第127話 旭は『強羅居組』の襲撃を分析する
「来たか……」
俺はモニターに映し出されたモンスターの大軍を眺めてそう呟いた。
『強羅居組』がどうやって俺たちの家を調べ上げたのか疑問に思ったが、恐らくは非人道的な方法を使ったのだろう。
街中を歩いているときに、住民から『チンピラに金を渡すから旭の家を教えろと言われたが断ってやったぜ!』とドヤ顔で言われたし。
俺は賄賂で情報を売られたところで怒りはしないんだが……。
ヤクザよりも俺を敵に回したくないというのがウダルの住民の総意らしい。
「情報を暴露してもいい」と伝えたら逆に住民達に怒られたのはここだけの話である。
ちなみに俺の予想としては、【キマイラ】を先頭として人海戦術で攻めてくるんじゃないかと考えていた。
しかし、『強羅居組』の連中はダスクからユミが贈呈した神器を買い取ったようだ。
モニターに映し出されているのは、普段の生活では見ることがないようなおびただしい数の魔物?だった。
次々と出てくるモンスターは小柄なものが多かったが、中には巨大なものも混じっており、それら全てが尋常ではない殺気を放っていた。
「……ユミ、あの巨大なモンスターの詳細はわかるか?」
「えぇ、昔の私がダスクに贈呈した神器ですから」
俺の言葉に【神威覚醒】したユミがモニターを見つめながら淡々と答えた。
どうやら【時間遡行】前の女神である自分が贈った神器を使ってくるとは思ってもなかったのだろう。
当時の女神の記憶が流れてくるユミは、微妙に悲しげな表情を浮かべていた。
「まず、お兄様が気になっている岩の塊が世に有名なゴーレムですね。動きは遅いですが、物理防御が高いのが特徴です。あの巻物で呼び出せるのは低階級のはずですが。……あちらの陣営には魔力の高い人物がいるのでしょう。あれは普通のゴーレムよりも敏捷値が高い、上級の【ロッカ・ゴーレム】ですから」
ユミが言った通り、ゴーレムは思った以上に早い速度でこちらに向かってきている。
正直キマイラよりも早いんじゃないかと思うんだが、先行するのはあくまでキマイラの役割らしく、キマイラの後ろにぴったりとくっついている。
キマイラが攻撃を受けそうになった時、肉盾ならぬ岩楯になるのが役割なのかもしれない。
「続いて、隊列を組んで空中を飛んでいるのが【
「それほどまでの強さなのか……。【眷属強化】を一回施したハイエンジェルでも負ける可能性があるとは思えないが……。わかった、今から再度強化してみよう。ユニコーンの強化はソフィアが担当しているが、思考の共有をしているから伝わっているだろう」
俺はユミの頭を撫でてそう言うと、宇宙空間で『大和』に待機しているソフィアに念話を飛ばす。
少しでも不安要素は払拭しておかなければならない。
これ以上強化してどうするのかって?
俺は不安要素なく無双したいからそんなことは気にしない。
(ソフィア、今のユミの言葉は聞こえていたよな?何かいい方法はあるか?)
(もちろん……というか思考共有していますでしょう……。【眷属強化】でも足りない可能性があるのは想定外でしたね……。1つの手としてはハイエンジェルとユニコーンを一時的に進化させることでしょうか。【神威解放】状態の旭と私が行えば、最上級の天使である【熾天使セラフィム】に進化させることができます。その場合、ハイエンジェル達の長であるゼウスも進化することになりますが……大丈夫ですか?)
え……なにそれ。
ハイエンジェルを進化させたら一緒にゼウスも進化するの?
全知全能の神であるゼウスが進化するなんて聞いたことがないんだけど。
俺はそんなことを考えながら、ハイエンジェルを進化させるかどうかを考える。
進化させないと主天使に負ける可能性が出てくる。
だが、それをすることによってただでさえ強力なゼウスも一緒に進化する。
(……人間に対してのみ手加減するようにきつく言っておけば問題ないか。ちなみにユニコーンは何に進化するんだ?)
