第120話 幕間の物語−ダスク侵攻の報告 ケース2−
「……すみませんでした」
ルミアは映像投射機の前で土下座をしている。
俺が使った【穏静空間】の効果でふにゃふにゃになってしまい、魔法の効果が安定するまでの間、俺にしなだれかかっていた。
魔法の効果が切れた今、尻尾をピンと伸ばして真っ赤になっている。
ギルドマスターのいる前で甘えてしまったことがよほど恥ずかしかったらしい。
俺としては子猫のように甘えてくるルミアはレアだし、特に気にしていないんだが……。
「俺は気にしていないって。今回の件はそれほど精神的にストレスを感じてしまったということなんじゃないの?それが癒されたのなら【穏静空間】を使った甲斐があったというものさ」
「……旭さん。そう言っていただけると、気持ちが少し軽くなります……」
そう言ったルミアは俺の方に抱きついてきた。
暴力的な柔らかさをもつ双丘に俺の頭が吸い込まれる。
ふむ……大きいのもいいものだな。
「……ゴホン。いい雰囲気のところ悪いが、報告の続きをしてもらってもいいかな」
「おっと、すまなかった。ルミア、続きは家でゆっくりしようか。【過去投影】の操作を頼む」
「仕方ないですね……。その分いっぱい愛してくださいよ……?えっと、次の場面は……ここからですね」
気まずそうにギルドマスターが報告の続きを促してきたので、惜しむようにルミアを離した。
今夜はルミアをたくさん愛することになりそうだが……【遅延空間】を使えば問題はないだろう。
レーナ達も混ざってくるはずだから、久しぶりに【色欲魔人】の出番かもしれない。
俺から指示を受けたルミアは若干不満げな表情を浮かべつつも、【過去投影】の操作を再開した。
ーーーーーーーー
『なんダ!?身体が……動かなイ!?……まさカ!おい、やめロ!俺はしっかり命令を果たしただロッ!?』
「……旭君。なんでダマスクは『大和』の砲台に固定されているんだい?」
「ルミアを呼び捨てにしたからだよ。あんな奴にルミアを呼び捨てにされるのは許せなくてな」
「そ、そうか……。まぁ、仕方のないことなのかもしれないな……」
ギルドマスターはなんとも言えない表情を浮かべて、砲塔に固定されるダマスクを眺めている。
そんなギルドマスターを横目に、ソフィアに発射シーケンスを命令した場面に移行した。
『【魔道砲】の発射シーケンスに入る!各員、対ショックに備えよ!!……ソフィア!!』
『マスターの命令を確認。発射シーケンスに移行します。魔力装填……200%、本来よりも多く充填されている為、これ以上の充填は危険と判断。続けて艦体に【聖断】による防御壁の展開を開始……All clear。マスターの【神威解放】の発動を確認……問題はないと判断。マスター、魔道砲の発射準備が整いました』
ーーーーゴクリ。
ギルドマスターから唾を飲み込む音が聞こえてきた。
『大和』の砲撃は見せていないので、どれだけの威力があるのか気になるのだろう。
だが、その前にダスク側の攻撃が発動される。
『旭からの攻撃が来るぞ!砲塔は上を向いているが……こっちに来る可能性も考えられる!!照準をダマスクに向けろ!!威嚇射撃だろうが攻撃してくることには変わりない!!……準備は整っているな!?先手必勝だ!!……大型儀式魔法【終滅ノ煉獄】……撃てぇーーー!!』
「待て待て待て!!威嚇射撃と言っているのになんで攻撃してるんだ!?頭のネジが外れているんじゃないのか!?」
ダスク側の行動を見たギルドマスターは、またもや大きな声で叫んだ。
ギルドマスターから見ても、ダスクギルドマスターの行動はおかしいと判断したようだ。
だが、少し考えた後に大きく深呼吸をしていた。
俺が再び【穏静空間】を使用すると、その分報告が遅くなると考えたらしい。
『この砲撃をそんな魔法で止められると思ったら大間違いだぞ、ギルドマスターぁ!!【魔道砲】……発射ッ!!』
ギルドマスターが落ち着くために深呼吸をしていると、『大和』が放った【魔道砲】に【終滅ノ煉獄】が迫っていた。
こうやって改めて映像で観ると……ダスク側が放った魔法も結構な熱量を持っていたんだな。
まぁ、俺が放つ魔法に比べたら威力は低いのかもしれないが。
ーーーーボヒュン。
『…………は?……ここにいる全員の魔力を込めた【終滅ノ煉獄】が一瞬で掻き消された……!?』
「…………予想していたこととはいえども、全然影響がないのか……」
