第150話 特別編『if』-旭は飲み会を企画する-
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今回のお話は150話到達記念の話です。
もしも旭達が全員で飲みに行ったら……というifが展開します。
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「もしもし、明日の17時に予約をしたいのですが……。……はい、人数は7人を予定しています。はい……はい、あ、席は空いてますか。では予約をお願いできますか?……ありがとうございます。名前は響谷旭でお願いします。……はい、では明日はよろしくお願いします」
ーーーーピッ。
電話を終えた俺はスマホの画面を閉じる。
前日に7人という大所帯だったのだが、店の予約は問題なくできた。
後は全員分のお金をしっかり用意して、予約した時間までに店に行けば問題はないだろう。
「あ、電話終わったんですね。旭さん、明日はどこかに出かける予定なのですか?7人分で予約していたみたいでしたが」
無事に予約ができてホッとした俺の元にルミアがやってくる。
エプロンを外しているところから察するに、夕飯の準備をしていたのだろう。
俺のところまでやってきたルミアは小首をかわいらしく傾げていた。
「あぁ、明日の夕方に秋葉原まで飲みに行こうと思ってな。明日は俺がこの世界に転移してきた日だし、レーナやルミア達との出会いを祝いたいんだよ」
「なるほど、もうそんな時期なのですね。……でも、今回の目的はそれだけではないのでしょう?」
「たはは……。ルミアには全てお見通しか」
ルミアは俺に悪戯めいた表情を浮かべる。
……昔からルミアの洞察力には敵わないな。
俺はルミアを抱き寄せて耳元でゆっくりと囁いた。
「実はな……今年から家族全員がお酒を飲めるようになったから、それも一緒に祝おうと思っているんだ」
「……ひゃん!?いきなり耳元で囁かないでくださいよ……。たしかにユミも20歳になりましたし、みんなで飲むのはいいと思います。ユミなんて『ようやくお酒が飲める!』ってはしゃいでいましたからね」
耳元で囁かれたルミアは艶めいた声を上げつつも、俺の考えに賛同してくれた。
まさか家族全員でお酒を飲みに行ける時が来るとは思わなかった。
まぁ、俺達は全員ある一定の見た目から変わらない……所謂不老不死になっているからこういう時が来るのはわかっていたが。
「それで旭さん。……んっ。どこのお店に飲みに行くのですか?」
「スマホで検索していたら、時間無制限で日本酒が飲み放題の店を見つけたからそこにしよかと考えている。そこはやけに良心的なお店でな?マイナーな日本酒がたくさん置いてある上に、時間無制限で¥3000なんだよ」
俺は喘ぎ声を発しているルミアを横目に明日行く予定のお店について伝える。
ルミアが喘いでいるのは……俺が原因なんだが拒んではいないから問題はないと思う。
「なるほど、それで予約していたのですね。この事を他の人は知っているのですか?」
「いや、ルミア以外には伝えていないよ。……ソフィアは最近情報共有を常に作動しているからバレてると思うけどな。……あいつは口が軽いから、ルミアも言わないように注意してくれ」
「ふふっ。たしかにあの方はレーナさんに対しては口が軽いですからね。気をつけます」
これは俺なりのサプライズだ。
レーナやリーア、ユミには特にバレるわけにはいかない。
そのために3人が依頼を受けて家にいない時に予約したんだからな。
もう1人の人物も保護者としてレーナ達に同伴させているし、情報が漏れることはないだろう。
「そういうわけであの子達が帰ってくるまでに明日の準備をしなくてはならない。ちなみに明日行く場所は料理持ち込み可だから、今からソフィアを交えた3人でつまみを作るぞ」
「わかりました。食欲旺盛な子が3人もいますからね……。腕によりをかけて作りますよ!」
俺とルミアは立ち上がって台所に向かった。
ソフィアには念話で伝えておいたから問題はないだろう。
明日を最高の1日にする為に美味しい料理を作ろうではないか!
