6.ツノウサギを倒せ!

 今にも再び襲いかかってこようとしているツノウサギ。

 どうする?

 そうだ、魔法。

 俺には火炎球という攻撃魔法があった。

 ぶっつけ本番だが、やるしかない。


 もう一度思念モニタを表示して、指でタッチを……


 だが。

 ツノウサギもそんないとまは与えてくれない。

 フロルを抱きかかえる俺にツッコんでくる。


 俺はフロルを抱えたまま、飛び退く。

 かろうじて攻撃はかわしたが、集中力の問題なのか思念モニタが消えてしまった。


 クソ。

 もう一度思念モニタを出しても同じ事の繰り返しだ。


 俺はこの時、この世界の魔法の弱点を知った。


 思念モニタで魔法を選択するには2~3回以上の操作が必要。

 RPGでいうところのコマンド入力作業だが、ゲームと違うのは入力中も相手が止まってくれないということ。

 回復魔法を選んでいる間にも怪我した場所からは血が流れ続けるし、攻撃魔法を選んでいる間も敵はこっちに攻撃してくる。


 現に、ツノウサギはまたしてもツッコんでくる。

 どうしたらいいんだよ!?


 思ったその時だった。


「ごちゅじんちゃま、フロルぅー」


 アレルが泣き叫びながら、俺達にツッコんできたツノウサギの横っ腹にジャンプキック。

 ツノウサギもアレルのこの攻撃は予想していなかったらしく、まともにくらってしまう。

 宙を舞うツノウサギ。


 この時俺は、ステータス上アレルの力は凄かったなと思いだした。


 ともあれ、このスキは逃せない。


 俺は思念モニタを操作。

 火炎球の魔法を選ばなくては。

 だが、指が震える。


 ===========

 魔法選択

  ・無限収納

  ・地域察知

  ・体力回復(※現在のパーティーメンバーには必要ありません)

  ・怪我回復(※現在のパーティーメンバーには必要ありません)

  ・火炎球(※誤使用による火災や火傷にご注意ください)

 ===========


 震える指が違う場所をタッチしそうになる。

 しっかりしろ、俺!

 アレルが頑張ったんだぞ。


 火炎球を選択するとさらに選択肢。


 ===========

 魔法選択:火炎球:何に?

  ・ツノウサギA

  ・その他

 ===========


 くそ、魔法を使うまでの選択肢が多すぎるだろっ!!

 ツノウサギは再びよろよろと起き上がっている。

 だが、魔法はまだ発動せず、新たな選択肢が現れる。


 ===========

 魔法選択:火炎球:何に?:ツノウサギA

  ・OK

  ・キャンセル

 ===========


 ふざけんなっ!!

 オレは内心叫びながら、OKをタッチする。


 すると。


 俺の目の前に直径50cmほどの火の玉が現れ、自動追尾するかのごとくツノウサギに飛んでいく。

 燃え上がるツノウサギ。


「ギュン」


 ツノウサギの断末魔。

 肉が焼ける臭い。


 後に残ったのは、黒焦げになったツノウサギの死体だった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 ようやく落ち着いた俺は息をあらくしながら、その場に座り込んだ。

 いや、ガチで腰が抜けちゃって。

 我ながら本当に情けないけどね。


 ---------------


「フロルぅー、ごちゅじんちゃまぁー」


 アレルが半泣きになりながら俺達に駆け寄ってくる。


「ごちゅじんちゃま、だいじょうぶ?」


 その場に座り込んだままの俺を、アレルが心配そうにのぞき込む。

 うう、本当に情けないなぁ。


「うん、大丈夫だよ、アレル。ありがとう助かったよ。偉かったぞ」


 俺が褒めながら頭をなでなでして上げると。いままで泣いていたのが嘘のように、喜んで飛び跳ねるアレル。


「えらい? アレル、えらい?」


 実際、アレルがツノウサギを蹴飛ばしていなかったヤバかった。

 まだまだ未熟だが、さすがは未来の勇者様といったところか。


 喜ぶアレルに対して、フロルは。


「申し訳ありません。ご主人様」


 神妙に俺に謝ってくる。


「何がだよ?」

「私ごときのために、ご主人様の貴重なMPを使わせてしまって……」


 その言葉に、むしろ俺の中で怒りがわいてくる。


「フロル!」


 俺は思わず強い口調で彼女に言う。

 彼女はビクッと身をすくませ、両目をつぶる。

 まるで、俺にぶたれると思っているかのように。


 もちろん、俺はそんなことはしない。

 代わりに、彼女を軽くハグする。


「私なんて二度というな。お前は俺の大切な仲間なんだからな」

「……仲間……でも私たちは……」

「そりゃあ、確かに俺はお前達を奴隷商人から買い取った。不本意ながら奴隷契約書にも手形を押したさ。だけど、俺はお前達を奴隷だなんて思ってないから。お前達は俺の大切な仲間だ」


 俺は心の底からそう言った。

 フロルもアレルも、奴隷だなんて思わない。日本で蘇生するための手段でもない。

 俺にとって、仲間だし、かわいい子ども達だ。


 フロルの目から涙が流れ落ちる。


「ありがとう……ございます。ご主人様」


 そんなフロルが愛おしくて。

 俺はさらにつよくフロルを抱きしめる。


「あー、アレルもぉー、アレルもぎゅってしてぇー」


 うらやましげに言うアレル。

 俺は双子をギュッと抱きしめた。


 幼子2人の体温は、とっても暖かかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る