俺は考えることを放棄してソフィアに尋ねる。
言うことを聞かないようなら実力で捩じ伏せればいいだけだしな。
そんな俺の思考を呆れたような口調のソフィアが質問に答えた。
(相変わらず大事な時には大雑把な判断をするのですね。えっと、ユニコーンは進化すると【モノケロース】になります。ユニコーンよりも角が長く、体格も大きくなります。モノケロースは獰猛なのでしっかり手綱を握る必要がありますが……まぁ、問題はないでしょう。ちなみに進化を促す魔法は【眷属躍進化】です。旭の判断ですぐに使用できますよ。【神威解放】はお互いに発動済みですからね)
ソフィアはそう言うと俺に決断を迫ってきた。
モニターにはデススネーク達が設置した神経毒の罠を駆けるモンスター達の姿が見える。
まだハイエンジェル達のエリアには辿り着いていないが、それも時間の問題だろう。
早めに決断しなければ、制空権を奪われてしまうかもしれない。
(…………よし、その魔法を使おう。もしもユニコーンやハイエンジェルが暴走するようであれば……俺が戦線に出る。ソフィア、準備はいいか?)
俺の念話が届いたソフィアはふふっと笑った。
決断を迫ってきたソフィアだったが、俺がどう言う決断を下すのかすでにわかっていたのだろう。
……【叡智のサポート】にはすべてお見通しってわけか。
(えぇ、やりましょう!旭が戦線に出るときは、分身をこちらに残して私も向かいますから)
(そのときは頼んだ。……じゃあ、行くとしようか)
(Yes,My Master)
((対象を指定……一時的な進化先を確認……【眷属躍進化】!!!))
俺とソフィアの意識がシンクロし、ハイエンジェルとユニコーン(ついでにゼウス)を進化させる魔法が発動する。
魔法が発動すると同時に、空中に展開されているハイエンジェルとユニコーンが光に包まれた。
それはとあるアニメの進化シーンに類似していた。
「お兄様……!?あれはなんですか!?【眷属強化】をかけた時よりも能力の上昇値が高いのですけど!!」
モニター越しに見ていたユミが驚愕の声をあげる。
どうやら俺とソフィアが【眷属強化】以外の魔法を使ったことに驚いているようだ。
「ソフィア曰く、眷属を一時的に進化させるらしいぞ。さて……何に進化することやら」
「眷属を進化させるなんて聞いたことがありませんよ……!?」
俺は『ありえない……こんなことが可能なんて……!』と驚いているユミを落ち着かせるように抱き上げ、光が収まるのを見守る。
その光が収まり……姿を現したのは……。
「あれは……【モノケロース】と【熾天使】……!?すごい……あれなら主天使を圧倒できます……!」
ユミは目を見開いてモニターを見ていた。
興奮しすぎて俺の腕に爪を立てていることに気がついていないみたいだ。
まぁ、俺もユミの柔らかい身体の感触を堪能しているから人のことは言えないが。
『主……これは一体?』
俺が興奮しているユミを抱っこしていると、ハイエンジェル改め熾天使から通信が入った。
どうやら熾天使は進化しても俺をマスターとして認めているらしい。
俺は心の中で少し安心しつつ、熾天使の質問に答える。
「『強羅居組』の陣営に【高位主天使】を確認した。【眷属強化】だけでは押し負ける可能性があるとユミが言っていたし、一時的に進化させたんだよ。あれだ、メガ進化みたいなものだよ」
『めが進化……?主のいた日本の言葉でしょうか?ですが、ご配慮ありがとうございます。身体の内側から力が湧いてくるかのようです……!今であればどんな魔物であっても勝てる気がします!』
熾天使はメガ進化という言葉にピンとこなかったみたいだが、今までよりも力が増していることに気がついたみたいだ。
流石に【銀翼の聖弾】の試し打ちはしていないが、強い力を持ったことで無茶な突撃をしないか心配になってくる。
「どんな魔物であっても油断は大敵だからな?それと、人間は殺さないこと。暴走したら……俺が直々に送還させに行くから」
『さ、Sir Yes Sir!!』
俺は最悪の場合を想定し、若干の殺意を込めて熾天使に注意する。
熾天使達は俺の言葉を聞いて、ドヤ顔を引っ込めて真剣な表情を浮かべた。
モノケロースも俺の殺気に当てられたのか、ガクガクとその巨体を震わしている。
どうやら手綱は握らなくても問題ないようだ。
『旭さん!まもなく【キマイラ】を含む第一陣が【百鬼夜行】と【熾天使】、【モノケロース】の軍勢と交戦を開始します!!』
そんなことを考えていると、偵察に出ていたルミアから通信が入った。
モニターに視線を移すと、妖怪達がキマイラ達に向かって駆け出している。
どうやら敵が視認できる距離まで近づいてきたようだ。
……ルミアは熾天使とモノケロースに進化していることに驚いていないが、俺とソフィアがこうすることを予想していたのだろうか?