▼
「よーし。みんな準備はいいか?」
翌日の15時頃。
俺達はリビングに集まっていた。
これから日本に行くので、全員がお洒落な服を着ている。
……いや、俺はお洒落な服ではないから全員ではないが。
「お父さん、日本に行くのはいいんだけどさ。こんな時間にどこに行くの?」
「レーナの言う通りだよ、兄さん。お洒落な服を着てこいっていうから着てきたけど、もう夕方だよ?今から行ったら17時前に着くんじゃない?」
レーナとリーアは不思議そうに首を傾げた。
ちなみに2人の俺に対する呼称は16歳くらいから変わってしまった。
今となっては慣れてしまったが、昔の呼び方に寂しさを覚えないかと言われればそうではないと断言できる。
そして、呼び方が変わったのはレーナとリーアだけではなく……。
「兄様?なんでそんな泣きそうな顔をしているんです?何か嫌なことでもありましたか?……【完全回復】!……おかしいですね。回復魔法が効かないとは……精神的なものなのでしょうか……」
そう、ユミの俺に対する呼称も『にぃに』から『兄様』に変わってしまったのである。
口調もルミアのような敬語になってしまったが、それについては元女神の意識を完全に乗っ取ったからだと本人は言っていた。
胸の成長は芳しくないが、俺は両方いけるクチなのでなんら問題はない。
「……兄様?いまとてつもなく失礼な事を考えていませんでしたか……?」
「んー?ユミは可愛いなぁって思っていただけだよ」
「そ、そうですか……。えへへ……」
俺の思考を察したユミがこちらを睨んできたが、抱きしめるとすぐにとろけた表情を浮かべた。
……チョロいな。
こんなにチョロくて大丈夫なのだろうか?
一応、邪な事を考えている男が近づいてきた時のために、【全除精】を使える小型マシン(全長10μm)を護衛につけているが。
[旭、そろそろ行かないと時間が遅くなってしまいます。感傷に浸るのもいいですが、転移の準備をしてしまいましょう]
「あぁ、すまんすまん。じゃあ、残りの質問は向こうについてからな。リカーナ、家の戸締りとかは大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、あなた。今精霊達に確認をとりましたが、全部屋問題なく戸締りできています」
ソフィアに催促された俺はレーナの隣に立っている美人な金髪の女性エルフに戸締りの確認を行う。
7人で予約したのはこの人も含めていたから。
その女性……リカーナは精霊魔法を用いて戸締りを確認していた。
ちなみにリカーナという人物は、レーナの実の母親だったりする。
レーナの故郷であるエルフの里に行った時に……と、この話はまた別の時にするとしよう。
思い出話に浸っていたらまたソフィアに怒られてしまいそうだ。
「じゃあ、改めて行くとしようか。今回の目的地は日本秋葉原!ソフィア、座標軸は問題ないか?」
[えぇ、寸分違わず設定できております。今回は人気のないビルの階層が転移対象ですから、【透明化】は必要ないでしょう。偽装もこの程度でいいはずです……【簡易偽装】」
俺の言葉にソフィアが答えた。
ソフィアが使った魔法は【偽装】ではなく【簡易偽装】。
レーナとリーア達が大きくなったことで、大きくごまかす必要がなくなったからだ。
【簡易偽装】で隠されるのは主にエルフ耳や猫耳だが、任意で解除されない限りは効果が持続する。
「……よし、いくぞ。座標を秋葉原に設定……【境界転移】!!」
▼
「……よし、無事に転移できたな」
俺は周りを見て無事に秋葉原に転移できた事を確認する。
ここは予約した店があるビルのとある階層だ。
事前に調べた時にテナント募集中の階層があったのでそこに転移したというわけだ。
「秋葉原にきたのは久しぶりだけど、ここは変わらないね〜」
「レーナ姉様。確かにぱっと見は変わりませんけど、細かなところで変わってますよ。ほら、あの建物とか以前よりも立派になってますし」
一旦建物から出た俺達は、久しぶりに来た秋葉原の風景を眺めた。
レーナの言う通り大きく変わったところはないが、細かいところが変わっている。
ここ何年か来ていなかったからそれが影響しているのかもしれないな。
「……で、兄さん。わざわざ秋葉原まで来た理由を教えてもらってもいいかな。こんな夕方に観光しに来たわけじゃないんでしょ?」
レーナとユミのやりとりを眺めていたら、リーアが服をくいくいと引っ張ってきた。
くっ……!