少しは軌道が逸れるかと思われた【魔道砲】は、【終滅ノ煉獄】をものともせず結界に向かっていく。
『そんなところだろうな』とギルドマスターは考えたらしく、呆れたような口調で呟いた。
しかし、その表情には軽い恐怖の色が浮かんでいる。
「当たり前でしょう?私達全員分の魔力を注ぎ込んだ一撃なのですよ?それがあの程度の魔法で軌道を逸らすことができるわけがないのです!」
「それについては同意だが……。って、ちょっと待ってくれ。旭君達全員の魔力を装填して200%……?それじゃあ並みの人間では作動すらできないということか……?」
なぜかルミアがドヤ顔でギルドマスターに熱弁している。
ドヤ顔するルミアもかわいらしいが、話が進まないので俺はギルドマスターに補足の説明をすることにした。
「そうなるかな?【魔道砲】は本来、俺1人の魔力を込めてから撃つ武装だ。今回は初めてということもあって全員分の魔力を込めたが……それだと多すぎたみたいだな。レーナ達が【狂愛】を発動して魔力が切れないようにしたのも原因かもしれないが」
「……それであの威力か。ソフィア君との模擬戦で使用した魔法もありえない威力だったが、また恐ろしい威力の武装を生み出したものだ。……本当に旭君は敵に回したくはないな」
俺の補足を聞いたギルドマスターは達観したような表情を浮かべた。
正直敵対しないで欲しいので、ウダルと王都の冒険者ギルドには感謝しているんだが。
『お兄ちゃん、砲撃が衝突した後はどうするの!?』
諦めたような表情を浮かべているギルドマスターを見ていると、画面からリーアの声が聞こえてきた。
どうやら一時停止をしないまま話し続けていたようだ。
「お、ギルドマスター。そろそろ【魔道砲】が結界に衝突するぞ」
「もはやどうなるか予想できてしまう私は手遅れなのだろうか……」
「まぁ、これも報告の一部ですから。しっかりどうなるか確認して王都に報告してくださいね」
「……これを報告するのか……。言葉で説明するのは大変そうだ……」
ルミアの言葉にギルドマスターは嫌そうな表情を浮かべた。
……というか、百面相しすぎじゃないか?
魔法の効果範囲をギルドマスターに限定して【穏静空間】を展開することも視野に入れたほうがいいのかもしれない。
ーーーードォォォォォォン!!
ーーーーパリィィィン!!
『……嘘だろ……!?即死級の攻撃を1度は完全に防ぐ結界が……1回の攻撃で完全に破壊されるなんて……!!』
結界を跡形もなく消滅させて空中に消えていく【魔道砲】。
その勢いは結界を壊しただけでは衰えることなく、雲を切り裂いて空中に伸びている。
……改めて見るとやばい威力だな。
「ルミア、一度この場面で再生を停止してくれ」
「はい、わかりました」
俺はルミアに指示を出して【過去投影】の再生を一時停止させた。
ギルドマスターは額に手を当てて、ため息をついている。
……まだ一部分だけなのだが、情報量が多すぎたようだ。
「……旭君がダスクの冒険者ギルド側に対しての牽制を行なったのは理解した。だが、なんでこのシーンで再生を止めたんだい?報告はまだあるんだろう?」
「この後にギルドマスターを庇おうとする騎士達とのやりとりとかあるんだけどさ……」
「正直オススメはしません。この後に流れるのはゴミギルドマスターの無駄な足掻きと、それを聞いて勢いづく無謀な人間しか映りませんから」
ギルドマスターの質問に対して俺は答えをぼかした。
だがそのぼかしも虚しく、ルミアが真実を告げてしまう。
敢えて伏せていたのに……と思ったが、ルミア自身が告げたのなら問題はないのかもしれないと思うことにした。
「そういうことだったのか。まぁ、無理に見たいとは言わないさ。結果を知ることができれば十分だからな。……で、最後はどうやってダスク側に降伏させたんだい?」
「簡潔にいえば……リーアに手加減込みで攻撃してもらって戦意を完全に喪失させた後、俺が【魔道砲】を吸収したら向こうが降伏した」
「……すまない。言っている意味がよくわからん」
ギルドマスターは片手を俺の前に出してそう呟いた。
失敬な。
長く説明するのが大変だから、簡潔にまとめたというのに。
そんな俺の心情を察したのか、ルミアがギルドマスターに補足の説明を開始しようとホワイトボードの前に立った。
「旭さんの説明が一番簡潔なのですが……。では、ホワイトボードに時系列で並べていくとしましょうか」
