君を・もっと・知りたくて(4)

「これで揃ったね。じゃあ、出発しよう。みんな買い物はいい?」

「あ、これ。飲み物買っておいたんで好きなの取って下さい」

「さすが気の利くオトコ高山」

「あたしが言ったんですよ、あたしが」

「おー小永井、エライエライ」


 ひとしきりがやがやした後、女性陣と男性陣に分かれて車に分乗し、一行は駅前を出発したのであった。



「なんで男女で別れちゃうんですかー。混合でしょ、こういう場合は」

「ばっか。学生のコンパじゃねえんだよ」

 前を行く青いスイフトを追走する形で、男四人を乗せたセレナは箱根新道を進む。

「少し混んでますね」

「ああ。でも元箱根まではすぐだろ、問題はそっからだ」

 川村の言う通りだった。


 ホテルはつはなの閑静な車寄せを横目に旧東海道に下り、名物の七曲りでぎゃいぎゃい喚き、ハイキングの人々がくつろいでいる甘酒茶屋やお玉ヶ池を通りすぎて信号の分岐を元箱根の方向へ下り、連なる山々をバックに神秘的に深い色合いの芦ノ湖が目に飛び込んでくる場所まで来ると、一気に行楽気分が高まる。


 と同時に他県ナンバーの乗用車や観光バスが道路に増え、湖畔沿いの通りにはびっしりと車両が連なっていた。蓮見さんのスイフトとの間にも二台の車が入ってきていた。

「しゃーないな。流れてはいるからじきに着くだろ」

 ハンドルを指で叩きながら川村は誰へともなくつぶやく。


 助手席の清水が、腕を伸ばしてカーナビの横のボタンを操作してラジオの音量を上げた。後部座席で遠藤のおしゃべりの相手をしていた渉は、車内にずっとラジオが流れていたことに気がついた。

 地元FMで聞きなれた女性DJの声。どうやらSDGsの達成へ向けて、地元の高校生がやっている取り組みを紹介するコーナーのようだ。快活で明瞭な女性DJのしゃべりに対して、専門家らしいゲストの声は低くてぼそぼそしていて聞き取りにくい。


 セレナはのろのろと、箱根神社の参道入口に続いて、小田急山のホテル正面の花期が終わったつつじの小山の前もすぎて行く。

 反対側に現れては消える湖面に目をやりながらもう少し進むと、車窓越しの狭い視界に駒ヶ岳ロープウェーが現われた。左手には、箱根園と同じくプリンスホテルが経営する純和風旅館の龍宮殿が高級感たっぷりの佇まいを現している。


「やーっと、着きましたね。道空いてれば三十分で来れるのに」

「行楽シーズンなんだから、しゃーないだろ」

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