第145話 レーナは生まれ故郷に手紙を出す
ーーーー(レーナ視点)ーーーー
「じゃあ、行ってくるね」
「うん。レーナ、何が起こるかわからないから気をつけてね」
「リーアもね〜」
わたしは買い物の準備をしているリーアにそう声をかけて家の扉を開けた。
本当なら今日はパパとのんびり過ごす予定だったんだけど……。
「まさかあんな状態になるまでお酒を飲むなんて……。大きな戦いが続いたし、よほど疲れていたのかなぁ」
朝起きた時に見たのはパパとルミアさんが抱き合って寝ているところだった。
ソフィアさんは近くにいなくて、ルミアさんとパパはかなりお酒臭かったのが印象的だった。
それを見た瞬間、昨夜かなりの量のお酒を飲んだのかと思ったの。
ぐっすり眠っているパパを起こすのも悪いと思ったわたしとリーア、ユミちゃんの3人はそれぞれの用事をこなすことにした。
リーアは買い出し、ユミちゃんはお出かけ、わたしはエルフの里に手紙を出しに……といった感じかな。
「あー……。やっぱりというか人が多いねぇ。それなら……きて、【ユニコーン】!」
『どうかされましたか、レーナ嬢』
外に出たわたしはユニコーンを召喚した。
だって、家の門の前には沢山の男の人達がこっちをみているんだもの。
馬鹿正直に門を開けたら質問攻めされるに決まってる。
「今から郵政局に行くんだけど……あの人混みを避けたいから乗せてくれないかな?」
『ふむ……。門に張り紙をしてあるのにそれを無視して集っているのですか……。レーナ嬢。あそこにいる輩はマスターに害なす存在です。消し炭にした方が早いのでは?』
わたしの言葉にユニコーンが門に集まっている男の人達を睨みつけた。
……やっぱりマスターはパパなのね。
そんなことを思いながらも、わたしはユニコーンのたてがみを撫でる。
「わたしもそうした方が手っ取り早いとは思うんだけどね?そんなことをしてパパが喜ぶと思う?」
『……マスターはむやみな殺生を行わない方。敵対してきたらその限りではないですが……。あの者達は敵対しているわけではなく、ただの興味本位……。私達の独断で動くわけにはいきませんね』
「そういうこと。だから、わたしを乗せて空から郵政局に行ってもらおうと思って」
『わかりました。では、レーナ嬢。私の背中に乗ってください」
わたしの言葉にユニコーンはぶるると
どうやらわたしが言いたいことを理解してくれたみたい。
ユニコーンは背中に私が乗ったのを確認すると、静かに上昇し始めた。
「あぁ!レーナさん!お話を!私達のお話を聞いてください!!」
「昨日の出来事を話してくれるだけでもいいですから!!」
「あなた方がしたことはこの世界で生きている人達に正確に報道する権利があるのです!」
「冒険者ギルドにて高級なお菓子も用意してます!だから私達と一緒に冒険者ギルドにきてくれませんか!?」
ユニコーンに乗ったわたしをみて、男の人達が叫び始める。
やっぱり冒険者ギルドの職員の人が来ていたみたい。
でも、お菓子で女の子を釣ろうとするのはダメだと思うよ?
ただの不審者にしか見えないから。
「じゃあ、ユニコーン。のんびり空中散歩でも楽しもう?あまり早く帰ってもパパ達起きていないだろうし」
『えぇ、わかりました。久しぶりに戦闘以外での召喚ですし、レーナ嬢もゆっくり空の散歩を楽しんでください』
わたしとユニコーンはそう言って頷くと、透き通るような色をしている空を眺めながら郵政局に向かい始めた。
▼
ユニコーンと空の散歩を楽しんだ2時間後。
わたしは郵政局に辿り着いた。
どうやらここには冒険者ギルドの職員やパパラッチはいないらしい。
「じゃあ、ユニコーン。帰り際になったらまた召喚するね」
『恐れながら申し上げます。先程の男達のように、いつ囲まれるかわかりません。どうか私を護衛として連れて行ってください」
ユニコーンを送還しようとしたら、ユニコーンは周りを見渡しながらそう言った。
郵政局は冒険者ギルドとは別の管轄の場所だから、さっきみたいに囲まれることはないんじゃないかなぁ。
でも、それよりも重要なことがあるの。
「ユニコーンが護衛につくのはいいんだけどね?その大きな体格じゃ、入り口には入れないと思うんだ」
わたしはそう言ってユニコーンを見上げた。
ユニコーンは人を乗せることもあって身長が高い。
パパよりも高いから2mはゆうにあるんじゃないかな?
