第15話(15)魔物の暴走


 ミラが違和感を持ち、歩行でバランスを狂わせたのは これが原因であった。

 背が低くなり、(元々巨乳と言う訳ではなかったが)胸も かなり小さくなっていた。


 「えぇ、え……」

 何だか項垂うなだれた様子のミラに、フェンリが声を掛けた。


 「それは、きっと そのベッドの効果だろうな。体力や精神力を回復する時に、治り切らない部分を修復して体格を縮小したのだろう。

 命令は『健康に活動出来るように治せ』だったからな」


 「……」

 ミラは何か言おうとして声を詰まらせた。

 「……ありがとう」


 エルフとヒトとは成長速度が違う。

 第1期は、ヒトと大差ない成長速度だが、15歳前後で第2期に入る。

 すると成長速度が一気に遅くなる、ヒトの外観で比べて半分程に落ちる(見た目10歳追加に20年掛かる)のだ。

 そして、第3期に入るのは50歳前後で成長速度は ヒトの4分の1になる……。

 これから考察すると 第2期に入って22年のミラは、第1期の末 近くまで若返った事になる。


 「はぁ……22年」

 ミラは溜息を洩らした。


 エルフにとって成長した姿というのは、一種のステータスシンブルでもあったのだ。


 実は、ミラに取って更にショッキングな事実がある。体が若返った分、そのまま上乗せされて種族としては加齢した形になる。

 つまり エルフとしての年齢は、59歳。既に第3期に入っているのだ。今後の成長速度は、ヒトの 4分の1になる。


 「で、これから何処に行くのか決まったのかい」

 フェンリが2人に尋ねた。


 「あぁ、ずは そこの森から隣国に抜けて冒険者登録をする。その後は ミラの助言に従って、北の侯爵領に向かうつもりだ」

 ベンが言った。

 「出来れば2人も一緒に行かないか。ここは、長居するには 良い国ではない」


 「そうね、先ずは この国を、出ましょう(捨てましょう)」

 ミラも同意した。


 フェンリも頷く事で、この地を離れる事に了承を示した。


 ■■■


 森に入って暫く進むと、3人は 小型・角ウサギの大集団に襲われた、と言うより出会でくわした。


 「こいつ等 群れる習性だったかな」

 大剣を器用に操り、ソレを 次々に仕留めながらベンが話し掛けた。


 「私は、そんなの 聞いた事ないけれど」

 ミラも軽装長剣(長剣と同じ程の長さで、幅が狭い。細剣より幅がある)を振るって魔物を倒している。


 「ここは、危険回避に集中しましょう。何者かに追われて逃げて来ているか、最悪だと魔物大量発生スタンピードの可能性だってあるわ」


 だが 事はそう簡単ではない。暴走している魔物集団の幅が かなり広いのだ、混雑部分だけでも 10メートル以上ある。通り抜けるのは かなり難しい。


 「角ウサギは結構 凶暴だと聞いているが、それが逃げ出したとなると、ちょっとヤバいな。

 道を造るから全力で走れ。用意が出来たらカウントするぞ」


 フェンリは 一旦引き、改造したばかりの常用魔杖を振り回して、数十匹の角ウサギを一気に弾き飛ばした。

 その力技に 目を丸くしたしたミラだったが、今は それどころではない。


 フェンリは 石突部を地に突き付け、目的地である 2百メートルほど先にある岩棚に目を向けた。

 「3、2、1、行け!」


 『3』と発した時、地表から5メートル程の高さに土で出来た橋が出現した。その幅は約3メートル、魔物の行進を避けるように架かった(それは 形状はともかく、機能は歩道橋を想像すると良い)。


 ベンとミラが目的地に着いたのを確認して 魔法を解除したフェンリは、杖の石突部で軽く地を打って、そのまま フワリと浮き上がった。


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