第16話 情報収集と

 竜之介がなんやかんや手続きをしてくれたようで、ゴールデンウィークに屋上の使用許可がでた。

 見た目は不良にしか見えない竜之介だが、根は真面目ということをここ数カ月で理解できた。


 10時から部活の時間として屋上に集合する。

 ゴールデンウィーク初日には誰も遅刻することなく集まった。

 屋上の掃除、花の世話をそれぞれ始める。作業をしながら会話していた。


「クラシスさん、アルベールさん、どうするか考えたのですか?」


 最初に質問したのは葵だった。

 葵は光と竜之介には先輩をつけ、王には『さん』をつけて敬語で話すほど丁寧だ。


「残念なことに何も対策は思いつきませんでした。ただ……」


「ただ?」


 アルベールの言葉に手を止める。夜色々考えている姿は見たが、その内容について光と話してはいなかった。光も邪魔をしないように話しかけなかったためという理由もあるが。


「急におかしくなると聞いて原因を考えてみたんです。僕が思いつくのは、何かの病か術を使ったかしかでてこなくて。何か他にありますかね?」


 アルベールたちの世界では、光が練習しているシールドのように俗に言う『魔法』が存在する。それによって引き起こされていると考えることもできる。

 正直、アルベールたちの世界について詳しくない3人は何も答えられないように思えた。しかし、竜之介が何か思いついたように言った。


「あ、おかしくなるといえばやべー薬じゃね?よく言うじゃん?学校でも薬物乱用教室とかやったりさ」


「先輩、それじゃ乱用推進してるじゃないですか。『薬物乱用防止教室』です。中学の時にもあったなー懐かしい」


「そうそう、それそれ!気持ちよくなるとか言うけど、やめられないし廃人になるとか。あーゆーのでおかしくなるってことあんじゃねーの?」


「薬……ドラッグですか。それは思いつきませんでしたね。言われてみれば僕も国で聞いたことあります。可能性がありますね」


 アルベールは納得したようで動きを止めた。

 光たちの世界にとアルベールたちの世界には似たような点があるようだ。


「ストレスで、ということもありますわよ。過度のストレスは精神的に参ってしまいますもの。身に覚えがあるのではなくて?」


 ヒリスの冷静な言葉にアルベールの肩がびくっと動いた。


「参ったな……僕のこと、そこまで知られてるなんて」


 アルベールはまた苦笑いをする。何度この顔を見たことか。おそらく例の『兄』に関わっているのだろう。

 アルベールは光に話せるときに話すと言った。なので光は無理に聞き出さない。アルベールが辛いのなら聞かなくてもいいと思っている。

 ヒリスの言葉でアルベールが傷つくのは嫌だ。話題をどうにかして変えたい、そう思うが長年友達がいない生活をしてきた光に、話題を変えるというのは難しかった。

 あーでもない、こーでもない。どうするかと悩んで棒立ちしていると、アルベールがいつの間にか光の肩へ飛んできた。


「光君、君のその気持ちだけで嬉しいです。ありがとう」


「……へ?俺何も言ってない、よね?」


 アルベールが傷つかないように周りを観ないでひたすら話題を変える方法について考えていた光は何も喋っていない。

 なのにアルベールは肩に座り、全てわかっているかのようにニコニコしていた。


「僕たちは契約した方の気持ち、感情がわかるんですよ。だから光君のことはお見通しです」


 アルベールの言葉にうなずく小さな王たち。

 対照的に目を見開いて驚く高校生3人。


「それ、詳しく」


「うーん……さっきの気持ちは、僕を心配する気持ちでいっぱいでした。ですが、今はそうですね。なんというかドキドキ?」


「そうなのか、光」


「光先輩?」


 竜之介と葵に注目される。アルベールが光の感情を当てたこと、そして注目されていることで恥ずかしくなり、顔が赤くなってきた。


「今度は恥ずかしくなっちゃってますね!」


 アルベールは楽しそうに、少しいたずらをしたような顔で笑いながら言った。


「わかった、もう言うな。それ以上は何も言うなよ?」


「ええ、もちろんです」

 

 顔を赤くした光は肩にいるアルベールの口に軽く指を当てる。そしてもう気持ちを暴露されないように口止めする。


「まじなのか……え、じゃあ昨日見てた本ももクラシスにばれてっ!クラシス!」


「あーあの本な。竜之介は巨乳好きなんだなーってバレバレ。ずーっと興奮してたし。なんだっけ?名前がたしか……」


「っ!ばっ……!言うんじゃねえ!!このっ!」


 クラシスはニヤニヤしながら逃げた。気持ちどころか性癖まで暴露されそうなので、竜之介はクラシスを追いかける。


「竜之介先輩の変態!見損ないました!」


「あら?葵も最近できた彼氏との電話で毎日ドキドキ、ウキウキしてるわ」


「やだっ!ヒリス!恥ずかしいからやめて!」


 ヒリスに葵が必死に口止めする。ヒリスは顔色を変えずにいた。


「葵、彼氏いたのか……こんな男どもの部活に来てていいのか」


「大丈夫です。内申のために一応部活に入ったと説明してありますし……理解してくれるはずです」


「それならいいけど……」


 突然の暴露大会で話の話題は変わった。

 だが、アルベールは少し話を戻した。


「僕たちが契約した方へ力を貸します。逆に僕たちは契約した方から気持ちを受け取るのです。力と気持ちを交換していると考えてください」


 アルベールは再び光の肩でリラックスした様子で話し始める。


「気持ちには『嬉しい』、『楽しい』のようなプラスのものと、『辛い』、『苦しい』のようなマイナスのものがあります。それぞれが1つの気持ちを力にすることが出来るんです!僕は『優しさ』を力にできます」


「俺は『度胸』、まあ『勇気』だ」


「私は『期待』ですわ」


 クラシス、ヒリスが続く。

 アルベールは確かに優しさがどうと言っていた。光たちにも少しは理解できた。


「光君の優しさは負けません。わかっていので、大丈夫です。自信をもって!」


『戦い』ということでずっと不安だった。アルベールがいくら大丈夫と言っても、運動もできない光には信憑性のない言葉だと思っていた。今日、根拠を聞いたことでアルベールの大丈夫がやっと信じられるようになった。


 アルベールは光の前に飛び、光に微笑んだ。

 光もそれにつられて口角が上がった。


 竜之介と葵もそれぞれ王と向かい合ってうなずいた。

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