俺も異世界へやって来た

 「ほほう、つまり不安材料である魔王殿の妹君達を保護し、安心して魔王を辞めていただこうと? そう言う訳ですな、ノブユキ殿?」

 「そ、そう! そうなんだ、メフェスさん!」

 「ならば、私が適任ですな。 なにせ、空間を移動するのは我が一族が得意とする事ですので……」


 何だろう俺、悪魔とかがこんな人ばかりなら、邪教主義者になっても良いって思いかけているんだけど……。

 それに空間を自由に移動できるか……ん、待てよ!


 「さて、では早速行動したほうがいいですな! では魔界へ……」

 「ちょっと待ってくれない! 空間ならどこへでも行けるの?」

 「ええ、どこへでも……」


 俺はメフェスさんのその言葉を聞いた時、俺は思いついた事を口にした。

 それは。


 「なら、一日で良いからユキの所へ連れて行ってくれないか?」


 一度ユキと再会する事……。

 正直な所、ユキに急に会えなくなった為の、寂しさと言うか……。

 いや、どちらかと言えば心配か?

 どちらにせよ、俺はアイツに会えるかもしれないと言う高揚感で胸がドキドキしている。

 その、素直に言えば嬉しいのだ、俺は!


 「なるほど……分かりました、では準備よろしいですか?」


 そして、それが大丈夫だと理解できる言葉を聞いた俺は。


 「準備は大丈夫! このままユキの所へ連れて行って!」

 「分かりました、では行きましょう!」


 迷わず自分の意思を伝え、そしてメフェスさんと共に、目の前に現れた黒い塊に飲み込まれていった。


 …………。


 背中に砂の地面が当たる感覚がする。

 風が体に吹き付ける感覚がする。

 体に光が降り注ぐ感覚がする。


 「ん……ん?」


 そんな感覚を受けながら瞳を開けた俺の目の前に、見覚えのある鉄の壁が目に入り。


 「おっと目が覚めましたか?」

 「ん……?」


 そんな俺の隣には悪魔の姿をした良心がニッコリと笑顔を浮かべている。

 どうやら、今までスマホから見ていた世界に俺はやって来たらしい。

 日本らしからぬ平野に、あの邪教の巣を覆う例の鉄の壁……思ったよりデカいな、あの鉄の壁……。

 そんな世界をキョロキョロ眺める俺に、メフェスさんは。


 「すみませんね、街の中へ直接行けなくて……。 この姿で街へ行けば、魔物として討伐される可能性がありますから。 とりあえず、私はここでのんびり待ってますので……。 ノブユキ殿、ユキ殿と一緒の時間を堪能してきてください」


 と優しく微笑んだ。

 俺は悪魔って何だろう……という疑問と共に、日本で行きかう人々が『おぉ凄いコスプレだな……』とか『映画の撮影かな?』と言う呑気な反応をする事を改めて感じさせられつつ。


 「了解、とりあえず迎えに来てもらう手筈が付いたら、行ってくるよメフェスさん!」


 俺は笑顔でメフェスさんにそう返事をした。


 …………。


 さて街へ行く前に、はっきり意思表示をしておこう。


 正直俺は、あの邪教の巣に正直入りたくない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 今までは画面の向こうにいたから安全だったが、実際にやって来たのに今まで通り、堂々と行動する度胸は俺にはない!

 この世界の方々は、俺からしたらヤバイ連中が住む世界なのだから……。


 例えば賢者の姿をしているのに、物理魔法で大暴れする邪教主義者・・・・・・・・・・・・・・・がいれば、一見綺麗なケモミミ美女の姿をしているのに、娘を含む可愛い子供に発情する変態・・・・・・・・・・・・・・・・がいる。


 勿論、リリアちゃんやグロリアさんみたいな良心もいるよ?


 でもね、モザイクが必要な露出巨人や、世紀末恋愛バスターズとでもいうべき狂信者の皆さんがいるこの世界、安全を考えると関わりたくないのだ、俺は! もう正直、胸のバクバクが止まらないし!

 なので俺は、アプリを起動させ、ユキの顔が映ると間髪入れず。


 「おい、ユキ……。 他に誰かいるか?」


 と確認をするのだが。


 「あ、ノブユキ……。 いるんだけど……と言うか、何洗礼って?」


 と戸惑い顔で指を指すユキの姿が俺の目に入る。

 (一体何事だ?)

