2-20「大怪盗の謎」

剣は炎の壁を抜け男目掛けて一直線に進んでいく。男は気付いた様子もなく今にも鍵に触れようとして鍵に手が触れたその瞬間に剣が男を貫いた!!!




………が、剣は何もなかったように男を通過して壁にガン!と音を立てて突き刺さった。




「き、貴様は性懲りもなく………まあ、良いでしょう。イタチの最後っ屁ということで見逃してあげますよ。」




音で気付いた男は一瞬怒りの表情でこちらを睨みつけたが目の前に鍵があり、これで阻む手段がないという圧倒的勝利の状況をみれば取るに足らないことだったのだろう、すぐに鍵のほうに向きなおり鍵を取ろうとした。


今度こそ打つ手はなくなった………




しかしどういうことだ?今のは自分でもびっくりの奴も気付かず鍵を手に収めるところとタイミングもバッチリのまさしく奇跡の一撃だったはずだがそれでもすりぬけた。360度どこにでも目がついていて危険と察知したら本人の意思に関係なく霊体化を保つ便利な魔法を使っているのだろうか?




俺が悩んでいる間に男は勝ち誇ったように俺たちを通り過ぎて鍵を収め元の場所に戻し消えると思いきやまだ鍵のところに座っていた。やがて鍵を持たずに立ち上がるとこちらを向いた。




「本来ならばここで私が鍵を取って元の場所に戻しはいおしまいというところですが、貴方方にも筋は通してもらいます。もう無駄だということはおわかりでしょう?貴方方の手でこの鍵を元の場所に戻しなさい。」




男が奇妙な提案をした。




「俺たちの手で鍵を戻せ」、その提案の真意が分からなかった。自分で戻せばいいのに…。これを好機にできないだろうかと考える。




「待った、まずはこの炎の壁を消してもらわないと向こう側に行くことができない。」




 今俺たちと壁の間には炎の壁がある。奴はすり抜けることはできるが俺たちにはできない。別に何かを企んでいるわけでない場合でも至極当然の要望だ。




「これはこれは失礼致しました。」




そう言って杖を振り炎の壁を消した。正直、消そうとして消さないで勝ち誇るだろうと思って警戒していたのであっさりと炎の壁を消したのをみて目を丸くする。それに何か口調が丁寧になっていないか?




「どういうことなのでしょうか?炎の壁を消すなんてしないで自分で戻せばいいのに。」




彼女も疑問に思ったようだ。




「そう見せかけて油断したところを不意打ちしよう、と企んでいるのかも………。」




「そうかもしれません、もしくは………何か理由があって自分では触れないとか?」




彼女が囁いた。




自分では触れない…?そんなことがあるのだろうか。しかし考えてみれば奴には攻撃を与えられていないがくらってもいない、それに奴が鍵を拾おうとしたときに態度を翻したのをみると、この可能性は十分にありえるのではないだろうか!




「おッと鍵を戻すふりをして逃げ出そうという話をしているのならご心配なく。『ファイエア!』」




俺たちの会話を逃げ出す作戦を練っていると勘違いしたらしく炎の壁が階段の前に出現する。




「このように出口は塞いでおきましたので。」




男は釘を刺すようにお辞儀をして言った。




「トーハさん、あの人私たちが入ってきた扉には炎の壁を使っていません、もしかしたら向こうから逃げ出せるのでは?」




彼女の言うように俺たちの入ってきた岩を模した扉には炎の壁が作られていない。




「ここを作ったやつならそれを見逃すはずはないから多分向こうからは脱出できないんだと思う。でも、最後の手段としてそれはアリかもしれない。」




実際、ゴーレムの所に行く扉は一度入ると出ることができない仕掛けになっているのでそこで詰まってしまうだろう。もう1つどこかに秘密の扉が隠されているのかもしれないが、奴の反応を見るに可能性としてはかなり低いと思う。




「それよりも、君の言ったことを確かめてみよう。」




「え?」と彼女はきょとんとした顔をする。もしかして、無意識で言ったのだろうか?




「鍵に触れられないってやつ。」




「ああ…。でも、確かめるってどうやって…」




「まあみてて。」




俺は男のほうへ歩くと彼女も疑問に思いながらもついてきた、2人で男の前に立ち俺が鍵を拾う。




「さあ、それをはやく棺に納めるのです!」




男が興奮したように言う。その様子を鍵を上に投げては掴む、という動作を繰り返しながら横目で見る。




「なんかおかしいな。急に態度が変わったり、自分で戻せばいい鍵を俺たちに戻せって言ったり。」




「な、何を言うか!貴様たちが取ったのを貴様たちが返すのが礼儀と思ったまでだ!」




男は負けじと言い返す、まあここで言い争っても長くなるので続けるとしよう。




「最初におかしいと思ったのは俺たちの攻撃が一切当たらない時だ、こちらの攻撃はどれも奇跡ともいえる絶妙なタイミングでの攻撃だったのにどれも当たらない、その段階ではまだ貴方の魔法が貴方の意思とは関係なく危険を察知したら透明になる便利なものだと思っていた。」




「そ、そうだ!私の魔法は特別でそのような便利なものなのだ!」




男が冷静に言うも声は震えていた。実に分かりやすい反応だ。生前、大怪盗というだけあってこのように問い詰められることはなかったのだろうか?




「そう、貴方もそこまで便利なものかは分からないけど生前恐らくこの魔法を使えたんだろう。霊体化の魔法事態に抵抗はなく、禁術による特典なのだ、と考えていたのかもしれない。」




男は何も言わない。気にせず続ける。




「もしかして、今まで気付かなかったけどさっき鍵を拾おうとしているときに気付いたのでは?俺たちは貴方を攻撃できないけど同時に貴方も俺たちを攻撃できないことに!」




俺は犯人を指名する探偵もののように指をさして高らかに宣言した。

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