時間まであと少しだったから誤魔化そうと思ったのに……無理だったか!
「実はな……」
俺は改めてレーナ達に今回の秋葉原旅行について説明を行った。
ユミとリカーナは俺が《アマリス》にきた日付を知らなかったので首を傾げていたが、レーナとリーアは納得したかのように頷いている。
「……そっか。お父さんが転移してきてもうそんなに時が経ったんだね。あの時襲われていたわたしをスッと救出してくれたから……今のわたしがいるんだよね」
「私も同じだよ。レーナと兄さんがダマスクから助けてくれたから、奴隷の人生からこんな素敵な人生を過ごせたんだ……」
「「本当にありがとう!!」」
レーナとリーアは俺の方に向き直って感謝の言葉を述べた。
そして街中であるにも関わらず俺に強く抱きついてくる。
道を歩いている人達が何事かとこちらを見てくるが、そんなことは御構い無しなようだ。
俺がそんな2人の姿を見ていると、何故か視界が歪んできた。
……くそっ、こんなところで泣いてたまるかよ。
この2人は不意打ちで泣かせることを言ってくるから困る。
「…………っ、あーー。レーナ、リーア。流石に往来の場所で抱きつくのは他の人の迷惑になるから」
「レーナ、兄さんが泣きそうになってるから離れてあげよっか」
「そうだねぇ。お父さんに本当の気持ちを言えたし、そろそろ離れてあげよ〜」
俺の顔を見たレーナとリーアは悪戯な笑みを浮かべて俺から離れた。
……泣いてるのを見られてしまったか。
昔の2人なら身長差で上を向いていれば見つかることはなかったのに。
[旭、そろそろ人混みが多くなってきました。予約の時間まで残り10分ですし、そろそろお店に行きましょう]
「あ、あぁ。じゃあ、店に行こう」
ソフィアが言うように周りの人が増えてきた。
さすがにこれ以上ここにいるのはよくないだろう。
警察とかきても困るし。
「あ、兄さん。その予約したお店ってどこにあるの?」
移動を開始しようとした時にリーアが尋ねてきた。
そう言えば予約した店の場所を教えていなかったな。
「店の場所教えてなかったか……。予約した店はこのビルの10階だよ」
「「「えぇぇ!?じゃあなんで外に出たの(んですか)!?」」」
俺の言葉にレーナとリーア、ユミの3人が驚いた表情を浮かべた。
……たしかに一度外に出たけどそんなに驚くところか?
「外に出たのは予約した時間よりも早い時間だったからだよ。ほらほら、エレベーターに乗って10階に行くぞ」
レーナ達はまだ愕然としているが俺はルミアとソフィア、リカーナを連れてビルの中に入っていく。
「……まぁ、久しぶりに秋葉原の風景を見れたから文句はないけどね」
「リーア姉様!兄様達が先に入ってしまいましたよ!?早く追いかけないと!」
「ユミちゃん、落ち着いて。お父さん達はエレベーターの前でちゃんと待ってるから」
外で愕然としていたレーナ達は慌てて俺達のいる場所に走ってきた。
先にビルの中に入りはしたが、置いていくつもりはさらさらないのだが。
エレベーターに乗り、レーナ達の柔らかい感触を十分堪能した俺は10階に降り立った。
さて、初のお酒を飲むユミは喜んでくれるだろうか。
そんなことを考えながらお店の扉を開けるのだった。
-後書き-
この時点での年齢はユミ20歳、リーア23歳、リーア25歳と考えてください。
旭達大人組は見た目は変わっていません。
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