第148話 旭は王都へと旅立つ

『これより旭君達が王都にむけて出発する!盛大に見送るぞ!!』


 ーーーーオォォォォォォォォ!!!


「……どうしてこうなった」


 アルケミストから王都への招待を受けた翌朝7時。

 俺達が家から外に出ると、そこにはブランダルを中心としてウダルの住民が門の前に集まっていた。


 こんな朝早くからこんなに集まるなんて近所迷惑とか考えないのか……。

 いや、見た感じ家を囲む勢いできているからほとんどの住民が集まっているようだ。

 そうでなくても俺の家の周りには誰も住んでいないんだけど。


「……おい、ブランダル。これはどういうことなんだ?」


 俺は目の前に陣取っているブランダルにそう声をかけた。

 住民達の手前、意味もなく怒るのは常識的ではないから声色だけは優しくしようと心がける。

 ……まぁ、最前列の住民は俺のオーラを受けてガクガクと膝を震わせているのだが。


「どういうことって……見ての通りだが?」


「いや、見ての通りと言われても、どうしてこんな時間に集まっているのか理解できないんだが……」


 おうむ返しをしてくるブランダルに軽い頭痛を覚える。

 こいつ……住民がいるからって態度がでかくなってないか?

 ドヤ顔を浮かべているのがいい証拠だと思う。


「旭さん!どうして俺らに内緒で王都へ行こうとしてるんすか!」


「見送りくらいさせなさいよ!……あなた達のおかげで平和に暮らせるんだから」


「レーナちゃーん!俺だーーー!こっち向いてくれーー!!」


「リーアちゃーん!旭なんかより俺と付き合ってくれーー!」


「ぐふっ……!?つ、突き飛ばさないでくれないか!?……ギャァァァ!!」


 ブランダルがドヤ顔を浮かべると同時に住民が我先にと俺達に向かって叫び始めた。

 何人かレーナ達を狙っているような発言があったので、そいつらだけはホモになる呪いをかけておいたが。


 ちなみにブランダルは住民に突き飛ばされてどんどん後ろに流されていく。

 あいつ……すごいもみくちゃにされてるけど大丈夫なのか?


「旭さん。そろそろ出発しましょう。家の周りに【聖断】が展開してあると言っても、のんびり対応していたらどんどん出発が遅くなります」


[ルミアの言う通りです。ここは早く【大和】を出して早々に出発するべきでしょう]


 門にひしめき合っている住民達を眺めていると、ルミアとソフィアが出発を促してきた。

 レーナ達も同意見なのかうんうんと頷いている。

 ……たしかにこれ以上構っている暇もないな。


「それもそうだな。……【大和】よ!ここに顕現せよ!」


 俺はそう叫んで小さな隔離空間を空高く放り投げた。

 ボンッ!という音と同時に巨大な空中戦艦【大和】がその姿を現わす。

 ……最後のセリフはいらないんじゃないかって?

 これはあれだよ、住民に向けた演出ってやつだよ。


「で……デケェ……!!」


「あれがダスクの街に展開されていた結界を一撃で葬った巨大物体……!」


「というか、あんなに巨大な鉄の塊がどうやって空を飛ぶんだ?」


 俺が放り投げた小さな隔離空間から【大和】が出てきたことによって住民がざわざわし始めた。

 どうやら俺の演出はうまくいったようだ。


「じゃあ、いくとしようか。レーナ、リーア、ユミ。【大和】の艦内に向かうから俺の方においで」


「「「はーい!」」」


 俺の言葉にレーナとリーア、ユミの3人は俺の両肩と首の後ろに飛び乗ってくる。

 ……俺だったから受け止めることができたが、今の乗り方は非常に危険だ。

 後でよく言い聞かせるとしよう。


「さてと……。準備もできたし乗り込むとしよう。俺達の立っている場所から【大和】に向かう橋を……【クリエイト】!」


 俺の言葉と同時に【大和】から光り輝く階段が現れる。

 こんな演出をしなくても転移すればいいんだけどな。

 どうせなら仰々しく乗り込もうと思ったのだ。

 まぁ、スカートの中は見えないようにしているからこそなのだが。


「ようやく乗り込めた……。このシステムは再検討だな。登りきるまでに時間がかかりすぎる」


[だったら転移で乗り込めばいいでしょうに……]


「ソフィアさん。旭さんは住民達に見せつけるために階段を用意したんだと思いますよ。階段を登るごとに住民が静かになっていきましたから」


 ソフィアのボヤきにルミアが苦笑しながらフォローをしていた。

 ちなみに住民が静かになっていったのは、登るごとに後光が差すようにしたからだ。

 神々しい光が差す中で騒ぎ立てるようなバカはウダルにはいない。(純粋な子供達は除く)


 俺はおもむろに操舵席に着くと、ふと地上の現状をモニターに映し出した。

 どれくらい集まっていたのかの全容を確認しようと思ったからだ。

 しかし、そのモニターを見た瞬間、俺は息が詰まったかのようにその場で硬直した。

 そこに映っていたものは……。


『この街に来てくれてありがとう!!』


『ウダルの平和を守ってくれてありがとう!!』


『王都に行っても頑張って!』


 他にもいろんな言葉が書かれている横断幕が広がっていた。

 横断幕を持っていない人間は力一杯に手を振っている。

 そんな住民達の行動を見た俺は……。


『お前ら……!勝手に俺達がウダルを出ていくと勘違いするな!引っ越さないからな!?その横断幕をあげたやつは覚えておけよ……?王都から帰ったら特定してやる……!』


 拡声器で横断幕を掲げている住民達に怒鳴った。

 ブランダルは住民にどんな説明をしたんだ!?

 あれか!?

