異なる道の存在

第30話 待ち合わせ


「なぁアルベール、『管理者』ってなんだ?」


 帰宅して就寝前に、アルベールにふと聞いてみた。

 アルベールは光のスマホを操作して国の様子を見ながら答えた。


「僕は正直そのような話を聞いたことないんです。噂ですら聞いたことありません。なので事実かどうかも怪しいですね」


 アルベールは画面から目を話すことなく返す。

 光は聞きながらベッドで体を伸ばしていた。

 アルベールはまんべんなく国を確認していく。


「あ、最近は続いていた変死がなくなってますね。急におかしくなったということもなくなったようです。今は目安箱に今後を心配する声がいっぱい……」


「心配を解消するには防衛強化?」


「そうですね、特に国境沿いの防衛を強化しておきましょう。侵入するなら国境からですし。塀ももう少し強化しましょう。おや?クラシスからメッセージが……」


「会ったとき言えばいいのにな」


「全くですね。えっと……ふむふむ」


「何だって?」


「クラシスの国の中に出来ていた孤立した集落、集落から国になったようです」


「どゆこと?」


「つまり、国の中に別の国が出来ています。小さいながらも国として成り立っているみたいです」


 アルベールの国の中での変死が相次いだときと同時期、クラシスの国では情報もシャットアウトされた場所ができていた。

 あれから時間が経って、今ではそこが別の国になったようだ。


「そこから攻め込まれたらやばくね?」


「クラシスも承知の上でしょう。見張りをつけたり何かをするはずです。同盟を結んでいる以上、何かあったら助けなくては」


 光はアルベールに国の防衛について教えて貰ってから眠った。




「今日は本当に来てくれました!よかった!」


 放課後の屋上、葵は先に来ていた。

 ホームルームを終えてからすぐに屋上に来ているが、なかなか葵より先に来ることはできていない。


「昨日約束したしね」


「今日は肥料もまくぞー」


 葵が水やり、光と竜之介で肥料を運んでまく。分担作業をしている中、日陰でそれぞれの王は情報を共有しあっていた。


「最近変わったことないか?」


「僕の所は何も……みな、今後を心配していましたが」


「私の所はいつも通りですわ。変わったことは何も起きていません」


「くっそー俺のとこだけかよーなんだってんだ?」


「クラシス様?」


「なんか俺んとこの国に別の国が出来てさー……中でちゃーんと政治ができてるんだわ。特に被害が出たわけじゃないんだがどうしたものか、うーん」


 クラシスが頭を抱えているとき、ヒリスはその姿をまじまじと見つめていた。


「確かに気になるところですわね。国があるのなら王がいるはず。その王を倒せば元通りなのでは?」


「そうなんだけどよー……どんなやつかもわかんねえし、もともと俺の国の国民だぜ?不満をもって独立したんじゃないかと考えると元通りにしてもなあ?」


「うーん……一理ありますね。とりあえず何か困ったことがあったときには遠慮なく言ってくださいね。できる限りお手伝いしますので」


「おつ、サンキューな」


 灼熱の太陽の下、花の世話をする3人の額からは大粒の汗が落ちた。

 その汗を出でぬぐっては作業を続ける。



「それにしてもよく葵たちは作業いたしますわね」


「暑そうですね。花たちも水を浴びて心なしか嬉しそうに見えます」


 日に日に育っていく花。

 まだ蕾だがいつの日が咲くことを望んですくすくと育っている。

 全ての作業が終わる頃になってもまだまだ暑かった。




「あ、海さん!」


 花の世話を終えて帰ろうとしたとき、校門の所に昨日見たばかりの伊藤が1人で立っていた。

 そこへ葵が駆け寄る。


「え?知り合い?」


「はい!前にお話したその、え、えっーと……彼氏、です」


 竜之介の問いに葵は顔を赤くして照れながら答えた。

 光と竜之介はそれを聞いてフリーズした。


「じゃあ行こうか」


「ちょ、おま……」


 伊藤と葵は手を組んだりはしてないが、仲よさげに歩いて行く。

 竜之介が気になって止めようとするが無視して行ってしまった。


 2人の後ろ姿を見ていると、その後ろにもう1人の人影が見えた。

 おそらく仁村だろう。

 仁村は一瞬こちらを見たが、何もすることなく去って行った。


 竜之介は去って行った2人プラス1人を追いかけようとしたが、光がジェスチャーで仁村の存在を教えると追いかけるのをやめた。


「2人の邪魔したらあいつがやり返してくるってことかよ」


「あとで葵に詳しく話を聞いてみよう。何かわかるかも」


「ああ、そうだな」


 この場は追わずに後ほど話を聞くことにした。

 家へ向かいながら2人で話し合う。


「あの会長が契約者ってこと、葵は知ってるのかな?」


「もしかして黙ってたり……?いやでももしかしたら、もしかしたらだぞ?青葵は知っていて会長の方が知らない場合もあるぞ?」


「それ、教えてくれないっていうことある?まあ、どちらにせよお互いにいつ襲われてもおかしくないぞ?」


「どうなんだろうね?全部明日聞いてみよう……そういえば明日休みだな?それに週明けはもしかしてテストじゃ?」


「あ!!忘れてた……うわ、今日から勉強だ……」


「残念だな、竜之介!やるからにはビシバシやるぞ、勉強!」


「光君も勉強しましょうね」


 2人の王は最近母親のように世話をしてくれている。

 今後の勉強は大変になるだろうと覚悟した。


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