第21話(21)フェンリは女の子


 「……お前の言う通りだったな」

 「フェンリは やっぱり女の子でしたね」


 「山奥で育ったと言っていたが、まったく。誰も教えなかったのか」


 話題のフェンリは、例の暗緑色塊(不活性スライム)の眠っている。素裸で だが、外から見える訳ではない。服を全部脱いで入ったため、必然的に見えただけである。


 ミラとベンが、やっかいな問題から脱げようと、無意識に話を逸らしている事柄がある。

 彼女フェンリから、何とか聞き出した 今回の経緯と、問題の証拠物件の事だ。


 ■■■


 「……という訳だ。相手の映像と音声は この魔法具に記録してある。

 これが竜の 剥落したうろこだ(破損した5枚だけ出している。他は小妖精に渡した)。

 そして、これが 奴等が持っていた『冒険者カード』という魔法具だ。但し、偽物だがな」


 「何で偽物だと? 見た目では、探索魔法でも区別が出来ないわ」

 ミラには見分けられないようだ。


 「じゃ 自分の、ミラが持っているカードと見比べると良い。

 俺は死霊ダンジョンで見つけたモノと比べたんだが、全然違うぞ。

 ダンジョンで見つけたカード 全部(52枚)に共通して存在している魔法式の幾つかが、この 9枚には存在していない」


 そう言いながらフェンリは眠そうである。

 もう日も落ちている。


 「まぁ、冒険者ギルドに渡せば ハッキリするさ。じゃ、ちょっと休ませて貰う」


 その直後であった。

 魔杖で暗緑色の塊(柔らかそうだが)を出して、寛衣ローブや服、下着を さっさと脱いで、その中に潜り込んだのである。


 卵の黄身を薄めたような肌色は、『黄色いヒト』だ。ゆるいウェーブの掛かった、腰まである髪は 濃い金色、というか朱金に輝いている。細い手足、胸の膨らみは、……まだ これからだろう。だが、明らかに『女の子』であった。


 ベンが目を逸らす余裕もなかった。

 ミラが驚いて叫んだが、聞こえなかったようだ。


 高位にある従者、エポナが フェンリの脱いだ衣類を片付けている。

 ソレのしている事 そのものは、自身に内蔵されている収納装置に回収しているだけのように見える(普通の、入浴中の女子は、衣類を 他の者に片付けさせたりしない)。


 その際、ミラがフェンリの放り出した杖を拾おうとして驚いた。重くて持ち上げられないのだ。

 エポナが ソレを見て対処したが、あれは何らかの魔法で、質量を相殺しているに違いない。


 最後にフェンリの入った塊も収納したのには、ミラもベンも驚いて口を出したが、従者エポナが発した 文句の付けようのない回答に、簡単に言い負かされてしまった。


 「私はあるじである フェンリの管理下にあり、同時に守護する義務があります。

 無関係な人間に、戦闘不能状態の主を晒しておく事は出来ません。

 私の収納には十分な広さがあり、清涼な空気、そして明るさを提供出来ます。全く問題なく休息出来ると思いますが」


 『マスタ』

 ――う……ん、何か問題があったのか。

 『他者の前で 無防備な状態になるのは止めて下さい』


 ――ごめん。疲れてたんだ。これから気を付ける。

 『以後、休息が必要な程の疲労を感じたら、必ず「休息する」と命じて下さい。早急に対処致します』


 ――でも、守護者がいるじゃないか。

 『それでもです。万に1つであっても、対処遅延の可能性は存在します。それは避けるべきです』


 ――分かった、気を付ける。で、ここは 何処だ。

 『私の収納の中です。フォブとディムも ここに居住区を移しました。マスタの傍が良いそうです』


 ――居住可能域を造ってくれたのか、ありがとう。

 これからも お世話になるが、宜しく頼む。じゃ、おやすみ。

 『おやすみなさい』


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