第23話 婚約者なんて面倒くさい

 さあ、今日から魔法のお勉強開始。

 前世は魔法なんて空想の世界だったからね。

 昨日は興奮してなかなか寝付けないほどだったよ。


「マリア様の属性は何かしら?」


 えっと、マリアーナの属性はたしか風だっけ? あれ? 水だっけ? あっ! そう言えば、聞いてなかった。

 聞いてるのは、属性は一つで魔力量も少ないって事だけだ。


「えっと、分かりません。あ、あの私、記憶の方がちょっと曖昧でして…確か属性は一つで魔力量も少ないと言うことしか…」


 そう言った後で言語チートの事を思い出す。

 もしかして界渡りの乙女の魔力が、この体に全部移行しているってことはありえる?


「ああ、そうだったわね。じゃあ、全部の属性の言霊を唱えて試してみましょう」


 言霊とはこの世界では呪文の事らしい。言葉に魔力を乗せて具現化する方法だ。

 発動した魔法にさらに強い力を込めるのが詠唱ね。

 初心者は言霊で魔法を発動、詠唱で威力を高める。


 でもこれって魔物に襲われてるときにこんなまどろっこしいことやってたらられちゃうよ?

 それに詠唱ってなんだか中二病的な恥ずかしさを感じる。


 ちなみに、錬金術や錬成術、魔法陣など、魔因子を集めて発動するものは魔術と言うらしい。


「じゃあ、あたしが見本を見せるから同じようにやってちょうだい。面倒だから基本の4種の属性の言霊を一斉に唱えるわよ」


「えっ? 全部いっぺんに? そんな事できるんですか?」


「まあね。では、両手のひらを前に出して全身に魔力を循環させてちょうだい。魔力循環は毎日やっているから出来るでしょ。じゃあ、あたしの言葉を復唱して」


「わかりました」


「我の言葉に現れよ、水、風、土、火の力、我の魔力の源なり」


 ルー先生の言葉を一語一句間違わずに復唱すると、なんと目の前にバレーボール大の水の玉、30センチほどの小さな竜巻、50センチ四方の土壁、そしてサッカーボール大の火の玉が目の前の空中に現れた。


 あー、やっぱり全部出来たよ。


「あら! 属性が一つなんてなに勘違いしているのよ。基本4種全部の属性があるわよ? しかも具現化がこの大きさなんて魔力量も多いじゃない。さすが、リシャール家のご令嬢ね。セドリック様もアンドレ様も全属性持ちだって社交界では有名ですものね」


 へーそうなんだ。

 じゃあ、マリアーナはずいぶん肩身の狭い思いをしてたんだろうな。


 その後、具現化した魔法を取り消し、今起こったことの説明をルー先生にしてもらった。


 あの言霊を唱えると自分の持ってる属性だけが反応して具現化するという。


 私は全部に反応したので全属性を持っていると言うことになる。

 しかも手のひらサイズが通常のところそれよりも大きい物が具現化したので魔力量も多いと。


 正確な魔力量は測定器を使わないとわからないらしい。


 貴族は平民よりも魔力量が多いと言われていて稀に平民でも魔力量が多い子供が産まれることがあるそうだ。


 属性も平民は1つか2つ、貴族は2つか3つが平均だという。

 それを考えるとお父様とアンドレお兄様の全属性持ちはチートだね。

 お父様が騎士団総団長の地位にいるのは納得だ。


 光と闇属性はこの方法で具現化出来ないのでわからない。


 あ、光は治癒魔法の癒やしの力や浄化の力ね。

 闇は確か、影渡りが出来るんだっけ?

 影渡りとは人の影に入り姿を隠すことができるらしい。

 闇属性は珍しく持っている人はごく少数だ。


「マリア様、基本の全属性があってこれで光属性まであったら即、第二王子の婚約者になれるわよ」


 げっ! それは勘弁。


 これってやっぱり界渡りの乙女の力だよね?


 言語チートがあったんだ、全属性チートがあっても不思議じゃない。

 じゃあ、光属性もあるってこと?


