第147話 旭は王都に招待される
「ふむ……。まさかこのような手であの組織を壊滅させるとはな……」
王都冒険者ギルドマスターのアルケミストは興味深そうにそう呟いた。
その横で一緒に見ていたウダルのギルドマスターであるブランダルは、またやらかしてしまったのか……みたいな表情を浮かべていたが。
ちなみに二人が見ていたのは、俺が報告用に提出した【過去投影】が刻印されている水晶から映し出された映像である。
「仕方ないだろう?あいつ……ゴーンは俺の嫁であるレーナとリーアを犯そうとしたんだから。人の女を寝取ろうとする屑は殺さないとだめだろ?」
「旭君の気持ちはわからないでもないがね……。まったく『強羅居組』の奴もばかなことをしたものだの。しっかり情報収集に努めておれば殺されてしまうこともなかっただろうて」
アルケミストは俺の言葉を聞いて複雑そうな表情を浮かべた。
だが、『強羅居組』のゴーン達に情報がいかなかったのは一応理由はある。
俺も知らなかったのだが、【叡智のサポート】であるソフィアが情報統制していたらしい。
それによってゴーンに俺達の情報が集まらなかったようだ。
ちなみにその情報はゴーンを殺した夜の作戦会議後にソフィアから聞いた。
ソフィア本人から『勝手なことをして申し訳ありませんでした』と謝罪を受けたのは記憶に新しい。
「まぁ、ゴーンのやつは色々とやらかしておったからな。王都も奴の組織から寄付金をもらっていたから動けなかったし、それについては問題はない」
案の定、『強羅居組』は王都に寄付金と称した賄賂を贈っていたようだ。
賄賂を贈ることで自分達の組織の後ろ盾としたのだろう。
それで悪どい組織が放置されるのは問題だと思うが。
「……で、だ。旭君……というよりは、[ROY]の諸君にお願いしたいことがあるのだが」
「…………お願いだと?面倒なことじゃないだろうな?」
アルケミストは腕を組んで俺とルミアを見てきた。
レーナとリーアは部屋の隅でお菓子を食べているからスルーすることにしたようだ。
……いつの間にかブランダルが座っていた椅子に座っているのは触れない方がいいのだろう。
「そこまで警戒せんでもよいよ。……実はな、此度の一件の褒賞を取らせよと国からお達しがあった。国も『強羅居組』の対処にはほとほと困っていたからな。そこで王都の王城に招きたいと言われt「めんどくさい」……今なんと?」
俺はアルケミストの言葉を遮って提案を拒否する。
アルケミストのとなりではブランダルが額に手を当てて大きくため息をついていた。
……さてはお前、こうなることを知っていたな?
「ち、ちょっと待ってくれ!王都の王城と言えば、一般人が入る事叶わない場所なのだぞ!?なぜ断る!?」
まさか断られるとは思っていなかったアルケミスト。
目を大きく見開いてこちらに身を乗り出してきた。
いや、そんな強面を目の前に突き出さないでくれない?
普通の人が見たら失神すること間違いなしだぞ?
「なぜってなぁ……」
「……ここは断ったほうがいいかとおもいます」
「だから!その!断る理由を聞いているのだが!?」
アルケミストの言葉に俺とルミアは顔を見合わせて肩をすくめる。
その様子を見たアルケミストは顔を真っ赤にして机をバンバン叩いている。
壊れないかハラハラしながらみているブランダルが哀れだ。
しかし、アルケミストはすぐにピタッと動きを止めた。
なぜなら……。
「…………ねぇ?今パパに向かって唾飛ばさなかった?」
「というか、王都のギルドマスターだかなんだか知らないけどさ……さすがに失礼じゃないの?行きたくないって言っているのにしつこすぎ」
「…………ッ!?」
お菓子を食べていたレーナとリーアがアルケミストの背後に立っていたからだ。
レーナは【終焉の極光】を刀状にしたものを、リーアは【吸生の死剣】をそれぞれアルケミストの首筋に触れるか触れないかの距離に置いている。
少しでも触れたら身体が消し炭になるか、干からびてしまうだろう。
「レーナもリーアも落ち着け。俺は気にしてないから。こんな場所で死体の後始末はしたくない」
「「はぁい……」」
「うんうん、いい子いい子」
俺の言葉を聞いたレーナとリーアは渋々武器を納めて俺の両膝に座ってきた。
まだ納得いかないのか俺に抱きついてくる2人の頭を優しく撫でる。
うん、やっぱりエルフの髪は触り心地が最高だと思うんだよ。
「…………ぷはっ!?い、生きておるのか……?私は……!!」
「アルケミスト様……。軽率な発言と行動は控えてください。旭君を敵に回したいのですか」
レーナとリーアの殺意から逃れたアルケミストは冷や汗を大量にかいてその場に突っ伏した。
そんなアルケミストをブランダルは冷ややかな目で見下ろしていたが。
「……すまぬ。冷静さを欠いていたようだ。旭君を敵に回したいわけではないので、そこは安心して欲しい。……だが、理由を聞いても良いか?」
アルケミストは大きく深呼吸をした。
どうやら本人の言う通り、冷静さを取り戻したようだ。
先ほどまでの狂気に満ちた視線はなくなっている。
「そうだな……。理由としては目立ちたくないっていうのがある。冒険者が王城に招かれるのは光栄なことなのだとは思うが、招かれることによって知名度が上がる。それによって新たな問題が起こらないとは限らない。……それが断った一番の要因だな」
「そうですね。旭さんはダスクや『強羅居組』のようになぜか大きなところから喧嘩を売られます。これに王城に招かれたという事実まで加わるのはあまり芳しくありません」
俺とルミアはそれぞれ断った理由をアルケミストに伝えた。
王城に招かれれば住民とかに褒め称えられるとは思う。