 得体の知れない化け物は早く出て行けってか!?


「にぃに、落ち着いて。あの人たち笑ってるから、にぃにに構ってもらいたいだけだと思う」


「……まさかユミになだめられる時が来るとはな……。ありがとうな、ユミ」


「えへへ〜!」


 俺はユミの頭を愛おしそうに撫でる。

 ……たしかに住民達の表情は満面の笑顔で溢れている。

 本気で俺達がウダルからいなくなるとは考えてすらいない……そんな表情だ。


「……思い込みが激しいところは俺の欠点だな。……では、王都に向けて出発する!各員、衝撃に備えろ!」


「「「「[はい!]」」」」


 自分の思い違いを反省しつつ、俺は出発の狼煙をあげる。

【大和】は一瞬ガタン!と動いた後に、王都へ向けて出発した。

 高度が安定するまでは俺の役割だ。

 安全運転第一で動かさないとな。


 ▼


[旭、高度が10000メートルに達しました。ここから先はオートモードでも問題はないかと思われます]


「ふぅ……ようやくか……。手動で動かすのは疲れるものだな」


 ソフィアの言葉に俺はゆっくりと首を回した。

 ウダルを出てからは集中して【大和】を動かしていたからその弊害だろう。

【翡翠の鎧】を用いれば問題はなかったのだろうが、たまにはチート魔法なしでやるのも悪くはないと思ったのだ。

 結果は……かなり疲労が溜まっただけだったから、楽すればよかったというのが正直な感想だが。


「お疲れ様でした、旭さん。よかったらこれをどうぞ」


 俺が椅子に深く座り直していると、ルミアがお菓子と飲み物を持ってこちらにやってきた。

 お菓子はチョコレートだが、この飲み物はなんだろう?

 見た感じジュースではなさそうだが……。


「ルミア、この飲み物は?」


「これですか?【大和】を操作している旭さんが汗をかいてらしたので、スポーツ飲料をお持ちしました。少し薄めに作りましたので塩分等のバランスも丁度いい塩梅になってるはずです」


 なるほど、スポーツ飲料か。

 たしか店とかで売っているものは濃度が高くてあんまりオススメできないと友人から聞いたことがある。

 ルミアはそこに気遣ってくれたようだ。


「ありがとう、ルミア。……ふぅ、疲れた時には甘いものが一番だな」


「ねぇ、パパ!艦橋にでてもいい!?」


「お兄ちゃん、操作お疲れ様ー」


 ルミアとそんな話をしていたら、レーナとリーアがこちらにやってきた。

 レーナは許可を取りに来た……という感じだったが。

 そんなに外の景色が見たいのだろうか。


「手動で操作すべきところは終わったよ。後は着陸付近になるまではオートモードで大丈夫そうだ。それとレーナ。艦橋にでたい気持ちは分かるが、ここは高度10000メートルの空中だ。酸素もかなり薄いからあまりオススメはしないぞ?」


「むぅぅ……。パパの魔法でなんとかならない?」


 俺の言葉にむくれた表情を浮かべるレーナ。

 んー、俺の魔法でなぁ……。

 創造すればなんとかなるだろうか。

 でも、レーナはすぐにでも艦橋に行きたいみたいだし……。


[旭、呼びましたか?]


「相変わらずタイミングがいいなあ。今はありがたいけど」


 どうするか悩んでいたらソフィアが突如現れた。

 ナイスタイミングなのはいいんだが、さっきまでここにいたよな?

 この演出のためだけにわざわざ違う部屋に移動したのか?


「まぁ、今はそんなことはどうでもいいか。ソフィア、俺の魔法で酸素量の少ない空間でも活動できるものってあるか?」


[酸素量の少ない空間での活動……ですか。活動するだけなら【聖断】で問題ないと思いますよ。あの空間はこちらに不利な状況を全て跳ね返しますので]


 ……まじか。

【聖断】の効果強すぎだろう。

 前にも言ったかもしれないが、結界魔法という概念から大きく外れている気がする。


「じゃあ、【聖断】を纏えば宇宙空間でも活動できるってことか……」


[そうなりますね。本来であれば魔力がどんどん失われていきますが、旭の【神格】が付与されたものならそのデメリットすらなくなりますから]


 ソフィアは俺の言葉に頷く。

 そういえば俺に付与される神格は魔法を昇華させるとリーアから聞いたな。

 魔法でないなら魔力が消費されることもないのだろう。


「…………パパ。もしかして艦橋に行くことができるの?」


「みたいだな。今から魔法をかけるから行っておいで。ただ、落ちないようにだけ気をつけろよ?高度10000メートルから落下したら大変なことになるからな」


「「はーい!!」」


「ねぇ、レーナ。ユミも連れて行きましょう?」


「いいね!3人で見たほうが楽しいものね!」


 レーナとリーアは元気に返事をしてユミを迎えに行った。

 まだ魔法はかけていないんだが、それすら忘れてしまうほど楽しみだったようだ。


「……レーナとリーア、ユミを対象に【聖断:神格付与ver】を実行。……若いっていいよなぁ」


「年寄りみたいな発言はやめてくださいよ、旭さん。その発言は私にもダメージが来るんですから」


[正直、このパーティメンバーは寿命が普通の人間よりも長くなってるから問題はないと思いますけどね]


「「そういう問題じゃない(です)!!」」


 ソフィアの言葉に俺とルミアの言葉がシンクロする。

 寿命がいくら伸びたと言っても寄る年波には勝てないものなのだよ!

 いつか落ち着いた時が来たら……若返りの魔法でも創ってみようかなぁ。


 俺はソフィアとルミアの3人でそんな他愛のない話をしながら、王都に向かうのだった。

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