第9話 日記の続きは死亡フラグ

 さあ、昨日と同じようにベットの中でマリアーナの日記を読みましょう。


 そうそう、クマのベリーチェの居場所はベットの上に決定。

 おんぶ紐として活躍したシルクのリボンはちゃんともとの場所に戻しました。

 シワシワになったリボンを見てナタリーさんがため息をついていたのは見て見ぬ振り。


 日記を読み進めるうちにマリアーナが母親の死に疑問を持っていたことが分かった。


 何でも、ピクニックをした森は普段魔物がいない場所であったこと、魔法が得意な母親がなぜか魔法を発動しなかったことが疑いを持った原因らしい。


 これに関して当初、マリアーナは必死に父親に訴えたようだけど、父親もまた失意のどん底だったためまともに取り合ってくれなかったようだ。

 その時に護衛に付いていた二人を話も聞かずにいきなり解雇したりとずいぶん荒れていたみたいだ。


 きっとそんな父親に訴えても聞き入れてもらえないと諦めたんだろうな。


 証拠もないしね。


 マリアーナの推理によると、魔物を呼び寄せる魔道具と魔力封じの魔道具が使われていたのではないか?と、思っていたようだ。


 この屋敷の図書室で魔道具の本を読んでその考えに居たったらしい。

 魔道具か・・・

 それって、魔道具だとはバレないようにそれとなく日常で使用する何かに紛れ込ませてた可能性が高いな。


 なる程、マリアーナが母親の部屋に入り浸ってたのはそれを調べるためか。


 あれ? ちょっと待って。

 マリアーナが母親の死に疑問を持って調べている矢先にバルコニーから転落?


 これってめちゃくちゃ怪しいよね?


 私ったら、こんなところでのほほんとしてちゃダメなんじゃない?

 だって、調べあげたことが確信ついてたからマリアーナが狙われたって事じゃない?


 もし私が犯人だとしたら記憶が戻る前にマリアーナを何とかしなくちゃと思うよね?


 やばい、やばい! せっかく転生したのにすでに死亡フラグが立ちっぱなしじゃん!


 犯人、犯人の名前は?!


 必死に日記のページをめくる。

 か、書いてない・・・


 書いてあるのは父親の信頼している人だと言うことと、自分を疎ましく思っている父親が自分の言葉を信じてくれるか自信がないということ。


 なんてこった。

 犯人の名前が書いてないなんて。

 マリアーナったらダメダメだよ。


 それにしても、マリアーナ、あなたは父親にちゃんと愛されてるよ。


 こうなったら、夜にこの部屋に来る父親を捕まえてマリアーナのことを疎ましくなんて思ってないことを、どんなにマリアーナを愛しているかを言葉にしてもらおう。

 そして、父親の信頼している誰かさんに命を狙われているらしいことも訴えてみよう。



 そうと決まればベットで布団を被っている場合ではない。


 私はベットから這い出ると父親を待つために部屋の中央に配置されたソファに陣取る。


 ローテーブルの上には読みかけの魔法の本と冷めた紅茶。


 寝る前にお飲み下さいと言ってミリーさんが入れてくれた紅茶を一口飲む。


 わぁ、甘い。

 ねる前に飲むのにお砂糖入れてどうすんだ。

 虫歯になってしまうじゃないか。

 後でまた歯を磨かなきゃ。


 ああ、こんなときはブラックコーヒーが飲みたい。

 あるのかな? コーヒー。

 まぁ、仕方ないか。

 冷めてるけど、喉が渇いていたからちょうど良い。


 さあ、待ってる間に読みかけの本でも読みますか。

 魔法入門書というだけあって基本中の基本から載っている。



 まずは自分の魔力を身体に循環させることから始めるらしい。

 なるほどね。


 マリアーナは魔力量の少なさから魔法の勉強を諦めていたようだけど、せっかくファンタジーな世界に転生したんだから使えるようになりたいもんね。


 私は床に敷かれたラグの上に座ると目を閉じてヨガの瞑想ポーズをする。

 おお! なんだか体中を何かが駆け巡っている感じがする。

 これが魔力か。

 グルグルと暖かいものが循環している。


 魔力量が少ないって話だけど、身体を循環する魔力は結構な量に感じる。

 魔力の多い人はこれ以上の循環量ってことか。


 魔法の発動はイメージが大事。

 発動を促すのに詠唱も活用すると良いらしい。

 と言うか、初級は詠唱を活用しないと発動しないと。


 イメージなら任せて。

 オタクの妹に付き合ってゲームからアニメまで一通りこなしていいるんだから。


 それにしても父親はまだかな?