 そんな事を思いつつ、ユキの指の先を見ると。


 「グロリア様、早く洗礼を~、早くお願いします~!」

 「リーちゃん様~、ワタクシもどうか、どうか洗礼を~!」

 「は、離してください!? お願いですからお二人とも!?」


 グロリアさんの両足にそれぞれしがみ付く邪教徒と何か気軽な感じの女性の姿がそこにはあった。

 と言うかセレス、お前あの邪神を崇めていたんだろうが!

 何か変な物でも食べたのか!?

 まぁいい、とりあえずこの状況なら、他の連中にバレずにこっそり来てもらう事も可能だろう。

 よし……。


 「おいユキ……! 静かに聞けよ……」

 「ん? 何、ノブユキ?」

 「絶対大声出すなよ……」

 「……分かったけど何……?」

 「絶対だぞ、絶対……」

 「……だから何? 一体……」


 そして俺はゆっくりと聞き取りやすい様にユキに伝えるのであった。


 「俺……今……こっちいる……それも……お前がいる街の外……」

 「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! ノブユキが街の外にいるのぉぉぉぉぉぉぉ!」

 「あ、バカ! お前何大声で言ってるんだよ!」


 ホント何だよ、俺、あれほど念押ししたのに!


 「だって絶対って何度も言うって事はやれって事でしょ? 大賢者なめないでよね」

 「大賢者舐めてるのお前! ちょっと俺の真剣な顔で察せよ!」

 「真剣な顔って事はやっぱりフリなんでしょ! だから大賢者なんだから分かるってノブユキ」

 「バカ! 違うって言ってるだろ!」


 コイツめ、今までそんな事やったことない癖に急にやりやがって……。


 「へ? ノブユキさん、来ているのですか!?」

 「え、あのヒモの画面男……じゃなくてノブユキ様が来ているのですか!?」

 「ノブユキって誰?」


 ほら、グロリアさんとセレスと知らないお姉さんが気付いただろうが!

 あとセレス……。


 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、またレモンがあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 お前、ヒモの画面男って陰で言ってるんだろう。

 俺はやられたと思ったら、やり返す男だからな……。

 さて、地面を転がりもがくセレスをよそに。


 「うんそうだよ、グロリアさん、セレスさん、そして知らないお姉さん! ノブユキが街の外にいるんだよ!」


 ユキは嬉しそうに、大声で俺が来たことを伝える。

 ええい、一度口を閉じる様に注意するか!

 これでは二人っきりにもなれないだろうし……。


 「ユキ! お前、一度口を閉じろ! これはフリじゃないぞ、ホントだからな!」

 「分かってるってノブユキ! つまり、口を開け、喋る事って事よね!」

 「ユキ分かった、口を開けて良いから! 喋っていいから! フリじゃなくて、ホントだからな!」

 「へ? 言われなくても喋るよ?」

 「あぁもう!」


 お前はひねくれ虫にでも取り付かれているのか!?

 ええい、作戦廃止だ、素直に来いと言わざるを得ない!


 「ユキ、とりあえず来てくれ! 門のそ……」

 「り、リーちゃん様! あの二人、きっと(自主規制B)するつもりですよ! (自主規制B)を! だってあのような喜んで興奮したの後は(自主規制B)するって言うのがお決まりなのですから!」

 「な、何言ってんだアンタ!」


 何言ってんの、この規制ワードお姉さん!?

 と言うか目がヤバいぞ、何か興奮してるって言うか……、クルシナさんと同類の様な……。


 「そ、そうなの!? 喜んで興奮した後って(自主規制B)をするのが普通なの、お姉さん!? ふふ、私はこれで大賢者としての道をまた一歩歩んだ訳ね……」

 「おま、バカ! んな訳ないだろうユキ! ちょっと考えろ!」

 「と言うか、あの、ユキさん……。 それは賢者の道と言うより、大人の道なのでは……」


 グロリアさん、良いツッコミをありがとう。

 なんかグロリアさんが居てくれるだけで、精神的なダメージを押さえられている気がするよ……。

 そう思っていた矢先。


 「何を言っているのですかリーちゃん様! 大人として若い子に正しい(自主規制A)の勉強をさせなければ危険です! そんな流暢な事を言ってられませんよ!」

 「うむ、その通りだ! 大人の階段についての勉強をしなければ、ダメな大人になってしまうぞ!」

 「あ、アナタは一体……」

 「私はクルシナと言う! 初対面でこういうのも何だが、何だか同じ志を持つ仲間の様な感じがするのだが?」

 「私はミーティア、気軽にミーちゃんと呼んで! しかし奇遇ね、私も同じことを思ったわ……」


 いつの間にか湧いてきた変態と、変態発言を繰り返す変態は、変態同士気が合ったのだろう。

 変態の二人は無言で互いの手を熱く握り、そして友情を深めたようだ。

 あとクルシナさん、ダメな大人のアンタが『ダメな大人になってしまうぞ』なんて言うなよ……。

 ん? ……何か画面がモヤモヤとなりだしたぞ? どうしたんだ?