そう言ったルミアはスラスラとホワイトボードに、【魔道砲】が結界を消滅させた後のことを書き始める。
その内容は下記の通りだ。
ーーーー[ダスク側が降伏するまで]ーーーー
1. 【魔道砲】の威力を見ても、戦意喪失しなかったゴミギルドマスター
2.そんなギルドマスターを見た旭さんは、自分の番までに攻撃を耐えきれたら検討することを伝える
3.一番手加減できるのがリーアさんであったため、旭さんが【神絢解放】という新魔法を使ってリーアさんを強化し、ダスク側に送り込む
4.リーアさんは闇魔法【影縫い】を用いて、騎士達を影の中に引き摺り込む
5.旭さんが影の中に作った隔離空間に閉じ込めた後、神霊闇魔法【黒闇地獄】を展開。
6.ゴミギルドマスターの懇願により、リーアさんは【黒闇地獄】を解除。
7.【黒闇地獄】を解除した後も幻覚の症状が続いていた為、ゴミギルドマスターは全面降伏を宣言。旭さんはその宣言を受け入れて、【完全範囲回復】を使用
8.騎士達の幻覚を解除する前に充填した【魔道砲】が暴発寸前だった為、旭さんがそれを【聖断】で受け止める
ーーーーーーーー
「簡潔にまとめましたが、おおよそこのような感じです。後ほど、王都に提出用の【過去投影】をまとめますので、詳しい内容はその時に確認してください」
ルミアはそう言うと、ホワイトボード専用のマジックペンを机の上に置いた。
正直俺の説明よりもわかりやすいと思うんだが……。
ギルドマスターも納得したような表情を浮かべているし。
「……色々と突っ込みたいことはあるが、内容は理解した。ちなみにリーア君に使ったという【神絢解放】?はどういう魔法なんだ?ウダルを出る前にはそんな魔法なかったと思うんだが」
ルミアが書いた内容を一瞥したギルドマスターは俺に質問をしてきた。
その質問は来るだろうと思っていたから、答えることは容易だ。
俺はルミアに【神絢解放】を付与してからギルドマスターの質問に答える。
「簡単に言えば俺の嫁限定で発動するバフ魔法だな。現在ルミアにその魔法をかけているが、能力値に大きな影響を与える。ユミの【神威覚醒】や俺の【神威解放】と似たような効果だな。【神絢解放】は他の【神威】系のスキルと重複することができないというデメリットはあるが、手軽にステータスを強化することができる。【神威覚醒】前のユミに使用すれば同じ効果を得られるし」
「ふむ……。ということは、旭君同様に神格が付与されるということか。……ただでさえ強い力を保持している人間がさらに強化されるとなると笑い事ではないな」
俺の言葉にギルドマスターは身体をぶるりと震わせた。
敵に回した場合の被害を考えるとゾッとしたのだろう。
……今のところ敵対するつもりはないから安心して欲しいんだが。
「まぁ、国とかが敵対してこない限りは使用はしないから安心してくれ。俺とユミの魔法だけでも問題はないしな」
「そうしてくれると助かる。……とりあえず、報告についてはこれで十分だ。ルミア君、先程言っていた動画のコピーはいつ頃できるのだろうか?」
「そうですね……。すぐにでもお渡しできますが、報告するべき場面とそうでない場面を編集したいので、数日時間をください。準備ができたら旭さんとともに届けに参りますので」
ギルドマスターはルミアの言葉に大きく頷いた。
俺と一緒に届けに来るという言葉から、転移ですぐにこれると考えたらしい。
まぁ、入り口に面倒な人間が湧いていたからその考えで正しいのだけれども。
……バルサンでも焚いておけば問題ないか?
「さて、旭さん。報告も終わりましたので帰るとしましょう。今夜は忙しくなりそうですからね」
「そうだなぁ。レーナ達も待っているだろし、そろそろ帰るか。ギルドマスター、構わないか?」
「あぁ、もう大丈夫だ。帰還したばかりなのにすまなかったね。下まで送るとしよう。例の連中がまだいるかもしれないからな」
ギルドマスターはそう言って椅子から立ち上がった。
それをみた俺とルミアも色々と片付けてから立ち上がる。
……そういえば、なんかおっさんがいたな。
まだいるのだろうか……。
いるとしたら面倒だな……。
俺はそんなことを考えながら、ルミアと一緒に1階に向かうのだった。
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