俺とグロリアさんと悪魔とユキと
「と言う訳で、私この世界にいたくないのです。 その為に魔王を辞めたいのです。 ですが、魔界には妹たちがいますから、魔王を辞めた瞬間、魔王派遣会社の方々が妹たちが酷い目に会うかもしれないと言う恐怖と、これから生活どうしようかな?と言う恐怖でいっぱいでして……、あ、私死ねばいいんですよね? 直ぐに死ねばいいんですよね!?」
俺とユキが、グロリアさんをどうするか?と言う事を、教会の屋上で話し合っていた時、グロリアさんが俺たちの元に着陸し、こちらの意思も関係なく、相談された。
と言うより……。
「あの、グロリアさん、いきなり『と言う訳で』なんて言われても分かりませんよ!」
「と言うかグロリアさん。 顔色が悪いわよ、青ざめているって言うか……」
「だって、あんな事になるなんて思ってなかったんですよ! もう私魔王辞めたいです、人生も辞めたいです!」
「だから落ち着いてくださいって! なぁユキ」
「そうよグロリアさん、ノブユキの言う通りよ!」
もう、動揺してどうしようも無いんだろううなぁ……。
アワアワした感じで冷静さを全く感じないし……ん?
「グロリアさんちょっと待ってください、ユキ、ちょっと来い……」
「うん、分かった」
そして俺は少し離れた所にユキを呼ぶと。
「なぁユキ、今グロリアさんを倒さずに平和にするチャンスじゃないか?」
「あ~……、もしかしてグロリアさんを別の世界に連れて行くって考え?」
「やっぱお前、定期的にこっちの考えを分かってくれて助かるわ……。 でも、問題があるのは分かるだろ?」
「妹さん達とか、グロリアさんが妹ちゃん達を養うお金の問題とか? でも、お金の問題に関しては大賢者の私にナイスアイディアがあるの!」
「ん? いったい何だ?」
まぁ、期待はしていない。
だって、大賢者が……っと言う時は、ほぼロクなアイディアじゃないし……。
「今回貰えるノブユキの報酬を、グロリアさんにあげればいい!」
「ちょっと待て!」
待て、いや気持ちは分かる!
だけど、だけど……。
「あのな、そうしたら将来的な貯金が減るんだぞ。 お前が楽しむ余裕がなくなるんだぞ?」
「でも、私の幸せの為なんでしょ? ノブユキ幸せ、私幸せ、グロリアさん幸せイェーイ……」
「……ぷ! クスクスクス……」
不意に不慣れなラッパーの様に発せられたユキの言葉は俺を笑わせた。
まぁ良いか、コイツが良いなら……。
「……なぁユキ、ふと思ったんだが、天界の報酬って、何なんだろうな?」
「あ……」
そう言えば、今まで特に考えてなかったけど、天界の報酬って何なのだろう……。
でも、あの邪神にクルーズ一年分を報酬に出せるくらいだし……どうなんだろうな?
「……聞くしかないか」
「ん?」
「ちょっと、お前のかあさんに聞いてくるよ、ついでにグロリアさんの事
どうにかならないのかも。 だからグロリアさんの事、頼む!」
「あ、なるほど! OK、この大賢者の私に任せて!」
そして俺はスマホを切ると、家を出て邪神の家に向かった……。
あぁ、暑いな外は……。
…………。
「ごめんね~、今日は珍しく出てるんだ、クリスティアさん。 まぁ外は熱いから、中で涼んでいなよ」
そんな言葉、笑顔で俺を出迎えたコタロウおじさんは、俺を家の中へ招き入れてくれた。
そして、椅子に座る俺の目の前に、冷たく冷えたオレンジジュースを置くと。
「そう言えば、ネオンさんが同居しているらしいね。 どうだい、あの人との生活は?」
「え? 何で知っているんですか?」
「知ってるも何も、彼女から電話がかかってきて、そう言われたからね」
「へ? 何でおじさんの電話番号を知ってるんですか? あの不良教師!?」
「だって、僕と彼女と君の両親は友人同士だったからね?」
「え!? え!?」
俺はその言葉に戸惑う。
と言うのも、おじさんは今まで『死んだ俺の両親と友人』とだけ言っていたから、そんな事、知りもしなかったし、あの不良教師がそうだとも思わなかった。
でも、何で教えてくれなかったのだろう、一言教えてくれたって良かったのに……。
「な、何でそんな事教えてくれなかったんですか?」
俺は不思議そうに尋ねた。
すると『あははは……』と不器用な笑いを零し、右に視線を逸らす。
そして。
「だってネオンさんが『言ったらお前を殺す』って言われてさ……。 恥ずかしいんだって、自分の本心を知られるのが……」
「ぷ!」
俺はその理由につい噴き出してしまった。
だって、あの不良教師のキャラじゃないもん、恥ずかしがるって!
