第97話 魔物討伐試験 ②

「マリア! そっちに行ったぞ! そのワイルドモンキーは、肉ランクA級の魔物だ!」


 何ですと? お肉のランクがA級?

 ティーノ、あなたまさか魔物の分類を肉の美味しさで振り分けていらっしゃる?

 恐るべし、飲食店会社の御曹司、なかなか侮れん。


 ここまでは順調に下級魔物を倒し、魔石は三個獲得。

 そしてこれで四個目ゲットだ。

 この調子で一位を狙うぞ。


「任せなさい!」


 私がそう叫んだと同時に横から何者かに突き飛ばされた。


「どけ! これは、僕達の獲物だ!」


 はあ?!

 ちょっと! 誰?!

 倒れ込みそうになるのをすんでのところで踏ん張りながら声の主を振り返る。


「シリウス・ニューマン! なにするのよ?! これは私達の獲物です!」


「違う、僕のだ。『遠目』を使って君たちより先に見つけたんだ」


 な! どんな理屈よそれ?

 人の獲物を横取りなんて、さてはA級ランクの肉と知っての所業だな?

 許せん!


 私達が言い争っている間に、シリウスの残りのチームメンバー四人が追いついた。

 なんとその中にドリーの姿を発見。

 ドリーは私と目が合うと困ったようにそっと微笑んだ。


『ガウキー! ガウキー!』


 あ、ヤバイ、ワイルドモンキーが仲間を呼んでる。

 モンキーという名前だが見た目はゴリラの凶暴版だ。

 目つきが悪いうえに、牙が生えている。

 単体では、力は強いが動きはさほど素早くない。

 だが、こうして自分が危機に陥ると仲間を呼んで戦闘態勢をとることから、勝負は仲間を呼ぶまでにつけることが肝心なのだ。


 あれ? でもおかしいな。

 こんな森の浅い場所でワイルドモンキーなんて出てくるんだっけ?


「おい、ここはひとまず待避だ! ワイルドモンキーの仲間が来たら面倒だぞ!」


 ダニエルのその言葉に私達は一斉に声をあげる。


「「「わかった!」」」


「ほら、シリウスさんたちも行きますよ!」


「は? 僕たちはワイルドモンキーが増えても平気だ。僕のチームには剣術大会の優勝者がいるし、僕は三属性持ちだ。それに回復役のドリアーヌ嬢は聖巫女様だ。多少怪我したところで問題はない。他の二人もそれぞれ剣も魔法も得意な者たちだ。君たちみたいな弱小チームとは違うんだ。君たちはさっさと逃げるがいい」


