2-18「霊体化した大怪盗」
おびただしい声が遥か頭上から響いた。まだ敵がいたのか!頭上を見上げると黒いシルクハットを被り杖を持ち顔を仮面で隠し黒いスーツで身を包んでいる奇術師のような男?がこちらを見下ろしていた。
浮いているのは大怪盗故の魔術か?トリックがあり空を歩いているようにみせる、というのはみたことがある。しかし彼に限っては半透明なところを見ると幽霊だろう!鍵を取ったときに現れたことを考慮すると恐らくこの鍵の番人だ!
まだ終わっていなかったのか!家に帰るまでが遠足の如く持って帰るまでが試練ということか…。あまりの試練の多さに悪態の1つでもつきたいところだがそうもいかない!
「行くよ!!!」
俺は戸惑う彼女を担ぎ一気に階段まで走り出す!こちらとしても冒険者になれるかいなかがかかっておりここで正直に返すわけにもいかないので幽霊なんて物騒で何をしてくるのかわからないものは相手にしないに限る!!
「逃げる気か………そうはさせるか!!!」
走り出した俺をみてすかさず男はさっと手に持っている杖を振った。
「『ファイエア!』」
途端に俺の100メートル先にボウッ!と炎が一列に灯る。床は大理石で火がつくようなものは何処にもないのだが燃える、これが魔法の力だろう。見渡す限り穴はない。
俺は舌打ちをして足を止め彼女を下ろした。……逃走は失敗だ。
「さすが大怪盗、魔法なんかお手の物というわけか…」
俺は皮肉たっぷりに言った。大怪盗と呼んだのは大怪盗と棺に書かれていたこととその中身を取った時に出現したことからの推測だ。しかし、俺の世界での大怪盗も空を飛んだり火をつけたりするのは漫画で呼んだが、どれも科学的なトリックがあるものが多くこの魔法が使える世界で大怪盗と呼ばれる男は一体魔法を使いどのような盗みを働いたのか気になるところではある。
「あまり使いたくはない呪文でしたが、ゴブリンとはいえお褒めにあずかり光栄です。」
彼は負けじと素直に賞賛と受け取ったかのように丁寧にお辞儀をしながら続ける。大怪盗と呼んだのに反論無しということはこの男は棺に書かれていた大怪盗パンルなのだろう。
「しかし貴様らもよくやった、我が一族の者しか教えていない秘密の扉を幾つもみつけてここまで来るとは…。しかし、散々盗んできた私が言うのもなんだが自分のものが盗まれるというのはあまりいい気分がしないものだ。」
「一族?」
「ああ、我が鍵を代々受け継がれる怪盗としての家宝としようと身元を隠しつつ育てた息子にこの場所と各カラクリの解除の仕方を記した紙を残したのだが、万が一にも他のものに横取りされることのないように禁断の魔法で鍵を取られたときに魂だけでも復活できるようにしておいたのだが、どうやら正解だったようだな。」
何だろう、一族代々ってそんな壮大な試練なのか?それともそういう設定なのだろうか?
「トーハさん、何かおかしいですよ?」
彼女も違和感を覚えたようで囁いた。一体どういうことなのだろう………。
「これは冒険者の試練の一環では!?」
考えても分からないのでこの洞窟に入って言葉が通じる人というのもあり思い切って聞いてみることにした。
「冒険者の試練…?」
男は訝しげな表情をする。何だろう、何か嫌な予感がする。
「私はダイア・ガーネット!王様から冒険者の資格を得るための試練としてこちらの洞窟の最深部にあるものを持って来るように言われてここにきました!それで貴方は一体?」
畳みかけず彼女が自己紹介をしながら質問をすると何やら男が小さく震えた。
「フ…フフフフフフフ!フハハハハハアハハハハハハハハハ!!!!この大怪盗パンルの洞窟が!鍵が!今ではおつかい感覚で半人前の冒険者の試練なんぞに使われるだと!!?喋るゴブリンと言い随分とふざけた時代になったなあ!!!!」
男は笑い出したとも行きや目に怒りを浮かべていた。マズいぞ…これは怒らせたらいけないタイプの人が本気で怒ったやつだ。
「奪えるものなら奪ってみろぉ!」
男が激情し杖の先端を触る、何やら改造を施してあったようで先端がポロリとはずれ鋭い刃が現れる。この刃で一刺しにしてやらんとばかりに襲い掛かってくる。
「『シルド』」
咄嗟にダイヤが盾の呪文を唱え周囲がシールドに覆われる。彼女の機転に感謝だ。
戦闘に置いて相手の出方を安心してみることができる彼女の呪文は非常に助かる。これに対し奴はどう動くのか…。
「盾の呪文か、少しはできるようだが………それがどうした!」
男はシールドが展開されたのをみても動じず突撃を止めない、それどころか加速したようにもみえる。
自滅する気か?いやそんなはずはない!仮にもし破られたとして奴の向かう先は………ダイヤだ!俺は万が一に備え彼女の前に立ち背中の剣を抜き構える。来るなら来い!
俺が彼女の前で構えて間もなく、男がシールドに勢いよくぶつかる、そして男は痛みに悶える………はずだった!奇妙なこと、いや幽霊としては当たり前のことだが彼女のシールドをないもののようにすり抜けたのだ!
「そんな…盾の呪文をすり抜けるなんて!トーハさん!!」
彼女が心配そうな声を上げる。動揺したのか盾の呪文が消えた。盾を通過されたなら刃で貫かれるのは無論、彼女の前で構えている俺だ!
「終わりだあああああああああああああ!!!」
杖の先端の刃で貫かれるその刹那、俺は飛び上がり剣を振った。カウンターを狙ったのだ!だがそれも空しく剣は空を切った。ただ無駄な行動に終わったというわけではない!男の杖も俺の身体を突くことなくスーッと通過していったからだ!いやな気持だが仕留められるというのも無事避けることができた。
「霊体故にシールドをすり抜けると推測して実体化するであろう攻撃時を待ち構えてカウンターを狙うとは…ゴブリンのくせに随分頭が回りますね!」
男が再び距離を取り吐き捨てるように言った。
「お褒めに預かり光栄です。」
俺はニヤリと笑い丁寧にお辞儀をした。
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