そんなわたしを見たユニコーンは優しい眼差しを向けている。
『それに関しては大丈夫ですよ』
ユニコーンがそう言うと同時にその身体が光に包まれた。
光が眩しくて中の様子はわからないけど……。
『以前の戦いでモノケロースに進化した際、私は新たな能力を得ました。これがその能力です』
光が消えた後、その場には綺麗な女の人が立っていた。
身長は……170cmほどかな?
透明感あふれる白髪が太陽を反射して輝いている。
「ユニコーン……。人に変身できるようになったんだね。……でも、この胸はダメだよ!パパは巨乳も好きなんだから!」
ーーーーグニグニ。
私はユニコーンの豊満な胸を揉みしだく。
なんで、ソフィアさんもユニコーンもこんなに大きな胸を持っているの!?
わたしなんてまだぺったんこなのに!
『レーナ嬢、そんなに強く揉まれたら痛いです。それよりも手紙を出しに行くのでは?』
ユニコーンは表情を変えることなくわたしを宥める。
くっ!これが大人の余裕ってやつなの!?
……でも、ユニコーンの言うことももっともだ。
わたしは郵政局に手紙を出しに来たんだから。
「……それもそうだね。じゃあ、ユニコーン。郵政局の中に入ろう」
『御意』
わたしは大きく深呼吸をしてから、郵政局の中に入っていく。
ユニコーンの胸について言及するのは後にするとしよう。
▼
「こんにちは。本日はどのような要件でしょうか?」
「えっと、エルフの里に手紙を出したいんですけど……。ここで手紙を出すことはできますか?」
順番が来たわたしは受付のお姉さんに尋ねる。
今回の要件は実家であるエルフの里に手紙を出すこと。
もしかしたら断られるかもしれないけど……。
「エルフの里……でございますか?失礼ですが、里の名前を教えてもらってもよろしいですか?」
「トワイライトです」
「……うん、大丈夫ですね。そちらの里であれば手紙を届けられますよ」
断られるかもと思っていたけど、どうやら郵送してくれるみたい。
わたしの里が人との交流を持っていたからなのかな?
手紙を届けられることに少し安心する。
「郵送する手紙は今ありますか?」
「……ごめんなさい。これから書くんだけど、お手紙セットをもらってもいいですか?」
お姉さんの言葉に思わず俯いてしまった。
家には手紙セットがなかったし、郵政局で書けばいいかなって思ってたんだもの。
そんなわたしを見たお姉さんは優しい表情を浮かべた。
「大丈夫ですよ。当局ではそういう商品も取り扱っておりますので。だから、そんな泣きそうな顔しないで。これをあげるから、ゆっくり書いてきてくださいな」
お姉さんはそう言うと1つの手紙セットをわたしにくれた。
泣きそうな表情なんてしていたかな?