ん? どうしたんだろ、おじさん? 真剣な顔をして……。
「彼女はね、君が6歳の時に両親が亡くなった際、君を引き取るつもりだったんだけどさ。 君は『僕は一人で暮らす!』って宣言しちゃったから、そうなる事は無かったけど……」
そう言えば、そんなことを言ったなぁ……。
当時、両親が交通事故で無くなって、俺一人になった時、心配そうにしていたおじさんやユキや邪神に強がってさ……。
でも結局、一人で暮らさせるわけにはいかないって事で、中学生になるまでは一緒に暮らしたなぁ……。
「あ、そうそう! 君が中学生の時、彼女はずっと君に変な虫が近づかない様にって睨みを利かせていてさ~。 確か、不良時代の仲間を使って守らせていたんだっけ? ホント、過保護と言うか……あ、えーっと……」
あれ、おじさんどうしたんだろう?
すっごい顔から冷や汗がダラダラ流れているけど……。
と言うかすっごい顔が急に青ざめているんだけ……。
そう思った時だった、俺の頬を擦れて木刀が飛んでいき、そして壁にめり込み。
「コタロウ、貴様を殺す!」
「あ、僕は良かれと思って……いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
鬼の様な形相の不良教師がこの空間を殺気で覆い、そして怯えるおじさんの顔を掴んで奥の部屋へと去っていき。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、あ!」
おじさんの悲鳴が、家を駆け巡ったのだった。
…………。
「あれ? うちのダーリンはどこですか?」
「余計な事を言って、教師型キリングマシーンに拉致られました」
「あぁなるほど……、ダーリンも暴力を受ける運命なのでしょうか……」
さて、おじさんをフライパンで殴るお前が言うなと言いたくなる発言だが、そんな事を言えば、電撃を浴びせられるだろう。
俺は日々成長するのだから、もう電撃を浴びせられる事は無いだろう!
「ところで、今日は一体何の用です、ノブユキ君? は! もしや……。 いけませんわ! いくら私の神々しい魅力に駆られたからって……、私にはダーリンが!」
「それは無いです。 と言うかそう自分で言って、痛々しいと思わないででででででで!」
と思ったが、この自信過剰な邪神の気に触れ、俺は電撃を浴びてしまった。
いでで、マジで痛い痛い痛い!
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ! や、止めてっておばさん! あ……」
「誰がおばさんですか……」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
この時俺は思った。
あぁ、今日で死ぬんだって……。
…………。
「さて、素敵で美しい女神様の私に何の用ですか? ふふ、全知全能な私に相談しようと言うのです、実に大変な相談なのでしょう、さぁ、さぁ語るのです!」
クソ、腹立つこの邪神!
あんな電撃なんて悪魔めいた事をしておいて、さも女神ですよって言いたげな表情しやがって……。
だが、我慢、我慢だ俺……。
「ところで、美しい女神様! 報酬って何なのですか?」
「金です! それも日本円で1憶は下らないでしょう」
「い、1億!?」
ちょっと待て!
そんなにあれば、割とグロリアさんと半分に分けても問題ないのではないだろうか?
いや、待て待て、それでも十分すぎろ!
と言うか夢が広がるなぁ……、グロリアさんに半分あげても夢が……そうだ!
「おば……綺麗なお姉さん! 一つ相談があるんだけど?」
「はい、何でしょう?」
「グロリアさんって魔王の魔王職を辞めさせて、グロリアさんの妹たちと一緒にどこかに避難させたいけど、どうすれば良いですか?」
「……はい?」
あ、何言ってんのお前?って目で見やがって、邪神の癖に……。
「だから、俺もユキもグロリアさんを助けたいの、妹さん達も助けたいの! どうすればいいの!?」
「なるほど……ならば、この聖なる女神にお任せください!」
そう言うと、邪神は何か祈りだし、そして。
「おいでませ、聖なる使徒、メフェス・ト・フェレス!」
そして目が眩むほどの光がしばらく部屋を覆った後に、徐々に俺と邪神以外のもう一つの人影が露わになった。
それは真っ黒い体の凶悪な顔の化け物。
俺より二回り大きい体に、牛の化け物の様な容姿、それはいかにも悪魔の様な形相だった。
「……え? え?」
のだが、自分の意思に関係なく、突然呼ばれたんだろうなぁ……。
エプロンして、バンダナ巻いて、右手にハタキを持って戸惑ってらっしゃるし……。
「あの、いきなり呼ばないでって言ってましたよね、ワタシ!」
あれ? グロリアさんしかり、悪魔ってこんな良い人ばかりなの!?
ちょっと涙目だし、何だかなぁ……ん?
「メフェスさん、とりあえずその子を助けてください! け、決してめんどくさいとか、毎回家に来られて迷惑とか思っている訳じゃないですからね! それじゃあ!」
「「え!?」」
そして俺たちは手を掴まれ出口まで誘導されると、暑い家の外に蹴りだされた。
あの野郎、絶対めんどくさいだけじゃねーか!
「あの、このような急な出会いで何ですが、お名前は?」
「あ……ノブユキだけど……」
「これはどうも! 私は見ての通り、悪魔をやっていますメフェスって言います。 よろしくお願いしますね」
そう言ってメフェスは不気味な笑顔を浮かべつつも、右手を差し出す。
確かに外見は怖いが、声は優しそうというか……。
その為、そんな悪魔に俺も右手を恐る恐る差し出し。
「こちらこそよろしく!」
と強がるようにそう言ったのだった。
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