第116話 旭はダスクのギルドマスターの実態を知る

「ギルドマスター、俺とニナを交互に見つめてどうした?」


「……ヒッ!?な、なんだ!まだ何か用事があるのか!?」


 俺がギルドマスターに声をかけると、当の本人は悲鳴をあげて後ずさった。

 まだ何もしてないのになんで後ずさるんだよ。

 ……これからする予定ではあったんだけどさ。


「ゴミギルドマスター。貴方はこの期に及んでまだ旭さんに迷惑をかけるつもりですか……?」


「落ち着け、ルミア。……さて、ギルドマスター。俺としてはそろそろウダルに帰りたいんだが……。最後にやらなければいけないことがあってさ」


 ルミアが【狂愛】のオーラをギルドマスターに向けようとする。

 それを制止した俺は、ギルドマスターにそう呟いた。

 ギルドマスターは俺の次の言葉を待っているのか、恐怖に満ちた目で俺を見続けている。

 男にそんなに見つめられても嬉しくはないんだよなぁ。


「今回の件はダスクのギルドマスターの個人的なワガママによって戦争に発展しそうになった。だが、喧嘩を売った相手が悪かったから未然に防ぐことができた……ここまではわかっているよな?……たしかにルミアはなんでもできる完璧超人。仕事を頼まずとも率先していろんな仕事をやってくれていただろうから、冒険者ギルドに戻ってきて欲しい気持ちはわかる」


「……そうだろう?俺自身事務仕事が苦手なこともあって、ルミア……さんがいたからダスクの冒険者ギルドは問題なく運営することができた」


「だが、ギルドマスターはルミアに全部を任せすぎていたんだよ。お前はルミア自身がギルドマスターから押し付けられる業務に対して、嫌な気分になっていたのには気がついていたか?俺はウダルに着いた後に本人からその事を聞いたが」


「…………」


 俺の言葉にギルドマスターは無言で下を向いた。

 自分でも思うところがあったのかもしれない。

 ……と俺は考えていたのだが、ギルドマスターは違ったようだ。

 ギルドマスターは顔を勢いよくあげた。


「……だとしても、だ!!できる人間に仕事を依頼するのは別に間違ったことではないだろう!?ニナから聞いたが、旭の世界には『適材適所』という言葉があるらしいじゃないか!俺はただそれを実行しただけだ!……たしかにルミア……さんは俺に対してよく毒を吐いていたけれども!」


「……いや、アーガスさん。たしかにその言葉を教えたのは私だけどさぁ。……アーガスさんとあーちゃんの言い争いに私を巻き込まないでくれない?あーちゃんにこれ以上目をつけられたくないんですけど……」


 適材適所の言葉を教えたらしい丹奈はとても嫌そうな顔でギルドマスターを睨みつけた。

 だが、ギルドマスターは聞こえていないふりをするつもりらしい。

 丹奈の名前を出す事で道連れにしようとか考えているのかもしれない。

 ……正直、丹奈が向こうの世界の言葉を教えたこととかどうでもいいんだが。

 俺はギャーギャーと喚くギルドマスターに対し、威圧を込めて静かに問いかける。


「ほぅ……?そういう理由だから本部のある冒険者ギルドの許可を得て退職したルミアを認められないと?ダスクの冒険者ギルドに戻ってくる事を拒否した場合、軍を率いて脅迫する行為は正当な行為である。ギルドマスターはそう主張したいわけなんだよな?」


「……ウグッ!」


「……反論できないみたいですね。これに懲りたら自分の仕事はきちんと責任を持って自分で行ってください。……というか、別に私がいなくても問題はないでしょうに。何のために受付嬢達に教育を施したと思っているのですか。あの子達であれば問題なく冒険者ギルドの業務は回ります。だからこそ休暇届を出したのですよ?」


 言葉に詰まったギルドマスターを見たルミアは、呆れたようにそう呟いた。

 どうやらこうなることを予見して、受付嬢達に教育をしていたらしい。

 ルミアの教育を受けた受付嬢か……。

 完璧超人とまではいかないとしても、仕事は普通の人よりできそうな気がする。

 それなのに冒険者ギルドが回らないってどういうことなんだろう?