それよりも、タダでもらうわけにはいかないよね。
「お姉さん。このお手紙セットはいくらなの?」
「お金に関しては気にしなくていいですよ。遠い家族に手紙を送るあなたに感動したお姉さんからのプレゼントです」
お姉さんは悪戯っぽく笑うと、わたしの頭を優しく撫でた。
見た目が幼いエルフだから気を使ってくれたのかもしれない。
「ありがとう、お姉さん!じゃあ、手紙書いてくるね!」
わたしはお姉さんに心からの感謝の言葉を告げて、手紙を書きに机に向かった。
ーーーーそれから1時間後ーーーー
「か……書けた……!」
『お疲れ様です。伝えたい内容は書けましたか?』
「うん!ママに伝えたい内容は全て書けたよ!量が多くなっちゃったけどね」
わたしは20枚ほどの束になった手紙を整えて、おかしいところがないか確認をする。
ユニコーンが少し呆れた表情でわたしを見ているのが気になるけど……。
元お父さんのこととかしっかり伝えないといけないし、量が多くなってしまうのは仕方ないと思うの。
「お姉さん、手紙書けたよ〜」
「いっぱい書きましたねぇ。じゃあ、郵送手続きを始めましょうか」
わたしはお姉さんのところにかけた手紙を持っていく。
お姉さんはわたしが書いた手紙の量を見て優しい表情を浮かべていた。
そして、お姉さんが1つの封筒を取り出した。
「じゃあ、この封筒に冒険者証か身分証明になるものを提示してください。送る際には必要なものですから」
「はーい。これがわたしの冒険者証です」
わたしはお姉さんに冒険者症を手渡した。
パパのスキルのおかげで今のわたしはSSランクの冒険者。
プラチナ色に輝く冒険者証を見せるだけで、いろんなサービスを受けられるのはすごいと思う。
「……噂には聞いていましたが、本当にSSランクなんですねぇ……。はい、これで登録が完了しました。通常郵送と速達がありますが、どちらにしますか?速達だと少しお金がかかりますけど……」
「うーん、今回は通常郵送でいいや。そんなに急いで伝えたいわけでもないし」
「わかりました。では、通常郵送料は銀貨6枚となります。エルフの里は場所が場所ですので高額となるのはご了承ください」
お姉さんの言葉を聞いたわたしはすぐに銀貨6枚をカウンターに置く。
エルフの里に届けてくれるだけでもありがたいから、お金に糸目はつけない。
まぁ、パパと一緒に大きな依頼をこなしているからお金に苦労はしていないんだけどね。
「はい、では確かに受け取りました。明日発送しますね」
「うん、よろしくお願いします!」
お姉さんに手紙を託したわたしは、ぴょんと椅子から飛び降りる。
手続きは終わったし、これでママも私の近況についてわかってくれると思う。
手紙の半分がパパのことなのは……まぁ、問題はないよね?
ぶっちゃけわたしを売った元お父さんよりもパパのほうがカッコいいし。
「ママから返事が来たらエルフの里に行かなきゃダメかな?あの元お父さんが未だにママと付き合っているなら現実を教えてあげないと。……あぁ、わたしをダマスクに売り払った罰も受けてもらわないとダメだよね?蘇生はソフィアお姉ちゃんに頼むとして……【終焉の極光】で浄化してあげようかな。それとも【神々の黄昏】で身体の隅々まで焼いたほうがいいかな?……でも、隅々まで焼いたら蘇生も厳しくなるよね……。なんとかして意識を保ったまま苦痛を与えられるようにしないと……。家に帰ったらソフィアさん交えて相談しないとダメかな。そうなるとパパも説得しなくちゃいけないか……」
『レーナ嬢、殺意がダダ漏れですよ。まだ街中ですからそういうことは帰ってからマスターとご検討されたらいかがでしょうか?』
わたしが元お父さんに対する仕打ちを考えていると、ユニコーンが頭を撫でてきた。
個人的には心の中で呟いていたつもりだったんだけど、声に出てしまったみたい。
「声に出ちゃってたんだね。ありがとう、ユニコーン。今日の夜にでもパパに相談してみるよ」
『是非ともそうしてください。では、マスターの待つ家に帰りましょう。流石にソフィア殿は起きていると思いますので』
「そうだね。帰りが遅くなってもいけないし」
ユニコーンはそう言うと元の姿に戻った。
いきなりユニコーンが現れたことで周りが一瞬ざわついたけど、わたしを見て納得したのかすぐにいつもの風景を取り戻す。
これも模擬戦をやった影響なのかな?
「じゃあ、家に向けて出発!」
わたしはユニコーンの背中に乗ってそう宣言する。
ユニコーンもゆっくりと上昇し、家に向かって駆け始めた。
……この時に出した手紙が後に大変なことになることを当時のわたしは知る由もなかった。
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