。」
「ですが、もし万が一のことがあったら…」
彼女が心配そうな声を上げる。
「大丈夫だよ、ほら!こんなに近くにいるのに熱くないでしょ?」
俺は炎の前でヒラヒラと手を振って団扇のように彼女のほうに風を送る。現にこんなに近くにいる俺は熱くもなんともない、今まで警戒し近付かないから熱くないと思っていたのだが、何てことはない…始めから炎なんてないも同然だったのだ!
「ならば早く、通ってみせろお!」
男は急かす様に言う。それを聞き俺はまず左手を出した。確かに、男の今までの行動が演技で実は実体化できるのに実体化しなかった!というのはないとは言えない。その場合、俺の手は焼けることになる!いや最悪安心して通過しようとした瞬間に実体化して身体ごと焼かれてしまうかもしれない………。
しかしそうだとしたらこちらにもう打つ手はないのだ!今必要なのは時間でも何でもなく今この壁を通り抜ける勇気だ!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺は思い切って一歩踏み出しまず左手を壁に突っ込む!
何も起きない………。続いて左腕………右脚………胴体………最後に遅れていた左脚。俺の身体が燃えることは………なかった。俺は「ふう。」と安堵のため息をつく。
「やりましたね、トーハさん!トーハさんの思った通りでした!!」
彼女が壁の向こうで嬉しそうな声を上げる。
「ああ、次は君の番だ!」
そう彼女を促したその時だった。
「フハハハッハハッハハハハッハハ!あれだけ自信満々だったのに、ただの空気同然のものを通過するのにあれほど迫真な叫びをあげるなんて、随分と面白いものを見せてもらったよ!」
「ついに、認めたか。これがただのハッタリのようなもので効果はないと!!!」
言質取ったように勝ち誇ったように言う俺に対し男は先ほどみたいに狼狽せず、ただただ笑っているだけだった。
「ええ、貴方自身はね!ですが、彼女はどうでしょうか?」
男は彼女を指差しまたおかしなことを口にした。
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