「それは……その……」


「……私が王都からダスクに戻ってきた時、ダスクの冒険者ギルドはてんやわんやの状態だったよ。これは私の推測だけど、ギルドマスターであるアーガスさんが、受付嬢の人達にやるべき業務の指示ができていなかったんじゃないかな?」


「……ニナ!?それは今言うべきことなのか!?」


「さっき私を道連れにしようとしたでしょ。申し訳ないけど、私は道連れにされるくらいならあーちゃんに情報を提供するよ?殺されたくはないし」


 ギルドマスターが弁明しようとしたところ、横から丹奈が割り込んできた。

 イケメン達も丹奈の言葉に同意するかのように頷いている。

 丹奈達[マスターガーディアン]の面々は、この件に関してギルドマスターを擁護するよりも事実を伝えたほうがいいと判断したようだ。


「……ゴミギルドマスター。今の丹奈さんの発言はどういうことですか?貴方は冒険者ギルドをまとめる人間としての自覚を持つように以前から伝えていたと思いますが。貴方からの指示が受付嬢達に共有されていなければ、日々の通常の業務すら回らないのは当然でしょう?……こんなことなら王都の本部ギルドに掛け合って、ギルドマスターの変更願いを提出しておけばよかったですね」


「……そこまでいうか!?俺だってそれなりには頑張っていたぞ!?」


「頑張るとしても至極簡単な業務だけだったでしょうが。貴方がしていた業務を全て伝えてあげましょう。旭さん、【クリエイト】でホワイトボードを創造してもらえませんか?」


「ホワイトボード?……あぁ、そういうことか。それなら別に構わないぞ」


 ギルドマスターの言い訳にプッツンときたらしいルミアは、俺にホワイトボードの創造を依頼してきた。

 俺は一瞬何に使うのかと思ったが、すぐさま使用用途を理解した。

 無詠唱でホワイトボードを出した俺はルミアの方に持っていく。

 ちなみに創造したホワイトボードは会社の会議室にあるような結構大きめのものだ。


「旭さん、ありがとうございます。それでは書き出していくとしましょうか。……?これは……ふふ。この力があればすぐに書き出せますね」


 ……俺が【神絢解放】をかけたのに気がついたか。

 まさかこんな形で使うことになるとは思わなかったが。

 俺の魔法を受けたルミアは、目にも見えない速さでホワイトボードに文字を書き出していった。

 その内容は……。


 ーーーーダスクのギルドマスターのこなしてきた業務()ーーーー

 ・冒険者になりたい人へのとても簡単な説明。


 ・名前の登録とステータスカードの発行。


 ・受付嬢の募集用紙の作成。


 ・ギルドマスター室の掃除


 ・お菓子の買い出し


 ・お茶入れ


 ・営業終了後の戸締り


 ・書類の確認と捺印


 ーーーーーーーー


「……これしかしていないのです。本来ギルドマスターであればこの数十倍の業務があります。それをこなしてきたのが私であり、私が鍛えた受付嬢達なのですよ」


「……うわぁ……。これだけしか仕事してないのかよ……。そりゃあ、ルミアが戻ってこなければギルドも回らないわなぁ。ルミアが行なっていた業務のほとんどを知らないんだから」