 そう思った次の瞬間。


 《ごうこん あくま の へんたい ミーティア が あらわれた》

 《こども ハンター な へんたい クルシナ が 現れた》

 「結局どっちも変態じゃないか!」


 スマホの画面に映ったのは、どこかで見たことあるRPG風の雰囲気を出してみました!とでも言いたげな戦闘画面。

 そして、画面左下半分には、小さく『たたかう』『まほう』『どうぐ』『にげる』の項目があり、上半分には《のぶゆき どうてい》の文字が……って待てよ、何で職業が《どうてい》なんだよ!

 ……っと怒りつつも、正直少し面白そうだと思っている俺がいます。


 さて、そんな一人、魔法は何があるのだろう?

 そんな疑問から俺は魔法を押す、すると。


 《30 に なるまで まほうは つかえない》


 との文字が……ふざけるな!

 と言うか、いつこんな機能を仕込んだんだよあの邪神!

 ええい、こうなれば『にげる』だ!


 《まおう からは にげられない》


 え、何コレ!?

 あの二人、変態界の魔王的な感じだからこう表示されたのか!?

 ってもしかしてグロリアさんに反応したのか?

 と言うか冷静に考えたらどうすれば良い、この画面から!?

 そう慌て、頭を抱えていた時だった。


 「あの、差し出がましいようですが……、お困りですか、ノブユキ殿?」


 あ、そういえばメフェスさんがいたな……。

 まぁ、とりあえず相談してみるか……。


 「あの、この画面ですけど……」


 俺はメフェスさんに画面を見せながら、そう口にすると。


 「あ~、あの方、隠しコマンド仕込んだんですね……。 だからこんな感じの画面になったんですよ。 多分、こうすれば……」


 とため息をつきながら、大きな指先を器用に使い、アプリを切り、そして再起動させる。

 よくデカい手で操作できるな……。


 「はい、どうぞ~これで元通りですよ」


 そして差し出された画面はいつも通りのあの画面だった。


 「ありがとう、メフェスさん」

 「いえいえ……。 ふと思えば、何かお邪魔になりそうな雰囲気ですので、私は一度どこかに姿を隠します、もしお呼びの際は、このオカリナを吹いてお呼びください」

 「分かった、助かるよメフェスさん」

 「いえいえ、では……」


 俺はそう言うとメフェスさんは黒い塊に飲み込まれていき、そして俺はスマホの画面に意識を戻す。

 すると。


 「なるほど、力づくですか、クルシナ先輩……」

 「ミーティア、考えてみろ。 愛のハンターの行動は、どんな行為も正当化されるのだから……」

 「なるほど、では薬はどうですか? 先輩!」

 「無論、セーフだ。 愛があれば、何だって許されるのだから……」


 変態二人が更に仲良く話す光景、そんな様子を。


 「良いですかユキさん! ああいう意見は、危険思想なのです! 絶対覚えてはいけませんよ!」

 「へ? 好きな相手にペロペロ嘗め回したり、混乱した勢いで(自主規制B)をしたりするのが常識じゃないの!?」

 「違います! 絶対違いますからね、ユキさん! 絶対ですよ!」

 「つまり、それは正しいってフリね! 分かったわ、グロリアさん! 私は大賢者だから、よく分かるわよ!」

 「ち、違いますってユキさん!」


 正しい事実を教えようとするグロリアさんに迷惑をかけるユキの姿があった。

 全く、このアホは一体何を……ん? 誰の右手だ?


 「……あらあら、先ほどレモン汁をかけてくれたノブユキ様ではありませんか? 探しましたよ……」

 「げ! セレス! ……あ、あれ~どうしてこんな所に教団の素敵な信者がいるのかなぁ……」 

 「フヒヒヒヒ……今はカリスマの洗礼と言う名の、モテる思考講座によって生まれ変わった、グロリア様のしもべ……教団は関係ありませんよ……」


 コイツ、完全に目つきがヤバい……。

 と言うかグロリアさん、何なの、そのモテる思考講座って!

 つーか、やべぇ、このままだとやられる!

 そう思った時だった。


 「え……」


 俺の額に柔らかい唇が俺の頬へ優しく触れる。


 「その……、いつも相手してくれて感謝してますよ……」


 いつもの邪教徒っぷりはそこにはなく、ただ純粋な瞳の恋する美女がそこにいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る