 こりゃまずい。

 界渡りの乙女と聖巫女様が王族と婚姻を結ぶのはより質の良い魔力を王家の血筋に加えたいからだろう。


 私に光属性もあることがバレたらライ様の婚約者にされてしまうではないか。


「あ、あの、ライ様は第二王子なのでこの国の慣例でいくと界渡りの乙女か、聖巫女様と婚姻を結ぶんですよね?」


「んー。まあそうね。でも界渡りの乙女は残念なことに亡くなってしまって、聖巫女様は未だに現れていない現状をみると普通に貴族のご令嬢の中から選出されるんじゃないかしら? だとすると家柄、年齢、魔力量ともに申し分ないマリア様が選ばれる可能性は高いわよ」


 ないわー

 14歳の男の子と婚約なんて…

 それに王子妃なんて正直面倒くさい。

 自由が無くなるじゃないか。

 お休の日に一日中パジャマでゴロゴロできないのはかなりつらい。


 そうだ! その聖巫女様が現れれば丸く収まるんじゃない?

 でも現れるとは限らないか。


 まあ、ここは現れることを祈って私のことは秘密にしてもらおう。


「ルー先生! 私の属性と魔力量についてはくれぐれもご内密にお願いします。せめて聖巫女様が現れるまで。そうすれば私が婚約者になることはないもの」


 思わずルー先生の両手を握りしめ切々と訴えた。


「え? マリア様は第二王子の事が好きなんじゃないの?」


「え? まさか!」


「え?」


「え??」


 ルー先生の言葉に首を傾げるとなぜかルー先生も首を傾げる。


「あら、だってこの前のお墓参りの時に、界渡りの乙女と婚約しなくて良かったって言ってたじゃない」


 ああ、あれね。


「あれは、界渡りの乙女側の意見ですよ。あんなお墓参りの作法もわからないお子様と婚約する界渡りの乙女が可哀相だったものですから。だってあの王子、お墓参りだって言うのにお花の一本も供えてないんですよ? しかもやたら煌びやかな衣装だったし。非常識にもほどがあります」


 頬を膨らませてそう言うとルー先生が吹き出した。


「ぶぶぶ、あーははは!! もうマリア様、最高よ! でも普通貴族のご令嬢なら王子と婚約なんてとても名誉なことなんじゃない?」


「名誉? いえ、そんな名誉いりません。だって王子妃なんてなったら好きなときに昼寝も出来ないし、ご飯だって大口で食べられないじゃないですか」


「あのね、昼寝はともかく王子妃にならなくても大口でご飯を食べるなんて令嬢として失格よ」


「えーじゃあ大口で食べるのはおやつだけにしておきます」


「いやいや、おやつも大口で食べてはいけません」


 えー美味しいものをおちょぼ口で食べるなんてナンセンスだと思うんだけどな。

 貴族のご令嬢は大変なんだね。


「でも自分の名誉は自分の手でつかみます。そうじゃなきゃ、子供や孫に胸を張って威張れませんもの」


「子供や孫って…ずいぶんオバサンくさい言い回しね」


 オ、オバサン…

 嫌いな言葉ランキング第一位だよ。


 衝撃で固まっている私にルー先生は爽やかな笑顔で言った。


 「わかったわ。本来なら神殿で再測定するところだけど、学園に入学してからも測定するから良いわね」


「え? 学園に入学してからまた魔力を調べるんですか?」


「そうよ。10歳の時の測定は魔力量と属性を見るだけだもの。その結果を見て、魔力暴走を防ぐために貴族は家庭教師から、平民は神殿で魔法の基礎を習うんじゃない。学園入学時には属性と魔力量はもちろん、スキル、加護まで調べるのよ。それで、自分の能力に合った授業を選択するんだから」


 むむむ…

 まさか、加護に『界渡りの乙女』とかないよね?

 うーん、入学の時の測定前に自分のスキルと加護を知るにはどうしたら良いんだろう?

 こっそり神殿で調べてもらう?

 いや、そこで光属性持ちがバレたらやばいかも…

 さすがに聖職者相手に誤魔化すのは無理だよね。


「あ、でもセドリック様には報告するわよ」

 そう言うルー先生の言葉で我に返った。


 今、考えても良い案が浮かばない。

 取りあえず、学園入学まで時間があるんだ。

 それまでにいい方法が見つかるかも知れない。


「わかりました。その時に、私が第二王子との婚約には興味が無いことも言っておいて下さいね」

 この私の言葉にルー先生はわかったと笑顔で頷いた。


 その後は、ルー先生に魔法の発動の仕方を教わりファンタジーの世界を満喫したのだった。

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