 *************





「マリアお嬢様、おはようございます」

 ナタリーさんの元気な声で目が覚めた。


 あ、あれ?


 なんで私はベットに寝ているのでしょうか?

 身振り手振りでナタリーさんと会話。


「もう何言っているのですか? ベットに寝るのは当たり前ですよ。他にどこで寝るんですか」


 えっと、床とか?


「なんでベットがあるのにワザワザ床に寝る必要があるんですか」


 ナタリーさんのその言葉に、きっと夜私の部屋を訪ねてきた父親が床で寝ている私をベットに運んでくれたのだろうと推測した。


 でもなんで寝ちゃったんだろう?

 魔力循環をしたから? いや違うあれをやったあとは逆に目が覚めた感覚だった。


 循環が一段落してまた紅茶を飲みながら本を読んだくらいだもん。


 紅茶? そう言えばなんであの紅茶は甘かったんだろう?

 昨日のティータイムにいただいた紅茶はストレートティーだった。

 夜寝る前に飲むのにお砂糖を入れる必要があったのだろうか?


 その前の夜は紅茶なんて持ってこなかったよね。

 飲まなかったから起きていられた?


 もしかして睡眠薬? その味を誤魔化すためのお砂糖?


 そう言えば昨日、アンドレ君は何と言っていたっけ?

 ランさんは朝から街の薬師の所に出掛けたと言っていたよね。

 薬師って薬屋さんのことだよね?


 ランさんが薬師の所で睡眠薬を購入。

 その睡眠薬入りの紅茶を私に出したのはミリーさん。

 なんのための睡眠薬?


 あー!!!

 そうだ、中庭に倒れていた私を発見した庭師のカントさんが物音がしたから駆けつけたって言ってたけど、これっておかしくない?


 だって、何かに気を取られて誤って転落したなら、普通悲鳴をあげるはず。


 悲鳴もあげずに転落したってことは悲鳴をあげられない状態だったってことだ。

 つまり、睡眠薬で眠らされていた。

 眠っているマリアーナをバルコニーから落としたんだ。


 10歳だもの痩せているとはいえそれなりに重いよね?

 女性一人じゃ無理だ。 男性か、女性が二人がかりで行うか・・・


 マリアーナの日記に書いてあった、父親の信頼を得ている人ってもしかしてミリーさんとランさん?


 おおお! 殺人犯と同じ屋敷にいるなんてデンジャラス!

 しかもそれが自分のお世話をしてくれる侍女だよ。


 ぎゃー! 殺される!

 どうする?! さあ、どうする、私?!


 もしかしてナタリーさんも敵なのだろうか?

 私の支度をしてくれている彼女の横顔をソッと伺ってみる。


 にこやかなその様子に、「ナタリーの笑顔に元気をもらっている」と書いてあったのを思い出した。

 うん、ナタリーさんは大丈夫だ。


 どうしよう? 声が出ることカミングアウトしてナタリーさんに相談してみようか?


 うーん、ダメだ。

 そんな事してナタリーさんが敵に狙われたら大変だ。


 よし、こうなったら父親!


 ナタリーさんや、お父様はどこだい?!

 筆談でナタリーさんに訴える。


「まあ、珍しいですわね。お嬢様が旦那様のことをお聞きになるなんて」


 うん、今まで嫌われていると思っていたからね。

 そんな心情をマリアーナは誰にも言わなかったんだね。


「旦那様はもうお仕事に行かれましたよ。さあ、食堂でアンドレ様がお待ちですよ」


 仕事かい! 娘が殺されそうなときに何のんきに仕事してるんだよ。


 もう役に立たないのにもほどがあるぞ。


 こりゃあ、アンドレ君をそそのかして父親に会いに行くしかないか。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る