第23話 罠

「岸川、お前から頼まれた件だが、送信先は偽装されていた」山口刑事からの電話は真夜中の午前3時だった。

「山口、こんな時間まで仕事しているのか」「寝ていたのか。悪かったな。サイバー犯罪捜査班は三交代制で24時間働いているんだ。送信先は外国をいくつも経由していて、送信元を特定することが出来ない。相当な知識を持っている奴だ」

「ということは内務調査班というのは嘘というわけだな」「そのとおりだ。生沼という名前の人物も内務調査班にはいない」「山口、危険を冒して調べてくれたのか」「岸川、本当に注意した方がいいぞ。嫌な予感がする」

「山口、その予感は俺もずっと感じている。ここまできたら逃げるわけにはいかない」その予感はすぐに現実になった。


 岸川は出勤前に郵便受けに封筒があることに気が付いた。昨日の夕方には無かったことは確認していた。封筒の下の部分が赤茶色に変色していた。この色には見覚えがあった。外側から触った感触で細長い物が入っていることが分かった。

 封筒のセロテープを剥がして、中を見て岸川は戦慄した。そこにあったのは血の付いたナイフだった。そのサバイバルナイフの柄には特徴があり、見間違いのしようがなかった。一週間前に部屋からなくなったナイフだった。その時、携帯電話が振動を始めた。木下刑事からだった。

「岸川、今どこにいる」「今から出勤するところだ」「お前を探して、大騒ぎになっている」「一体何が起きているんだ」「箝口令がひかれていて分からない」

「岸川刑事、ご同行願いたい」いつの間にか岸川刑事の両脇に男が立っていた。

 右脇に立っていた男は背が高く、口調が威圧的だった。左側の筋肉質の男は岸川刑事の手首をがっちりとつかんでいた。

「持っている封筒をこちらに渡してください」「まず何の容疑かまず説明してくれ」「大山刑事が殺害された。君は容疑者だ」岸川刑事は血の付いたサバイバルナイフが凶器だと直感した。

「この封筒は今朝、この郵便受けに入っていた。誰かが俺を犯人に仕立て上げようとしている」「君の弁明は警察署で聞くから、今はおとなしく同行してくれ」

「同行する前に君たちの警察手帳を見せてくれ。逮捕状を持っているのか。任意同行なら断る。それに君たちを署内で見たことがない。所属はどこなんだ」

「見たことがないのは当然だ。俺たちは本庁から派遣されてきたのだから」

 男が警察手帳を開いて見せた。岸川刑事は男の名前を見て、これが罠であることを確信した。男の名前は生沼だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る