03

 嗚呼、歌が聞こえる。

 聴いたことがある歌声だ。顔に何か冷たいものがポツポツと落ちてきて、雨が降っているのかと思い、クロノスは目を開けた。

 ぼやけた視界の中で、誰かがクロノスの顔を覗き込んでいた。それと同時にぽつぽつと冷たいものが顔に落ちてくる。それは雨ではなく、涙だった。

(なんだ、また泣いてんのか)

 よく泣く奴なんて一人しかいない。

「アメリアか…………」

 だんだん視界が鮮明になっていき、アメリアのアメジストのような瞳が見えた。

「クロ…………」

 深い紫色の瞳から涙が零れ落ちている。クロノスはアメリアの涙を拭った。

「どうした? なんで泣いてんだ。また泣き虫に戻ったのか?」

 アメリアは初めて会った時から彼女は泣き虫だった。クロノスに何かある度にぽろぽろ涙をこぼしていた。

 クロノスがそういうと、彼女はゆっくり口を開いた。

「…………死んじゃったのかと思った」

 アメリアは涙を拭ったクロノスの手を握って、呟くように言った。

「ずっと……死なないでって…………お願いしてたの」

 彼女の中で塞き止めていたものが涙となって溢れ出した。

 嗚呼、あれは歌じゃなくて彼女の祈りだったのか。

「人の事を勝手に殺すなよ………………」

「だって……………いくら呼んでも起きないんだもん」

 大粒の涙を流しながら微笑む。

「生きててよかった…………クロ…………クロ…………ク……ろ……」

 何度も何度も彼女はクロノスを呼ぶ。

 彼女の涙がクロノスの頬に落ちてくる。

「…………馬鹿だな……何言ってんだよ。お前を置いて逝かないって言ったろ」

「……………うん」

 涙をこぼしながら、アメリアは頷く。

「ほんと、泣き虫だな…………」

「うるさい…………」

 アメリアはそう言い、クロノスを抱きしめた。




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