3-11
修が観念したとき、地下から第二の機人が打ち出された。まるで熱帯の樹影のような緑の巨大な姿。真下から思わぬ攻撃を受けた第三位格は再びバランスを崩し、修は解放される。
第二の機人から黒江の声がする。
「修、助けに来た。予定より遅れてしまったけれど」
修は驚いたふりをする。
「黒江。……その機人は一体」
「ティテュオス。私が地下から掘り出したもうひとつの機人」
「ありがたい。一緒にこいつを片付けよう。……この銃も、至近距離ならまだ使えるかもしれない」
だが、その言葉とともに、ひどい頭痛がしてきた。頭の中心に脈動するものがある。あるいは、目の奥に何か熱を抱えたものわだかまっている。シーシュポスの消化管がうねり、吐き気がする。
「シーシュポス、活動限界」
「BMIの接続時間の限界です。大脳への負荷がかかっています」
「運動野、感覚野への負担をカット」
「搭乗者、保持できますか」
「無理です。機人に限界が来ています。体液の循環も不順。一度撤退してください」
「くっ……」
まだ戦える、黒江を残していくわけにはいかない。叫ぼうとしたが胸の中で胃がぐるりと動いた。同時に、機人の臓物も悶えた。あたかも修を吐き出そうとしているようだった。では、修は何を嘔吐すればいいのだろう。
「修、まずは指示に従って。症状は一見重いようだけど、数分もすれば回復する。戦線にはすぐに復帰できるから」
「けど、黒江」
「戻りなさい。修はこれ以上耐えられない」
頭の脈動が巨星のように震えた。心臓が動いているのが感じられる。やがて、修の意識は薄れ、徐々に機人の中に取り込まれている自分が意識される。液体の中に浮かび、機人の臓器が立てる騒々しい音に囲まれている。母の子宮の中で浮かぶ胎児のように、静寂とは無縁だ。
そして機人の心音が、自分の心臓の拍動とシンクロしているのを感じる。まるで、自分の体内に自分がいるようでめまいがする。あたかもその中にさらに自分がいるようだ。自分の中には無限に小さくなる自分がいて、外にも無限に大きくなる自分がいて、それが繰り返されていると錯覚する。おそろしい観念だった。宇宙すべてを満たす自分の肉体。
修はそれに恐れをなしたように昏倒し、シーシュポスは搭乗者の意識無しに地下へと戻っていった。
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