だが、『強羅居組』の甘い汁を啜っていた奴らが復讐にこないとも限らないのが現実だ。
王城に行ったことが広がったらそれを盾にしてこちらに攻めてくる輩も現れるかもしれない。
「ふむ……。そういう心配事があったのか。ただ国王に会うのが面倒だからとかいう理由でなくて安心したぞ」
アルケミストは俺とルミアの言葉に心底ホッとした表情を浮かべる。
……いや、正直国王に会うのも面倒なんだけど、それは言わないでおく。
だってさ……貴族に対する礼儀なんて知らないし。
「では、その事を踏まえて国王に報告しておこう。……ブランダル、このギルドの通信機を借りるぞ。私のギルド職員に早くこの事を伝えねばならぬのでな」
「はい、わかりました」
「旭君、それにルミア君。すまぬが連絡をしてくる故、少し席を外させてもらうわい。すぐ戻ってくるから待っててもらえるかの」
ブランダルからの許可を得たアルケミストは足早に通信機のある場所に向かって部屋を出て行ってしまった。
……あ、これ連絡が来るまで帰れないパターンだな。
「……すまない、旭君。まさかアルケミスト様が来るとは思ってなくてな」
「まぁ、それについては俺からは何も言えないさ。俺の報告が遅れたのも原因だろうしな」
アルケミストはウダルからの報告が一向に来ないからその催促に来たのだろう。
国王からの頼み事はそのついでだと思いたい。
まさか冒険者ギルドをまとめるほどの人間が来るなんて思ってもなかったが。
「ところでパパ。さっきの話どうするの?」
そんなことをブランダルと話していたら、右膝に乗ったレーナがこちらを見上げて尋ねてきた。
リーアも同じ気持ちなのかうんうんと頷いている。
「正直にいうと行きたくないんだよなぁ。あの様子だと馬車か何かに乗っていくんだろ?絶対に着くまでに時間かかるパターンじゃんか」
「そうですね……。ウダルから王都までは普通の馬車で10日はかかります。その間の食料は問題ないですが、10日も旭さんに愛してもらえないのは問題ですね」
「ルミア君の心配事はそこなのかい!?」
ルミアの言葉にその通りだと頷くレーナとリーア、そしてそこが問題なのかと驚愕しているブランダル。
ブランダルは俺が【無限収納】を使えることを知っているから、食料問題はとくに気にならなかったらしい。
「……なぁ、ブランダル」
「……なにかな、旭君。とてつもなく嫌な予感がするんだが……」
俺の問いかけにブランダルは引き攣った表情を浮かべる。
そんなブランダルを無視して話を続ける。
「俺達だけ『大和』で行ってもいいか?」
「やっぱりか!『大和』で行ったらたしかに速いかもしれないが、あんな大きな物体が空を飛んでいる方が問題だろう!?」
「だよなぁ。と言っても対策はどうにでもなりそうだけど」
目立つのは最初からわかっている。
飛ばす時は【透明化】をかける、宇宙まで高度を上げてから運航するといった方法がある。
まぁ、宇宙まで行くと目的地に着いた時に成層圏突入がネックになるんだけどな。
「戻ったぞー……とどうしたのかね?ブランダルがものすごい青い顔をしているが」
そんなことを話しているとアルケミストが戻ってきた。
話の内容がわかっていないみたいで首を傾げている。
「あぁ、戻ったのか。それで、王国との連絡はついたのか?」
俺はそんなアルケミストをスルーして、連絡がどうだったのかを尋ねる。
アルケミストは首を傾げつつも、先程まで連絡していたことの報告を始めた。
「それだがな。王国からは何としても来て欲しいとのことだった。旭君ほどの存在を軽く扱うことはできん!というのが向こうの言い分だ。申し訳ないんだが、一緒に来てはもらえんかの」
「……そのことについて1つだけ条件がある」
「……条件?」
アルケミストがおうむ返ししたのを確認した俺は大きく息を吸った。
そして……。
「王都へ向かう時に俺達は『大和』を使用させてもらいたい。それが認可できないならこの話はなかったことに」
「………………」
俺の言葉を聞いたアルケミストは何かを考え始めた。
……これでダメなら王都に向かう話を断れる。
『大和』が巨大な飛行物体であることは報告で聞いているはずだ。
住民のことも考えれば断るしかないはず。
……さぁ!早くその首を横に振るんだ!
「……ふむ。あい、わかった。旭君の条件を飲もうじゃないか。ブランダル、そうと決まればウダルの住民にこのことを通告してこい。私も王都のギルドを通じて住民に通告を出す。早急に取り掛かるぞ」
「は、はい!わかりました!」
アルケミストとブランダルはそう言うと、俺達を部屋に残したままどこかに行ってしまった。
……いや、ちょっと待て?
「……普通は断るところじゃないの?」
俺は思わずフリーズしてしまう。
未知なる巨大物体が空を飛んでいるんだぞ?
どうしてすんなりとあんな条件を飲み込めるんだ……?
「パパ……。あのおじさん、何を言っても許可を出したと思うよ?何としても王城に招きたいみたいだったし」
「そうだよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんが王城に行くと言ったらどんな手でも使うと思う」
レーナとリーアが膝の上から俺の頭を撫でてくる。
2人の身体が密着するから柔らかい部分が胸板にあたるが、その感触すら楽しむ余裕が今の俺にはない。
あまりの事態に呆然としているからだ。
「旭さん。多分絶対に行かないという意思を示さなければ結果は同じだったかと思います。……覚悟を決めて国王に会いに行きましょう……」
「どうしてこうなった……!」
ルミアの慰めにたまらず慟哭する俺なのであった。
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