 ああもう、自分の力を過信してるけど大丈夫かな。

 シリウスが怪我しても同情はしないけど、ドリーになにかあったらただじゃおかないぞ。


 とりあえずこの場を離れて、様子を見ますか。

 ダニエルの『遠目』とティーノの『地獄耳』で彼らの様子を離れた場所から観察する。


 大見得を切っただけのことはあるみたいで、今のところ三頭に増えたワイルドモンキー相手に危なげなく交戦しているようだ。


 ダニエルとティーノの解説を聞きながら、私は先ほど思ったことを口にしてみた。


「ねえ、今私たちがいる場所って森の第一層地帯よね? そんな浅い場所になんでワイルドモンキーがいるのかしら?」


「そうよね。下級魔物のレッサーモンキーならわかるけど、ワイルドモンキーってたしか中級魔物よね?」


 シャノンの言葉に頷くと、イデオンが口を開いた。


「まあ、森はずっとつながってるからワイルドモンキーがいても不思議はないのかも。たまたまなんじゃない?」


 私達三人がそんな話をしてる中、シリウス達の様子を観察していたダニエルとティーノが同時に声をあげた。


「「まずいぞ! 助けに行かなきゃ!」」




 駆け付けた時に見た光景に唖然とする私達。


 シリウス達は三頭いたワイルドモンキーを見事倒したようだが、肩で息をしているところを見るとだいぶ体力を消耗しているようだ。

 立っているのがやっとといった状態。


 その原因はワイルドモンキーキングと対峙していたからだ。


 ワイルドモンキーの突然変異で生まれてくる亜種だ。

 ワイルドモンキーよりもさらに一回り大きく、毛むくじゃらの手には長く鋭い爪が付いている。


「なんでここにワイルドモンキーキングがいるの? これって上級魔物よね?」


 思わず叫んだ私に、お肉博士のティーノは言った。


「ああ、そうだマリア。こいつは上級魔物だ。だがな、上級魔物の肉が必ずしもランクがA級とは限らないんだ。こいつの肉はA級どころか食べられないんだ。残念だったな」


「いや、ティーノ、マリアはたぶんそういうことを聞きたいわけじゃないと思うぞ。っていうか、これ、どうする? のんびりしてる暇はなさそうだぞ」


 ダニエルのその言葉にハッとして周りを見ると、シリウス達男子三人はもう疲れ果てて使い物にはなりそうもない。

 そして、少し離れたところではシリウスチームの女の子がドリーに抱きかかえられていた。

 腕から出血していることからワイルドモンキーキングの鋭い爪にやられにちがいない。


「イデオン、安全な場所でドリーと一緒にその子の怪我を見てあげて。シャノン、ワイルドモンキーキングの両足を狙って火の魔法弾を撃ち込んで!」


「「わかった!」」


「ダニエル、ティーノ、私達はシャノンが魔法弾を撃ち込んで動きを止めているすきに奴を討ちに行くわよ」


「「おう! 行くぞ!」」


 私達は、シャノンが魔法弾を発射したと同時にシリウス達をかばうように前に出た。

 自分の足に俊足魔法と風魔法を併用して飛び上がり、ワイルドモンキーキングの首を目掛けて剣を振り下ろす。

 同時にダニエルとティーノはそれぞれ奴の両腕目掛けて斬りつけた。


 両足に炎の魔法弾を受けて身動きできないところを、三か所同時に切りつけられたワイルドモンキーキングは、おびたたしい血を流しながらバッタリとその場に倒れ込んだ。


 そこへ、シャノンが背中に強力な火炎弾を撃ち込み留めをさすと、雄叫びを上げながら絶命した。


 その間に怪我をしていた女の子は無事にドリーの治癒魔法で回復したようで、私達はシリウスのチームと別れて第一層地帯の奥を目指して歩く。


 なんでこんな浅い場所で上級魔物に出くわしたのかが謎なんだけど、とりあえず、最低合格ラインの魔石個数はあと一つ。


 途中、お昼休憩をはさみ、高い木々がうっそうと茂る道々で、薬草を採取しながら歩いていると、『地獄耳』のスキルを発動中のティーノが手で止まれの合図をした。


「複数の人間がこちらに走ってくる音がする。魔物に追われているみたいだ」


 ティーノのその言葉に今度はダニエルが『遠目』を使って状況を確認する。


「B組のサムエーベルのチームと、はあ……またシリウス達だ。あと、もう一つチームがいるな。C組のやつらかな。どうやら、女子が二人と男子が三人、魔物にやられて負傷してるみたいだ。そして……まずいな結構な数の魔物に追いかけられているぞ!」


 ダニエルのその言葉に私達は救出のため走り出す。

 サムのチームには、確かリリーがいるはず。

 もしかして怪我しているのがリリーだったらどうしよう。

 それに、ドリーのことも心配だ。

 先ほど、治癒魔法を使ったはずだから体力も魔力もすり減っているはず。




 ほどなくすると、魔物に追いかけられているサム達の姿が視界に入る。

 ざっと数えたところ下級魔物が十頭、中級魔物が六頭、上級魔物が三頭で全部で十九頭か……。


 怪我をしている五人を介助しながら逃げる一団。

 それを、かばいながら、サムとシリウスが背後に迫る魔物に向けて攻撃魔法で距離を稼いでいた。


 まずいな。

 あれじゃ、体力も魔力も遠からず尽きちゃうぞ。


 あ! そうだ、ここでイデオンの秘密兵器のお披露目だ!


「イデオン! あれ、あれ! 目つぶしと鼻つぶしの魔法薬の瓶、あの魔物の軍団の上に投げて! シャノン、奴らの頭上で瓶が割れるように風の魔法弾発射して。ダニエル、ティーノ、私達はこちらに魔法薬が来ないように風魔法で防ぐわよ」


「「「わかった!」」」


 私達はサム達一行に合流すると援護体制に入った。


「みんな! 念のため、目と鼻、両方、押さえて頂戴!」


 私の言葉と同時に魔物達の頭上で瓶が炸裂した。


『『グオーン!』』『『ギー! ギー!』』


 おお、すごい。

 イデオン特性の魔法薬をまともに浴びた魔物達が悲鳴を上げながら悶絶してる。

 あんなにいた魔物は四方に逃げて行って、この場に残ったのは中級、下級合わせて十頭。

 それをダニエル達と手分けをしてさくっと討伐。


「しっかし、臭い! イデオン、これのもとはなんだ?」


「えっ? 知りたいの? でも聞いたらしばらくご飯が食べられなくなるかもよ?」


「い、いや、やっぱり、知りたくない」


 ダニエルの言葉に深く同感。

 ああ、でも、臭気の残渣がまだ空気中に漂ってるよ……。

 この魔法薬をまともに嗅いだ魔物達にちょっと同情する。


 そんな私達を呆然と見るサム達。

 みんな魔物の血なのか、自分たちの血なのか、ぱっと見わからないくらい汚れている。

 それにずいぶんと疲れているようだ。


「ふう……マリア、ダニエル達、助かったよ」


「マリア! シャノン! ありがとう。ダニエルさん、ティーノさん、イデオンさんも! 助かりました」


「サム、リリー、間に合ってよかったわ。でもなんでこの状況に?」


 サムの話によると、第一層と第二層の境界で討伐を行っていたところだんだん魔物が増えてきたそうだ。


 そのうち、シリウス達が到着して協力しながら魔物を倒していたが、数が異常に増えたことと、魔力と体力が尽きてきて、五人が負傷したことで撤退していたところだという。


 負傷した五人の手当ては、とりあえず止血と鎮痛だけ処置した状態らしい。

 それをしたのはドリーと、サム達のチームのミルシェ・ポラークさんだ。

 ミルシェさんは治癒魔法ができる平民の特待生らしい。


「もっと安全な場所に移動しよう。早くその怪我の手当てをしないと化膿して傷跡が残るといけないから」


 イデオンのその言葉に、ぐったりと男の子に身を任せていた女の子が大声を上げた。


「早く! 早く、私の手当てをしてちょうだい! ちょっと、あなた聖巫女なんでしょう?! 私は、エミリエンヌ・ベリオーズよ。この中の誰よりも先に治療を受ける権利があるわ」


 へ? なにその権利?

 赤いツインテールの髪にブルーグレーの瞳。

 ぱっと見は美人なんだけど、なんだか高飛車な感じの女の子だ。


「ま、まずいぞ、あっちの方から魔物達が走ってくる音がする。逃げるぞ! ダニエル、遠目で安全な場所を探してくれ」


 ティーノの言葉に私達は走り出した。



























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