 ルミアが書き出した一覧を見た俺は哀れみの視線でギルドマスターを見た。

 ウダルの冒険者ギルドに行った時、あそこのギルドマスターは忙しそうに書類作業をしていた。

 だが、ダスクのギルドマスターがそういう仕事をしていたか……というと全然記憶にない。

 ウダルのギルドマスターの仕事量が本来なのだろう。


「アーガスさん……。これは流石に言い逃れできないよ……。アーガスさんがやっていた仕事のほとんどが下っ端でもできる範囲のものだもの……」


「ニナの言う通りだな。アーガスはもうちょっと仕事について考えるべきだろう」


 俺の言葉に丹奈と電子レンジが同じ意見だと言わんばかりに頷いた。

 まぁ、流石にあれしか仕事していないなら同じ気持ちにもなるってものか。

 俺が地球にいた時に掛け持ちしていたコンビニとスーパーのほうがきつかったぞ……。


「……それについては今後しっかり行なっていくと誓う!だから、ルミア……さん。ダスクの冒険者ギルドに戻ってきてはくれないか!?頼む……この通りだ……ッ!!」


 ギルドマスターはそう叫んだと思うと、ルミアと俺に向かって土下座をしてきた。

 空中土下座こそしなかったが、ギルドマスターがした土下座は綺麗に決まっている。


「……このっ!この期に及んでそのような……!!」


「だから落ち着けってルミア。……【クリエイト】」


 今にも激昂してギルドマスターの胸ぐらを掴みかかろうとしたルミアをなだめ、俺はあるものを創造した。

 その創造したものを手にギルドマスターに近づいていく。


 ーーーーカチリ。


 そして俺はその創造したものをギルドマスターの首に取り付けた。

 土下座をしていたギルドマスターが顔を上げて、チョーカーらしきものを触って首を傾げている。


「……ギルドマスター。今から俺が言うことを復唱してくれ。……いいよな?」


「あ、あぁ……。わかった。」


 ギルドマスターは言っている意味が理解できていないようだったが、特に反抗せず俺の言葉に頷いた。

 ……よし。

 俺は内心でガッツポーズをしてギルドマスターに復唱させる言葉を告げる。


「1つ。ダスクの冒険者ギルドは今後ルミアに戻って来いとは言いません」


「ダスクの冒険者ギルドは今後ルミア……さんに戻って来いとは言いません」


「2つ。今回のことを深く反省し、これからは心を入れ替えて業務に励みます」


「今回のことを深く反省し、これからは心を入れ替えて業務に励みます」


「3つ。ダスクの冒険者ギルドはもう二度と響谷旭とその嫁に対して敵対しません」


「ダスクの冒険者ギルドはもう丹度と響谷旭とその嫁に対して敵対しません……ってこれはなんだよ!」


 3つ目まで言ったところでようやくおかしいと感じたギルドマスターが大きな声を張り上げた。

 それと同時に……ソフィアの声が周りに響き渡る。


 ーーーー[『隷従の首輪』が正常に作動されました。これ以降、先に挙げた契約を破った場合には罰が与えられます]


「……隷従……って言ったか?……まさかッ!!」


 ギルドマスターはそこで俺が何を取り付けたのか理解したようだ。

 口をパクパクさせて俺の方を睨みつけてくる。


「それか?【神威解放】で至高神となった俺がギルドマスターのために創造した『隷従の首輪』だ。あぁ、そうそう。さっき言ったことを反故にするのはオススメしないぞ?ユミが渡した神器よりもはるかに強力だからな。下手したら死ぬかもしれん」


「何でそんな非人道的な物を俺につけた!!今すぐ外せ!!」


 俺が首につけたチョーカーが奴隷の首輪と同じものだと思ったギルドマスターが、俺に言葉だけで反論してくる。

 つかみ掛かったら死ぬかもしれない罰を受けることを恐れているのだろう。

 俺はそんなギルドマスターを見て、ため息をついた。


「こうでもしないとまた襲ってくる可能性があるだろ?今回は手加減したが、今度は手加減するつもりはないからな。枯れない桜の養分になりたくなければ大人しくしていることだ。……ちなみに、無理に外そうとしたらダスクの街が一瞬で消し飛ぶほどの爆弾を仕込んである。死にたくなければ外そうとしないようにな」


「……なんだよ……それ……」


 俺の言葉を聞いたギルドマスターはまたもや力なく倒れ込んだ。

 ……ちなみに、ダスクの街が一瞬で消し飛ぶほどの爆弾というのは嘘である。

 さすがにそんなもので死んだら死んでも死に切れないし。

 あの首輪にかけたのは外そうとする度に短小になっていく程度の呪いだ。

 まぁ、脅しもかけたし外そうとはしないだろう。


「じゃあ、やるべきこともやったから俺達は帰るわ。面倒だけどウダルの冒険者ギルドに報告しないといけないんでな」


 俺はそういうと、ルミアをお姫様抱っこした。

 抱き上げられたルミアは顔を真っ赤にしているが、尻尾ははち切れんばかりに振られている。


「それじゃあ、今後は心を入れ替えて業務に励むように。……【短距離転移】」


 俺は転移魔法を唱えて『大和』の艦内に転移した。

 転移した先にはルミア以外の4人が待機していた。

 艦内からはいい匂いが漂ってくる。

 俺が言ったようにご飯を作って待っていてくれたのだろう。


「……じゃあ、宴を開くとしようか!ウダルに着くまでのんびりするぞ!」


「「「「[はーい!!!]」」」」


 嫁達の楽しそうな声を聴きながら、ウダルの街に向けて『大和』の進行方向を設定した。

 オート操縦にしたから問題はないだろう。

 四神やゼウス達も送還したし、後はゆっくり帰るだけだな。

 はぁ……ようやく帰ることができる。

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