まぁ、俺の嫁達は色々と察する能力が高いのは今更か。
「熾天使とモノケロースに告ぐ!まもなく交戦開始だ!一時的とはいえ神霊級の力を手に入れたんだ。力の違いを……あいつらに見せつけてやれ!!」
『主のご命令の通りに!この力……全て主に捧げます!!』
『我々も熾天使と同じです。マスターの役に立つべく、全力で迎え撃ちます!』
ーーーードンッ!
熾天使とモノケロースから通信が入ると同時に、空気の振動が発生した。
全力で敵部隊に突撃を開始したようだ。
これで準備は整った。
【キマイラ】達の後ろにも沢山の魔物がいるが……それについては大丈夫だろう。
なぜなら……。
『レーナ、私達も行くよ。準備は大丈夫?』
『勿論だよ、リーア!まさかハイエンジェルとユニコーンが進化するとは思わなかったけど、それでもわたし達の方が実力は上なんだから!ゼウス(?)さん、相手の攻撃から守ってね?』
『お任せくだされ、レーナ嬢。我も主から強化を施してもらいました故。……レーナ嬢には何人たりとも触れさせませんぞ!!』
100人に分身したリーアとゼウスの肩に乗ったレーナが待機しているからだ。
ちなみに【眷属躍進化】の効果を受けたゼウスは全身に光の鎧を纏い、その手には鎌が握られていた。
進化……というよりはフルアーマーになったゼウスと言ったところだろうか。
『ホホホ……。まさか【光輝】と【アダマンティスの鎌】を主から賜るとは……!これがあれば我は無敵でありますぞ!万物を切り刻む魔法の刃を……とくとご覧あれ!』
ゼウスはそう言うと、空中に飛び上がって後方にいるモンスターに向けて鎌を振るった。
どうやらゼウスが装備した鎌は魔道具みたいなものらしい。
光り輝く鎧はその名の通りの名前だが……神話大戦で使用していたのだろうか?
ゼウスが振るった魔法の刃が後方のモンスターに当たると同時に、モンスターは光の粒子になって鎌に吸収されていった。
……なにあれ、存在そのものを吸収する鎌とか死神の鎌よりも怖いんですけど。
「お兄様……。ゼウスの攻撃……あれは大丈夫なのですか?モンスターはすぐに補充されてしまいましたが、あの鎌を振るってるだけで全部一掃できてしまうのでは……?」
「言うなユミ……。それにゼウスが1人で全部片付けたらレーナとリーアが納得すると思うか……?」
「……絶対に納得しませんね。そう考えると敵が可哀想になってきます」
俺とユミはモニターを眺めて、強羅居組に同情の視線を送る。
そんな俺とユミの姿を、戻ってきたルミアが苦笑して見ていた。
敵が近づいてきたことで俺達が待機している寝室に戻ってきたらしい。
「旭さんもユミもそんなことを言ってはダメですよ。『強羅居組』はダスクの人間と違って暴力的です。今は自分たちが優勢だと考えているでしょうし、その考えを改めさせなければいけません。圧倒的な戦力差を実際に感じて下手に出てくれればいいんですけどね」
「まぁ、その通りなんだけどな。もしかしたらルミアにも前線に出てもらうかもしれないから準備だけはしておいてくれよ?」
「任せてください……と言いたいところですが、すでに準備は終えているんですよ。なので……お茶にしましょう」
俺の言葉にルミアはのんびりとお茶の準備を始めた。
モニターでは激しい戦闘が繰り広げられている。
呑気にお茶なんか飲んでいてもいいのだろうか……と考えつつも、寝室に置いてあるテーブルに向かう俺とユミなのであった。
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